奈良へ(1)
山崎から乗った快速電車、JR大阪駅に
着くころには、空はどんよりと曇って、
今にも雨の降りそうな雲行きに、、。
でも幸いなことに雨はまだのようでした。
地下鉄で梅田から心斎橋に出ました。
梅田の辺、もうあっちこっちで改修工事だの
新設の工事だのをしていて、
その都度あっちへ回り道しろ、こっちを通れ、と
本当にややこしい、ったらありません。
春に京都ホテルに行くときに、阪急梅田の駅を
通りましたけれども、 中にある動く歩道、というのか
ムービングウォークというのか、あれ、
少しずつ、少しずつ、台数が減っているように
思うのは俺だけですかね。
この改造工事が終わったら、リニューアルという
お美しい言葉の陰で、また数を減らすんじゃないか、と
思えて仕方がありません。
大体が、以前は阪急の梅田駅は、もっと南にあったのです。
梅田駅をカタカナのコの字型に取り囲むように阪急百貨店が
ある構造でした。それを、阪急のホテルとか商業施設を
作りたい、ということで駅を北のほうに移設したので
そのために動く歩道を造って、その遠さを解消させようと
したのに、、本当に阪急の梅田はバリアフルな構造です。
面倒くさいったら。
まぁいいや。今回はJRだったので、JR大阪駅から
地下鉄の梅田駅に行きました。
心斎橋で地下鉄を降りて、直結している
旧そごうの建物に入ってみました。
以前は地下の食料品とか各地の銘菓が
売られていたフロアは、いまや若い女性向けの
ファッションのフロアになってしまっていて、、。
おぢさん、しみじみと無常感さえ感じてしまいました。
その中を通って地上に上がり、ちょっと歩いたら
「ばらの木」に着きました。
お昼ご飯ひとつ北の通りにある明治軒か、このばらの木かどっちが
いいかなあ、と思ったのですが、今日はこちらにしました。
ここでお昼にします。 この店はオープンキッチンで、客席も
カウンターだけのお店ですが、注文した自分の料理が
どうやって作られていくのか、目の前で見られるのが
いつ見ても見飽きません。 それに安心でしょ。
最初にポタージュスープが出てきました。
業務用のスープじゃなくて、自分のところで
味加減をみながら作っているスープの味です。
ハンバーグだって、種をサラダ油をつけた手で
左右と軽く交互に受け渡ししながら形を整えて
空気を抜いて、丁寧にフライパンの上に置いて焼きます。
その片方で、エビフライとクリームコロッケを、、。
エビフライの海老は、クルマエビを使っています。
前にも言ったように今やホテルの料理だって
冷凍食品とか近所の出前のものをお皿に取って
並べて出している、というご時勢です。
プロの技を見るのもすばらしい、と思いますし、
製作工程に安心をもてるじゃないですか。
お料理もおいしくいただきました。
実は、このばらの木の店のある通りの一本北の
通りが、先日「大阪ミナミで通り魔事件が起こった」あの通りでした。
ばらの木を出て、ちょっとそっちに寄ってみました。
通りは心なしか以前の週末より人通りが少ないように
思いました。 犯人が大丸で包丁を買い、この道を逆に
歩いて行ったのです。いまだ真相はわかっていません。
どういう精神状態で、どういうふうになって
ああいう凶行に及んだのか、、。
歩きながらそんなことを考えていました。
そうして西に歩いて、心斎橋を通り越して
御堂筋に出ました。ここで左折して南に向かいます。
道頓堀川を渡って道路の西側に行き、さらに南に下がると
近鉄・阪神のなんばの駅に出ます。
ここから快速急行で奈良に向かいます。
言語学のネタになる駅名表示板です。
同じ「ん」の音でも、「なんば」、の「ん」は、口を閉じて
発音しますから、「m」音。 「きんてつ」の「ん」は「n」音
という違いがあります。さらに南海電車の「ん」は「ng」音です。
表記は同じ「ん」ですが、実際の発音はそういう違いがあります、
ということです。
あ、それで、これ、高島○全店舗の載った総合案内の
韓国語のページから取ってきたんですけど、、
ここのハングルの「なんば」の表記って「m」音じゃ
なくて、「n」音になっていますね。
でも、大阪店とも京都店とも何もなくて、いきなり
高島○百貨店、だけなんですね。これもちょっと
びっくりでした。
で、なんばからきんてつの快速急行に乗って奈良に来ました。
最近の奈良、ちょっとさびしいことが続いてありました。
奈良の街では老舗だった、二つの店が去年から今年にかけて
相次いで閉店してしまったのです。
一つはこの近鉄奈良駅近くの東向商店街の中にあった
三笠の「湖月」 もうひとつは小西町にあった
喫茶の「アカダマ」です。 湖月はちょっと前にも
一度店を閉める、という話があって、その時は
結局もうちょっとがんばる、ということで
閉めなかったのですが、今回は、何と隣に
京都のお菓子屋ができて、そこも同じような
三笠を売り出してしまい、そのことが
結局原因になってしまったようです。
今はその店のあとが、柿の葉寿司のお店に
なってしまっています。
オフクロの一番上の姉が
奈良女子高等師範学○を卒業したのですが、
その湖月、おばちゃんの学生時代からのなじみの店だったのです。
(それくらい昔からあった店でした。)
そういうわけで奈良に来たときにはここでお土産を
買っていたのですが、、もう奈良土産として持って帰ることが
できなくなってしまいました。
ここの看板、俳人の河東碧梧桐の書で、
なかなか渋いものだったのですが、、
それももう見ることができません。
そうしてちょっとここで休憩しようと思っていたのですが
それもできず、諦めて東に行くことにしました。
緩やかな坂をあがって、興福寺を右に見つつ
歩いて行きます。
正面には、芝生の緑の美しい若草山が木々の間越しに見えました。
若草山と御蓋山(三笠山)は別の山です。
御蓋山は春日大社の後ろの春日山の別称であって
若草山と同じではありません。これ、混同している
サイトをよく見ますけれども、それは間違いですし
両者は別物です。
どうしても3時に行っておかないといけない場所が
あるので、今日は三条通の書道用品のお店も興福寺も猿沢池も
ひたすらパスして東に急ぎます。
鹿の間を縫うように歩いて、奈良国立博物館に到着です。
ここで今、古事記の展覧会をやっています。
古事記の撰録1300周年記念展覧会ですね。
(あと8年して2020年になったら、おそらく今度は
日本書紀編纂1300周年のイベントをやるに
違いありません。笑)
5月のはじめだったか、古事記学会から年会費を
払いなはれ、という告知と、「今年の古事記学会は奈良でっせ。
いっしょに奈良国立博物館で古事記の展覧会を学会主催で
やってますさかい、会員諸氏は、見にいきなはれや。」というお達しが
きたのでした。そのイベントがこれ、ということです。
今年の古事記学会の研究発表、というより、最近の学会、
正直言ってあまり行きたくなかったんですよね。というのが、
最近の学会発表を見ていると、文学の研究発表ではなくて
統計学の発表じゃないか、というふうな発表ばっかりなのです。
「こういう言葉の用例」が、古事記の中には何例あって、
だからこういう表現はこの時代の独特な言い方だ、
というような発表。 それでその用例の数の統計がずらずらと。
そればっかり。
確かに同時代の用例を見て、そこから推論を立てる、というのは
理にかなった研究方法ではありますが、
もうそればっかりで、、、。
まぁね、正確な歌の解釈というために、そういうことを
するのはわかりますが、歌の解釈とか、その歌にこめられていた
人の気持ち、っていうのを全く考慮に入れなくて、
この例は何例あって、と数字ばかりの発表って、、ねぇ。
そんな研究スタイルばっかりで、従来の語句の意味を
歴史学とか考古学の研究成果から類推していって
古代の人の気持ちを考えて、歌の解釈を行うというふうな
歌の解釈は、排斥されてしまったのです。
発表の後の質疑応答タイムになりますと、
その見解の相違で、討論ではなくて、お互いをやり込める
ための論のぶつけ合いしかしていないみたいで、、
そういう論争の好きな人もいるんでしょうが、
謙介はそういう論争のために別に古事記学会の会員に
なっているわけでもないので、正直そんなものは見たく
ないのです。
そんなふうに言葉の同時代的用例を言う人が多いのですが
さすがにこういう展覧会ともなると、やはり歴史学・考古学
の方向からのアプローチが必要ですから、展覧会場で
いただいた資料を見ると、そうした方向から研究している
(研究していた)先生の著書が参考資料として使われていたりして。。
こういうときだけ、その先生の研究結果を利用するわけね、って
見ていて複雑な気持ちになりました。
いまはなき日吉館の手前から右斜めに道をとって、国立博物館のほうへ
行きます。こちらの建物は今は仏像を中心とした常設展の
展示になっていて、、
本当にここに来たのは久しぶりです。
大学の頃は、史学科の恩師・友達とよくここに来ては
仏像の見方を教わりました。あの頃一緒に来ていた
友達の一人はもう亡くなってしまい、思い出の中でしか
もう会えません。そういえば、あのときのここは
晴れていたよな、あのときは寒くて、、と
かつてここに来たときのさまざまな記憶が
浮かんできました。昔はここが博物館の正面玄関だったのですが、、。
古事記の展覧会は、こちらのほうでやっていました。
古事記の撰録は712年なんですけどね。
ほぼ同時に作られた日本書紀が朝廷の公式の歴史書として
作成途中にも、成立後も朝廷内で、何度も日本書紀の内容を
官吏に徹底理解させる講習会が開かれて、その内容を
如何に浸透させるか、ということについて時の政府も腐心をして
行ったのに対して、古事記は、そういうものは何も無くて、
712年にできました。それだけで、長年ずーっと、歴史の表舞台に
出てくることはありませんでした。 720年の日本書紀は
天皇にまで見せていますが、古事記は天皇は
見ていません。あくまで私的な伝承の書ですからね。
ですが、どちらが読みものとしておもしろいか、
文学性が豊かなものかといえば、あんな日本書紀なんて、
全然おもしろくもなんともありません。日本書紀なんて
単に年表を見ているだけのようなものです。
だから文学的におもしろいといえば
そりゃ断然古事記でしょう。古代の人の息遣い、感情、思い、
そうしたものが、行間から今の私たちに聞こえてくるような
気がします。
展覧会の出品目録については、事前に古事記学会の総務
からプリントが来ていて、大体分かっていたので
謙介的には、確認しながら見ていく、という感じでした。
中に太安万侶の墓碑があったのですが
この墓碑は、本当にすごい発見だったと思います。
奈良市此瀬町の茶畑で墓碑が発見されたことで
太安万侶の存在が改めて確かめられた結果
それまで言われていた古事記偽書説が一掃されて
しまいましたから。
古事記の写本では一番古い名古屋の大須観音が持っている
真福寺本が来て展示されていました。
展示用に開かれたページも、古事記の物語の中では
一番ポピュラーな(笑) 伊勢の能褒野でのヤマトタケルの
最期の部分が開かれていました。
「なんて書いてあるのか読まれへんなー。」って見ていた
おばちゃんが言っているので、ついつい、
見開きのページ、左側の、そこ、夜麻登波で、やまとは、、
くにのまほろば、、って書いてあるんですよ。、、たたなづく
あおがき、、わかります? 」
「あ、これですか。」
「次の歌が命のまたけむひとは たたみごも へぐりのやまの、、って
書いてありますよ。分かります?」
「あ、はいはい。ようわかりました。おおきに。
でも、 あなたえらい、お詳しいですね。」
「いーえいーえ。」
古事記展を見て、地下通路を通って国立博物館の旧館である
なら仏像館に行き、しみじみと仏像を見ました。
仏像だけ見てわざと、案内表示を見ないで、
これは貞観時代、これは、、と一体一体の仏像の特徴を
よく見てから見当をつけて言ってみました。
それから案内表示を見て、合っていたかどうか
復習をしました。
たまにこうやって復習をしておかないと、、。
おかげさまで全部合っていたので安心しました。(笑)
地下通路にあるミュージアムショップで絵葉書を買ってから
再び地上に上がって、博物館を後にしました。
外に出ると、細かい雨が降り始めていました。
でもまだ傘をさす、というまでにはいかず、
そのかわり急ぐことにします。
1回で奈良編終わるつもりだったのですが
長くなったので今日はここまでとします。
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Comments
湖月、無くなったんですか!
湖月の隣にできた京都の和菓子店、最近目立つようになってきました。
前は三条通だけだったと思うんですが、新京極と四条通にも店を出し、店頭に常に店員がいて道行く人に声をかけ、夜遅くまで(9時ごろかな)店を開け、積極営業って感じです。
生き馬の目を抜く世の中、と言えばそれまでですが、ちょっと寂しいですね(ノω・、)
Posted by: mishima | 12. 07. 10 PM 12:50
奈良ですね。もうずっと奈良行ってないです。
次の記事も楽しみにしています。
Posted by: ともぞう | 12. 07. 10 PM 1:44
---mishimaさん
今年の、ごく最近です。ですからgoog..の地図を見たら、まだしっかり湖月だったりするほどです。今はそこに柿の葉寿司の店が入っています。そりゃあ、商売だから、どこに店を出したっていいじゃないか、って言われたらそれまでなんですが、、、商道徳的にそれってどうよ、っていう気がします。そうなんです。おっしゃるように寛、、とかいう店、道行く人に積極的に声かけしてセールスしています。だから、お客も寄ってくるし、、しかし老舗はそんなことはしなかった、それで、ということなのでしょう。しかしそれでいいのですかねぇ、、釈然としないものが残りました。
Posted by: 謙介 | 12. 07. 10 PM 4:06
---ともぞうさん
お元気でしょうか。お久しぶりです。いかがお過ごしか、と案じていました。お言葉うれしいです。半分義務(笑)で行ってきました。 またいつかご一緒したいですね、奈良。
Posted by: 謙介 | 12. 07. 10 PM 4:07