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10. 04. 23

天下茶屋

何人かの方から、「謙介、今年、こんぴら歌舞伎は行くの? 」
と訊かれたのですが。はい、今年も行く予定です。

Konpira2010


今年、大看板は「全部銀座方面に吸い取られちゃったわねぇ。」という
声もありはしますが。(笑) そういえば、いつもここに
お言葉をくださるmishimaさんが、歌舞伎座にいらっしゃって
「御名残四月大歌舞伎」を見ておいでになった、とのことです。
いいなぁ。

毎年恒例のこんぴら歌舞伎初日前日にあった
開幕を告げる金刀比羅宮参詣とお練りも、
去年の勘三郎丈のときは、沿道の見物人が
2万2000人だったのに対して、今年は1万5000人、と
7000人減っていて、、そういうところ、微妙に
今年の出演者の地味さが現れているようにも思われます。

でもまぁ、個人的にはらぶちゃんも出演しますし、もっとうれしいことは
今年もまた元気でこうやって公演を見ることができるのですから、
本当にありがたいことだなぁ、と思っています。

こんぴら歌舞伎って、歌舞伎座だの南座というような大きな
コンクリート造のハコではなくて、あのこじんまりとした
江戸時代の劇場の金丸座で行うこと自体に
他とは異なった上演の意義があるように思います。

まずこんぴら歌舞伎は一切マイクは使いません。
すべて役者の肉声そのままです。
客の聞くのは生の役者の声です。

それから客席と舞台が非常に近いということ。
前に海老蔵の「暫」を見た時、
最後の場面、花道で海老蔵が方向転換をするときに衣装の袖を振ったとき
花道の最前列にいたうちの姉にその袖がバサッとかぶさってきた、という
ことがありました。南座とか歌舞伎座ではこういうことはない、と思います。

観客も、この芝居小屋で見るんだ、という意識で来ていますし、
演じる側も、舞台から客席の距離が近いですから
観客のそうした意識を敏感に感じることができて、
観客と演者の一体感がお互いの気持ちを高めあって、
結果、想像の枠を超えた芝居の効果が出る時があります。
昨年の勘三郎丈の「俊寛」は、まさにその典型だったように思います。
舞台の中央、舞台を圧するように屹立した岩の上に、俊寛がよろよろと
のぼり立ち、島から離れていく御赦免の船を見送る場面は
舞台が近いだけに、視覚的に岩が屹立して見えます。
その上に一人取り残される俊寛。
これからの彼の人生。松の木を持って身体を支えようとした時、
その枝は簡単に折れてしまいます。
一人、孤独と無念さに耐えながら、命の終わりを迎える時まで
この孤島で死を迎えなければならない、そんな「俊寛」の孤独、
嘆き、悲しみがその芝居を通して観客の側にはっきりと
伝わってきました。本当にすばらしいものだった、と今も改めて
思います。

それから、こんぴら歌舞伎は自然光で公演をしますから、公演は
日中しかありません。暗くする場合は雨戸を閉めて、ろうそくの光で
行います。
電気の照明ではない、ろうそくの照明です。
回り舞台、舞台のせり、すべて人力です。
そうした今の劇場とは異なった空間で
演じられる、という部分に、やはり他とは
違った独特の雰囲気があるように思うのです。
そうしてその前後にはこんぴらさんにおまいり、
というのも必ず。歌舞伎と一緒に
こんぴら参詣、というのがまたいいですね。
東京の歌舞伎座でも名古屋の御園座でも
都会の劇場は、芝居がはねて外に出たら
車の行き交う喧騒の中に突っ込まれて
しまって芝居の余韻も何もあったものでは
ありませんが、琴平は、小屋を出ても
のどかな風景で、小屋の周囲まで車が、、
ということはありませんから、うぐいすやら
めじろなどの野鳥の鳴き声を聞きながら
ゆっくりと芝居小屋をあとにすることができます。
このゆったりとした気持ちが、ちょっとの間ですが
お大尽遊び、という風情を与えてくれるように
思います。

Kanamaru3

(これは去年の公演の写真ですが。)


さて、今年の公演です。


お昼をはさむ公演と、昼から夕方の公演が
あって、それぞれ演目が違います。
今年の場合、演目を見てみたのですが、派手さを求めるなら
お昼をはさむほうの公演。
じっくりお芝居を見るのであれば、午後のほうかな、と
思って、午後の部のほうにしました。

午後はスギタニくんの話です。
あ、いや、天下茶屋村の話です。

大学のときの同級生のスギタニくんが
大阪市西成区天下茶屋東に住んでいるので
うちの家では「天下茶屋の子」というと彼のことになっていて
天下茶屋イコールスギタニくん、なのです。
(むちゃくちゃな話ですが、まぁローカル・ルールということで。笑)

大阪環状線の駅に、新今宮という駅があります。
地下鉄で言えば、御堂筋線の動物園前です。
この駅を降りて、北に行けばフェスティバルゲート遺跡(笑)
を通るか、ジャンジャン横丁を通るかして、新世界、通天閣に
出ます。東に行けば天王寺公園があって、地下鉄の駅名にも
なっている動物園もあります。

それとは逆方向、つまり南に行くと、
今度はあいりん地区、という労働者の人の街がひろがっています。

Tsutenkaku4

(通天閣から見た天下茶屋方面です。ずいぶん先なので
天下茶屋の辺は見えません。あくまで方向、ということで。笑
正面のちょっと肌色っぽいビルの左にジェットコースターの、
うにょっとした線路が見えるのがフェスティバル・ゲート遺跡ですね。)

ここには土木・建設の作業員の人の簡易宿泊所が
たくさんあります。こういう土木作業員の人たちはここに
全国からかき集めてこられるのです。大阪万博とか花博とか関空の
建設とか、そういう工事の間は仕事があるのですが、
工事が終わったり、今のように公共工事が非常に少なくなって
そうした人の仕事がなくなると、たちまち生活ができなくなってしまいます。

俺も以前、天王寺の美術館の前で友達を待っていたら
いきなりおじさんに「にいちゃん、ええ仕事あるで。」と
誘われたことがありました。(あの頃は景気が今ほど
悪くはなかったので、大方、どこかの飯場に連れていかれて
ダム建設とか道路工事の作業員を、ということではなかったのかなぁ
と思います。

景気の良いときは、散々こき使われて、悪くなったら
ハイ、それまで、と雇い止めされる、という、本当に弱い
立場の工事関係の仕事をしている人たちがこの辺には
たくさん居ます。
最初、新今宮の駅を降りて、一歩外に出たとき、
あれは忘れもしませんでした。
小学校の2年くらいだったかなぁ。
道路にダンボールを敷いて、そこで、直接寝ていた人を何人も
見ました。
今までそういう境遇の人を見たことがなかったのですが
相当にびっくりしたことを覚えています。

今でこそ、年越し派遣村がどうのこうの、と
言われますが、このあいりん地区に、三角公園という公園が
あって、もうずいぶん前から、その周辺で年末年始になると、
満足に食べるものさえない、という人たちのために、いろいろな
ボランティア団体とか仏教会とかキリスト教と言った宗教関係の人たちが
集まって炊き出しをしたりしていました。 数年に一度、大きい暴動が
起きることも一度や二度ではありませんでした。
(なぜだかここの暴動って、冬休みに起こることが多いんです。
やっぱり年を越す、越せない、という問題が生じるから、だと思いますが。)
ある人は、物騒で恐ろしい場所、と言っていましたが
謙介は全然そんなことはなかったです。
スギタニくんの紹介で、ひとりのおっちゃんと仲良くなって、
「にいちゃんメシおごったろか。」
と言われておごったりおごられたり。
ゆっくりとしみじみお話を聞くと、本当にどの人もいろいろな人生を
経てここに来たんだ、ということが分かりました。

そのあいりん地区を突っ切ったあたりが天下茶屋です。
今は西成区の天下茶屋ですが、歌舞伎のこのお話の舞台になったころは
本当に大坂(おおざか)の街から離れたところにある寒村、という
場所でした。和歌山に行く紀州街道沿いには集落はありましたが、
後はいたってのんびりとした田畑の広がるような場所だった、
といいます。

今の天下茶屋の情景からは全く想像ができません。
まぁそれを言ったら、蓮池が広がる湿地だった梅田の
周辺だって似たようなものですね。
ヒルト○ホテルの辺なんて蓮池だったそうです。
それがいまやどこをどう見たって、そんなのんびりとした風情は
ありません。

天下茶屋というと、今では活気があって、しゃべりのおばちゃんが
たくさんいて、というふうなざっくばらんな大阪の下町です。
いわゆるイメージとしての「大阪のおかん」の実物を
なんぼでも「発見」することできると思います。

「え? いちまんきゅうせんえん? あんた、それ高いやん。
××電気で、きゅうせんはっぴゃくえんで売ってたで。」
「え、ただのきゅうせんはっぴゃくえんですか?
そらせっしょうやわ。」
「あんた、××でんきに負けてもええのんか? 」
「いや、まぁ、、、、」
「××でんき、買いにいこかなぁ、、。」
「あ、そ、それなら、ちょっと待ってください。
い、いちまんごせんえんでどないです? 」
「ええええ。いちまんごせんえーーーん 。まだいちまん、ってつくの? 
このいちまん、のけられへんの? 」
「そら、お客さん、せっしょやわ。この製品、
まだ先月出たばっかりの品ですねん。
今からそんなに、引いてたら、、。」
「わかったわ。そうしたらもうええわ。××電気で買うよって。ほな。」
「あ、おきゃくさん、おきゃくさん、そうしたら、これも買うてくれるんやったら、
こっちのしなもん、きゅうせんはっぴゃくえんでもかまいませんわ。」
「ええええ。抱き合わせすんのか。 」
「そやかて、うちかて、生活かかってまんねや。辛いんだ。こないに
負けんのん。そやけど、あんさんが今日はじめてのお客さんやし、これで
運落としたらげんが悪いさかい、どうですやろ。きゅうせんはっぴゃくえん。
これとたしていちまん5せんえん。うちかてぎりぎりですわ。頼みますわ。
べっぴんのおじょうさん。」
「こっちはきゅうせんはっぴゃくえんなんやね。」
「そうですそうです。どうですやろ。5年保障もおつけします。さぁ! 」
「し、しゃあないなぁ。」

まぁ商売人のだって、そういう大阪のおかん相手ですから
自然に鍛えられて海千山千のにいちゃんになります。
まいどおおきに! とかいいながら、「あんな田舎のおばはん、
ちょろいもんや。」
とかなんとか陰でペロッと舌を出していたり。
そういう攻防が身近に見られるのが北なら上新庄、
南方面なら天下茶屋の辺かもしれません。

そこでのあだ討ちの話です。

お話の筋は、ここでは書きませんが、
天下茶屋もよく行きましたし、住吉大社も
よく行ったところですし、、。

Sumiyoshi1

本当になじみのある場所が作品の舞台になっているので
すっ、と作品の中に入っていけるのではないか
と思っています。

ただ、今年は去年あった羅漢席はどうなんでしょう?
勘三郎丈のご発案だそうですが、
あれは本当にやめて欲しいです。
心中する男女の道行きの情景のすぐ後ろで
カットソーのおねいさんが座っている、ような芝居を観る、なんて
もう絶対に嫌です。芝居の中に入っていけないではありませんか。

でも、俺の座る升席、ひょっとしたら、
あらま、ということがあるかもしれないようです。
もし、ホンマに大変なことが起こったら、ここで改めてご報告します。
ご報告がなければ、あらま、というようなことは、なかったのだ、と思ってください。
それでは。
また行ってきたら、そこで見聞したことをここで
ご報告したいと思います。

     ×      ×

このところ、毎日次が読みたくて読みたくて
仕方のないコラムがありまして。
こんなこと、謙介にしてはありえないくらい
珍しいことなんですが。
そ・れ・は・な・に・か・と・た・ず・ね・た・ら
日本経済新○連載の「私の履歴書」です。

でも連載なので、次の日にならないと
新しい記事が出ない。
もう続きが読みたい読みたい。

このコラム、各界のいろいろな人が書いているのですが
目下の執筆者は女優の有馬稲○さん。
ひとつ前は、川之江の紙屋のおっさんの話でしたが、
今度の有馬さんは強烈でございますよ。
ここまで、洗いざらいにお話してええんですか??
と思うようなお話満載ですもん。

日経は大抵の公立図書館であれば購読している思うので、
図書館のブラウジング・コーナーへでも行って
是非、ご一読のほどを。
毎朝、すごいわーと思いながら読んでおりますです。
これもおススメ。


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Comments

東京帰りのmisimaです(笑)
第1部を見物してきたのですが、海老・菊ほか勢ぞろいのだんまり、播磨屋の熊谷陣屋、中村屋親子三人の連獅子と、たっぷりと楽しんでまいりました。散財してすっかり懐は寂しくなりましたが、胸は一杯ですよo(*^▽^*)o
さてさて、日経新聞。職場で取ってるので、出勤すると一番に読んでます。お忙しい方は先週分(11日以降)だけでもぜひ。

Posted by: mishima | 10. 04. 23 at 오후 11:55

---mishimaさん
 もうねぇ、ゴージャス、としかいいようのない陣容を揃えましたですよね。
 まぁお金は、、ですが、きっとその舞台は後々まで、歌舞伎好きの人たちがきっと「御名残公演のあの揃った華やかさ、と言ったら、、。」と言葉に残して語り継ぐようなものだったのでしょう。そういう心の豊かになる経験というのは、お金にかえられないすばらしい経験だと思います。そのときは確かに経済的には、しんどいかもしれないですが、、でも本当にいいものを拝見なさいましたですね。いやぁ、うらやましいものです。日経のあれ(笑)本当にすごいですよね。内容に驚愕しました。

Posted by: 謙介 | 10. 04. 24 at 오전 12:08

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