水無月京都行(5)
せんせいの家には1時過ぎに着きました。
「よう来たな。まぁおあがり」
せんせいの家は、阪急の桂駅から
ちょっと離れた閑静な住宅街の中にあります。
せんせいの勉強部屋に入ったら、大きな段ボールの箱が。
「ああ、これなぁ、新聞の切り抜きやねんけど、、」
整理しないで、新聞から切って入れただけの状態のようです。
「もう新聞の切り抜きやめるわ。」
謙介も身に覚えのあることで、、切り抜きをして、問題はその
切り抜きをどうするか、なんですよね。ノートに貼ってしまったら
またどこに貼ったか忘れるし、、かといって、切り抜いたままでは、、
本当に悩ましいことです。
そうこうしているうちにせんせい、別の部屋から
板を持ってきました。
「今からコーナ○へ行こ。」
「何をしに行くんですか? 」
「この板にかんなかけてもらうねや。」
「はぁ、、、」
「それで、謙介に頼みがあんねん。」
「お寺の看板書いてくれる? 」
「あ、この板に、ですか? 」
「そう。」
ひえええええ。
そんなら、すぐ用意するわ。
せんせいが立ち上がります。
こういうときのせんせい、それはそれは行動が速いのです。
79歳とは思えない。
板に緩衝材を巻いて、「持って」と俺にその板を渡すと
免許証とかお金の入ったカバンを持って玄関に行きます。
こちらもあわてて後に。
玄関の戸締りをして『アクア』のエンジンをかけると
出発です。
「コーナ○って、桂にあるんですか? 」
「あったと思うで。」
と素晴らしいお答え。
車はいくつかの交差点を右に行ったり左に曲がったりしながら
狭い道路を走っていきます。不意に視界が広がったと思ったら
コーナ○ではないのですが、ホームセンターに着きました。
うーん、板をかんなで削ってくれるサービスなんてあるのかなぁ、、
謙介、そんなの聞いたことがありません。
店に入って、店員のおねいさんに聞くと、「そういうサービスは
うちはしてません。」と言われてしまいました。
板を持ってまた車に乗ります。
「そうしたら梅津やな。」
せんせいはまたややこしい道を通っていきます。桂離宮の前に出ました。
桂川を渡って、車は西京区から右京区に入りました。
「ここや。」見たらコーナ○ではありませんが、一応ホームセンターでした。
入って今度は男の店員さんに聞きます。
「かんなで削るのはしていませんが、電動やすりを使えるコーナーが
ありますから、そこで自由にやってみてください。」と言われました。
電動やすりに新しい紙やすりをつけてスイッチを入れます。
ぐわんぐわんぐわん、とものすごい音がします。
みるみるうちに木の表面が薄く削られて
きれいな色の面に変わっていきます。
しかし、なんで謙介、こんなところで電動やすり機を動かしているのか。
10分くらいやったでしょうか。
端から端までかけて板が見違えるくらいきれいになりました。
電動工具の使用料と紙やすり代50円を渡しておしまいです。
また車に板を積み込むと、桂まで帰ってきました。
「墨汁で書くか? 」
「いや、せんせい、墨、すって書きます。」
せんせい、奥から硯と墨と筆を持ってこられました。
硯に水を入れて、墨をすります。
看板用の字なので、墨も濃いほうがいいですから
時間がかかります。
30分くらいすりましたかねぇ、、、
「字体はどうしましょう。」
「まかせますわ。」
ということで筆を持ちました。
それがさっき電動やすりを使ったので腕がヘロヘロで
字が思うように書けません。
かと言って看板ですから
紙みたいに失敗したら次の紙、ということも
できません。失敗は許されません。
なんとかへろへろの腕で頑張って書いたのが
これです。
(あさひざん、と読んだら、「こら、ちょうにちざんや」としかられてしまいました。)
書きあがったら一大事業を仕上げたような気分になりました。
結局せんせいのところに一晩泊めていただいて
せんせいのパソコンの調整やら、本の資料探しやらお手伝いをしました。
せんせいの奥さんは、認知症の症状が出ているので
病院に入っています。 お子さんは娘さんが3人、この桂の周辺
(向日町とか長岡京とか)にお住まいです。
夕食はいつもは娘さんのところに行って一緒に食べるそうですが
この日の夕食は、近所の和食屋さんに食事に行きました。
まだせんせいお元気ですし、自立して自分のことは何でも
できているので、いいのですが、、
とはいえ79歳ですからねぇ、、。
同級生たちと、なるべくせんせいの
ところに行って会うようにしような、とは言っています。
お話、今日でおしまいにしようと思っていたのですが、
もう一回だけ付け足します。
(今日聴いた音楽 ワーグナー作曲 楽劇ワルキューレの騎行
アムステルダム コンセルト ヘボウ 管弦楽団 演奏
指揮 エド・デ・ワールト )
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Comments
今気付いたのですが、私の新しいブログに導入した絵文字と、謙介さんのコメント欄で使えるものが同じでした。
ココログのシステムが、Wordpressと同じものかのかもしれません。
プラグインが共通ではないかと思います。
看板を、しかも寺院のものということで、とても凄いことですね。
「はい」と受けてしまう(受けさせられる?笑)謙介さんがもっとすごいです。
書道に関しては全くのど素人の私なので、的外れなコメントになりそうですが、「世」という漢字に何か惹かれました。
画数でいえば最後の“L”の部分です。
“L”の横線部分を伸ばして書くのは、画数でいう1画目の“一”とのバランスが重要なので、とても神経を使う部分だと感じました。
絶妙なバランスですね。
素晴らしいです!
そして“L”の横線が若干右下がりなのも絶妙であります。
“尊”と“寺”は難しくて分かりませぬ。
書の世界は奥深いですね。
Posted by: タウリ | 13. 07. 06 at 오후 6:16
---タウリさん
もうせんせいのめちゃ振りには慣れたというのか、昨日今日にはじまったようなことでないので、。(笑) またか、というようなことなんですが。実は前にもいきなり「ついたての字、書いてぇな。」ということがありまして、、。せんせいのお寺のついたての字を書いたことがありました。
最初、書くときは、ひえええええ、と思うのですが、まぁ何とかなるだろう、という気持ちもありまして。
仕事場では本当にいろいろなムチャなことを言ってくる人が多いんです。ものすごく狭いところに何百字も収めて書いて、とか、今回みたいに労働した後で、手がヘロヘロの状態なのに書いて、とか。コンディションで行けば、もう無理、といいたいのですが、そういう状況でばっかり書いてきたので、今回も割と平静な気持ちで書けたのかもしれません。
字、お褒めいただきありがとうございます。
Posted by: 謙介 | 13. 07. 06 at 오후 9:41