北の斎場
どつき漫才の正司玲児さんがなくなった、と
金曜晩のニュースで聞いた。
ちょっと前にNHKラジオの上方演芸会に出ていたから
相変わらずなんだと思っていたけど。
小さいときから見ていたので、ただただ
ああいういうものだと、しか思っていなかったけど。
近頃じゃドメスティックバイオレンスなんて言われたりするけど
あの漫才については、ドメステッィクバイオレンスだから
とかいうような次元ではないような気がする。
しかしすごいよね。
夫婦だったのに、旦那のほうが外に女の人を
作って出ていって、離婚はしたけど、それでも
コンビを解消しないで漫才を続けた、って。
「わしゃ、あんたが出て行って乳飲み子抱えて
どんなに苦労したか。」と敏江さんが漫才の中で
よく言ってたけど、そんな「現実」まで芸にしてしまうの、って
本当にすごいと思う。
そして葬儀は大阪の北の斎場で、とあった。
大阪には北と南にそれぞれ斎場がある。
北は天六。南のそれは天王寺。
天六、(天神橋筋6丁目)の近くの北の斎場。
あそこなら俺も行ったことがある。
横にフィギュアスケートの
高橋くんと織田くんの行ってる学校の
校舎があって、そこからもうちょっと行くと
毛馬の閘門(けまのこうもん)の
あるとこ。
俺が行ったのも、ちょうど今くらいの時期だった。
というのも、こないだ12月9日が命日だった友達が
そうだったから。
友達の場合は自宅近くの阪急の三国(みくに)の駅近くの
お寺で告別式があった。
その告別式の時に、妹さんから、「○○先生と謙介さん、
もし、お時間があったら、斎場まで来ていただいて最後まで
見届けてやっていただけませんか?」
と言われて、一緒に行った。
そうして、棺の窓をあけて、皆で彼の顔をもう一度見て
最期のお別れをした。お坊さんがもう一度読経をした後
棺の扉は閉められた。そうして今度は
炉の扉が開けられ、友達の棺は係りの人の
手によってゆっくりとその中に入っていった。
炉の扉が再び閉じられ、大きな音がして炉に
火が入った。
炉は8つくらいあっただろうか。
ちょうどわれわれが最期のお別れをして、休憩室に
行こうとした時も、後から後から霊柩車が到着していた。
あ、そうか、と思ったのは、来た人たちがみんな違った宗教
だったこと。
黒塗りのハイヤーから神主さんが下りてきたり
神父さまが下りてきたり、お坊さんが下りてきたり、
と本当にいろいろだったこと。 やっぱり大阪みたいな
都会だと、さまざまな宗教の人がいるんだなぁ、という
ことを思った。
それから4時間、先生と俺は時間をつぶした。
「あいつ」と一緒にした仕事のこととか
途中で終えてしまうことになった研究の話とか。
その斎場の周辺を歩いてみたり、「歩きつかれたなぁ」と
言っては、途中喫茶店に入ってみたり。
先生と俺はぼそぼそと話をした。
時計を見て、そろそろかなぁという時間、
また炉のところに戻ってきて、、
今度は手押し車から引き出された
彼の骨を拾った。
片方は竹、片方は木の箸で、
骨を取っては、箸から箸へと渡していった。
普段だったら、
箸の材質は木なら木、竹なら竹、と
両方同じにそろえないといけない、とか
お箸同士、つまんだままの物を渡してはいけない、とか
日ごろは許されないタブーだったけど、
何せお葬式だから
日ごろのタブーがすべて「正式」で
それがやはり「特別」なのだ、と俺は思った。
長く病の床にあった友達は薬の影響だろう
骨がもろくなっていて、ちゃんと大きく残っている
骨があまりなかった。
あいつの骨を拾いながら、
「オマエ、早すぎやんけ。何でや。」
と何度も何度も心の中でそう思ったけど
その気持ちはどこにも行けないまま
そこにとどまらざるを得なかった。
あれから17年。
この時期になると、その時のことが
繰り返し繰り返し頭に浮かぶ。
そうして元気だった時のあいつの
表情や声を思い出す。
本当は、自分でもいいと思ってるのに
わざと投げやりに言って、ダメみたいに言う癖とか
痛々しいくらい相手のことを考えて
用意万端やってて、相手がどんなふうになっても
ちゃんと対応できるような準備をしていながら
黙ってて何にも言わない、とか。
「どや、(研究)やってるか? 」と
もし、今、あいつに言われたら、どうしよう。
最近、仕事にかまけて、自分の研究、全然進んでいない。
ずーっと立ち止まったままだ。
「あかんがな。ねじ巻いてやらへんと。分かってるのんか? 」
「うん。」
「分かってへんやろ。」
「分かってるわ。」
「ほんまに、まじめにやれや。」
「うん。」
とまぁ多分これくらいのことは言われそうだ。
いや、おそらく、空の上から、いつも研究サボりっぱなしの
謙介のことなんて、十二分にお見通しなんだろうな。
「そやけど、おまえ、ええなぁ、いつまでも歳取らへんの。」
「あほ、死人が歳取るか。 」
頭の中にあいつが出てくると、
いつもそんなふうに何か言った場面が
浮かんで、いつも彼はすうっと
知らない間に消えてしまう。
今、どうしているんだろ。
たまには夢の中にくらい出てこいよな、と
思ったりした。
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