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16. 07. 22

引退したけどやる気まんまん(その4)

後半は嶋大夫さんによる浄瑠璃の素語りです。
普通、浄瑠璃は横でべんべんという三味線の方が
おりますが、素語りは、その三味線の人がおらず
語りのみのスタイルで行うものです。

でもまぁ最初の形態は、三味線はいなかったので、
これはこれでおもしろいのですが。

素語りのために会場の準備がありました。
最初から舞台中央に、漆塗り蒔絵金紋房つきの
豪壮な見台が準備されておりました。

背後にしつらえていたスクリーンを撤去し、
嶋大夫さんと司会者の机といすを撤去した後、
再び嶋大夫さんが中央通路から登場し、
席について、後半がはじまります。

見台に置かれた床本をまず両手で高く掲げて
一礼をした後、ゆっくりと床本を開きます。

謙介はもうドキドキしています。
謙介は座席の一番前の椅子に
腰かけていたのですが、
そこから嶋大夫さんのところまで、距離は
3メートルとありませんでした。

そんな近いところに、人間国宝がいらっしゃってですよ。
浄瑠璃を語っていただけるのです。

本日は壺坂観音霊験記から
澤市内の段を語っていただきました。
(さわしない、と読まないでくださいね。
さわいち、うちのだん と読みますです。)

壷坂観音霊験記のお話はもう
浄瑠璃の中では特に有名ですから
あらすじなどは端折ります。

この浄瑠璃の中の「みっつちがいの、、」
というところを落語家の枝雀さんが
落語の中でよく使っていました。

「みっつちがいの、、」といえば、浄瑠璃の
壷坂観音だ、と分かる人も結構多いくらい、
有名な演目です。


前にフランス人による文楽の本を
紹介した時にこのような文章を引用しました。

  太夫の声というこの素材は、
  激しい興奮状態にあり、
  忘我の境地にあることもしばしばで、
  唸り声、舌打ち、歯ぎしり
  甲高いヒューという音になって現れる。
  爆音に轟音、変貌自在な
  太夫の表情(とりわけ豊竹嶋大夫の顔は
  大きく震えているかのようだ)は、
  魂とか心の動きを表現するものとなることを拒否する。

その「とりわけ」の豊竹嶋大夫さんでございます。
顔のすべてといっていいほどの筋肉を
あるときは弛緩させ、あるときは大きく
伸ばし、今度は一瞬のうちに力をこめて
ぐっ、と押しとどめる。

その顔中の表情の千変万化のさまを見ているだけでも
すごいなぁ、と思います。
あ、もちろん、お里、澤市、それぞれの
声の出し方にも注意をしながら聴いて
いたのは言うまでもありませんけれども。

嶋大夫さんの声はいよいよ館内に響き渡ります。

全く衰えなどなく、前に聴いた時より
円熟味が出たように思いました。

本当にこれのどこが引退する、ような人の状態だろうか、と
たぶんこの時北条のふるさと館で聴いていた
200人ほどの人はみんなそう思ったのでは、
とさえ思いました。

澤市内の段を語り終えて
嶋大夫さんが両手をついて、客席に向かって一礼をすると
会場からはものすごい拍手が起こりました。

そこに花束を持ってこられた人がいました。
嶋大夫さんが大阪に出て浄瑠璃の師匠に
つくことを決意させた武田のかまぼこ屋さんが
大きな花束を持ってこられました。

見台の前から立ち上がって舞台の中央に出た
嶋大夫さんに大きな花束が贈られました。
さらに大きな拍手になりました。
武田のかまぼこ屋さんと握手です。

最後にもう一度嶋大夫さんは舞台の中央で礼をされ、
舞台を降りられました。


司会者が会の終わりを告げ、拍手のうちに
嶋大夫さんの会は終了しました。


嶋大夫さん、数か月前こちらのにローカル紙に
今までの感慨について寄稿されていましたが
本当に辛いばかりの人生でだった、
と書かれていました。
それでも、後進の指導を行いたい、とも
お書きでした。
今、どんなお気持ちなのだろう、と、
そんなことを思いながら会場を後にしたのでした。

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Comments

物凄く貴著な体験ですねかぶりつきですか正直羨ましいです。住大夫さんも随分と大変だったようですね。人間国宝になって本来ならもっと活躍される方なんでしょうに…トリでなくなるのならもっときちんと後進の指導にあたって欲しい等きちんとご本人に説明して納得してもらうといったことができなかったんでしょうか。以前の大阪府知事もそうですが予算があるのは分かるんですが明らかにこれって不要な公共事業なんではなんて事がとても多いんです。安○さんになってさらに増えたような景気なんて良くなってないし…増税も必要なのは仕方ないにしても無駄使いやめないと…遅まきながらマスコミがアベノミクスについてちょっと報道する様になったみたいですが相当締付けがきついんでしょうね。株価なんて年金を繰入れているから実際はもっと低いと思うんです。値上げラッシュだし…

Posted by: ゆき | 16. 07. 24 at 오후 12:45

---ゆきさん
 「予算があるのは分かるんですが明らかにこれって不要な公共事業なんではなんて事がとても多いんです」 本当にそうだと思います。大阪のなんばに作った「ワッハ上方」という府立の上方演芸資料館に行ったことがありました。そういう上方芸能に関した資料館をつくる、ということはとてもいいことだと思うし、今までなかったのが不思議なぐらいなのですが、展示が全然ダメでした。漫才に偏り過ぎなんです。後は松竹新喜劇の藤山寛美さんが出てくるくらい。 にわかとか、説教節とか、覗きからくり、浪曲、といったようなものがそこには全然ありませんでした。最初から館を作るにあたってのコンセプトをきっちりと煮詰めて作らないと、適当にいい加減なものを作りました、というのの典型みたいな施設でした。あれでは人は入りまへんわ、という見本です。どうも行政主導でやると、下手ですね。

Posted by: 謙介 | 16. 07. 25 at 오후 12:31

歴史上、配役に不満があり竹本座から豊竹座に移籍した例もありますが、今は人形浄瑠璃のメジャーな団体は文楽座が唯一ですから、引退しか道が無かったのですね。
素浄瑠璃は聞いたことありますが、三味線なしの語りのみと言うのは聞いたことがないので興味があります。
人間国宝は実演者であると同時に指導者として次世代に芸を伝える御役目があるのですが、文楽座と関係が悪くなると、文楽座に残っている弟子たちへの指導も難しいでしょうし、ともかく残念なことだと思います。

Posted by: mishima | 16. 07. 27 at 오후 12:52

---mishimaさん
 書き忘れていたのですが、嶋大夫さんの当日のいでたちは、黒紋付きの羽織に下は袴でした。(袴がものすごく上等のものだ、というのは一目で分かりました。よくある仙台平の縞の袴ではなくて、本当に細かい目のもので、遠くから見ると無地に見えるようなしゃれたものでした。さすがに三味線はないので、裃は付けていませんでした。語りのみ、というのも、文字通り語りがすっと耳に入ってきて、、これはこれでなかなかいいなぁ、と思いました。

Posted by: 謙介 | 16. 07. 27 at 오후 10:52

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