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15. 12. 05

僕はどこに行けばいいのだろう -『恋人たち』 を見て-

あちこちで話に上がっている、橋口監督の
『恋人たち』を見てきました。

この映画、謙介の住むような田舎でやっているのだろうか、
って調べたら、2週間だけ、11月の下旬から12月の1週目
まで、という短期間の上映だったので、あわてて行って
来た、という次第。

午後8時過ぎから、という上映時間と、映画館が独立系の
小さい映画館だったから、お客さんの入りはどれくらいだろう
と思いながら行きました。


お客さんは謙介を入れて4人! 


たまたま見に行ったのが、
12月1日で、この映画館、
毎月1日は1100円で映画が見られる
お得な日だったのですが、
それでも観客はたったの4人でした。

この映画について、
ウエブ上のいろいろなところで見た
評判はすこぶる良かったのですが、、
謙介は正直、あまり心を動かされる映画では
なかったのです。

主人公は3人。
アツシという、大切にしていた奥さんを通り魔に殺された男と、
乾ききったような夫と姑との日常生活を繰り返しつつ
その一方で小説や美少年のイラストを描くことで現実から逃避して
何とか心のバランスをとっている主婦、瞳子と、
他者の感情というものを全く理解できないゲイの弁護士、四ノ宮と。

映画のあらすじは、検索してもらったら出てくるので
そちらを見てください。

それでね、見終わってから、世間の人は良かったとか
泣いた、っていう人もいたのに、自分は
どうして心を動かされなかったのか、
って、そのことをずーっと考えていました。
どうして、自分はこの映画に心を動かされることなく
見終わることになったのだろう、、。

まるで主人公のひとりの四ノ宮じゃないか、とか
思ったりしました。


それで、あ、そうか、と、思ったのが、
この映画に出てくる主人公たちって、自分の人生を
生きる中で、出てきた問題と向かい合って、いろいろと
自分自身が思ったり、周囲に助けられたりして、
再び自分の人生を歩きはじめる、というお話なんだけどさ。

たぶん、都会の一人暮らしの人がこの映画を見たら
この映画はとても身近に深く思うところがあって
感動した、という評価になるんだろうな、と思ったりした。

都会に住む人と、田舎に住む人とは大きなギャップが
あるように謙介は思ったの。

都会に生きていたら、この映画の主人公たちみたいに
自分の人生の問題を自分なりに解決しながら
生きる、生きないといけない、というふうになるのだろうけれど、


田舎に住んでいたら、自分の人生なのに
主体的に生きられないような人生を送っている人が
いくらでもいるもの。

家に帰ると、もう自分のことを自分の息子って
分からなくなってしまったおふくろさんがいて
そのおふくろさんをなだめすかして、
食事させたり、おむつを替えたり、って
面倒を見ている、って言ってた。

彼は結婚してたんだけど、おふくろさんが
そういうふうになって、息子の奥さんのことを
認知症が進んで、泥棒がきた!泥棒がきた!っていうようになったし、
いろいろと世話も重くなってきたので
とうとう離婚になってしまった、と言ってた。
施設はいっぱいで入れないから家で面倒みるしかない、って。


土曜の夕方なんかスーパーに行ったら
歳を取った親と一緒に買い物に来ている
50代の男の人、なんて、結構多いもん。

自分の人生なんだから、
自分が自分の思うように生きたらいい、
っていうことなのだろうけど、

24時間、休みなく、認知症の親の介護をしていて
それもいつまでこんな親の介護をし続ける状態が続くのか、
予想もつかない。
親の世話でどこにも出かけていけない。
誰かに出会う機会もない、
オシャレをしたり、おいしいものを食べに行くなんて
無理。 

ウエブ上のニュースでも
あちこちで、永年の介護のしんどさからの殺人事件とか、
暴力とかのニュースを良く見る。
家族のために勤めていた仕事を辞めざるを得ない
介護離職なんて、ものすごい数に上がっている。

家族の世話だけで、自分の人生を擦りへらしてしまって、
自分がどうやって生きていこうか、ということさえ考えられない人が
田舎には普通にいるの。
自分の人生の折り合いさえつけられない。


そういう意味で言えば、
妻夫木くんが出てた吉田修一原作の『悪人』っていう映画は、
田舎に住んでて、自分の手で変えられない、どうしようもない日常を
生きてて、、、っていう状況をすごくよく表現してた、と思う。

だからものすごく胸に響くものがあったなぁ、、。


こないだも言ったけれども、謙介の友達との
会話なんて、親の介護とか通院とか
家をどうするか、とかいうような話ばっかりだもん。
自分の人生をどうするのか、なんて
とてもじゃないけど、考えられない。

そういうふうな状態の人も田舎では結構いて
それでも何とか、自分の気持ちと折り合いをつけながら
やっている人が結構いるんだ。
自分の人生さえ生きられない、、、。


そういう都会で住んでいる人の生活と、
田舎に住んで親の介護をしないといけないような状況にいる
人間の状況のギャップが、この映画、都会では人が結構入っていたのに
田舎では観客が自分を入れてたったの4人しかいなかった、
っていうことだった、っていうことなんだろうと思う。


自分はどうしたらいいのだろう。
どこに行こうとしているのだろう。

確かにこの映画を観たことで、
そういうことを改めて考えさせてもらう機会には
なったなぁ。

それがこの映画の収穫だった、
といえるのかもしれないなぁと
最後に謙介はそう思ったのでした。


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