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10. 02. 18

仕事

一昨日の晩、友達から電話があって、
明日、夕食でも一緒にどう? とお誘いをいただいた。
彼とは別の仕事場なのだけど、職種が同じなので
たまに会って、情報交換とか、仕事のこととか
話をする。同業の友達、というのは、話題の方向が
同じだし、一々回りくどい説明をしなくても
「あれ」で分かってくれるから、話をしていてすごく楽だ。

「○○町の洋食屋さん行ったことがある? 」
「いや、あそこの料理、おいしいよ、っていう
話は聞くんだけど、何せ、通勤コースでもないし
生活圏でもないから、その店のあるあたり自体に
あまり行ったことがなかった。

午後7時にゑちごやのライオン像の前で
待ち合わせて、その店に行った。
その店はビルの一階にあって、入ると
長いまっすぐのカウンターに椅子が20席
ずらっと奥へと並んでいた。
席はカウンターだけだ。
左が割とゆったりと広いオープンキッチン
となっていて、キッチンの中では
おじいさん、と息子夫婦の3人が入って
客の注文をさばいているのだった。

ここの名物は「ロイヤルハイシ」。
店に来るほとんどの人がこれを注文するんじゃないか、
ということだったので、謙介もそれにする。ただし、
友達はもう何度も食べている、ということで
彼はミンチカツとごはんとお味噌汁、というメニュー。
注文を息子の嫁らしい人が受けて
おじいさんに伝える。
「ロイヤルです。」
ちょうど、夕食時期でお客さんの注文があれこれと重なったことも
あるのかもしれない。
加えてここは出前とかテイクアウトもしているようで、
俺が店に入ったときに、椅子に座らずに
立って待っているお客さんがいた。
やがてそのお客さんにカツを入れた容器を渡したりしていた。
息子はピラフを皿に盛ると、少し荒熱を取ってからふんわりと
料理の上にラップをきせて、それを岡持ちに入れると
店を出て行った。
おじいさんのコックは、さっき新たに入ったロイヤルの数を加えて
ロイヤル4つやね、と確認した。
息子の奥さんがそうです、と言う。
「後、ミンチカツです。」
そうすると、鍋の中から、ロイヤルハイシのルウを小鍋に移して
それをあたためはじめた。
その時、出前の配達に行っていた息子が帰ってきた。
「ミンチカツです。」
と言われて、手を洗った息子は冷蔵庫であらかじめ
作ってあったミンチカツを出す。温度を見て
そこにミンチカツを入れる。

手前では息子の奥さんがご飯を皿によそい、
それをはかりに載せて重さを見ている。
(すごい! 一人ひとりごはんの全部はかりで計測していた。)
よそわれたご飯の上にそのルウをかけると、今度は
卵をかきまぜてフライパンで卵焼きを作り、それを
ハイシライスの上に載せた。
仕上げにパセリを散らして出来上がり、となった。


ただし、それは、二人分だった。
おじいさんコックはまた息子の嫁さんに尋ねる。
「後、何人分? 」
息子の嫁さんはつとめて平静に言った。
「後2人分です。」
そうして、おじいさんはさらに2人分作って、
そのひとつが俺の前に置かれた。


Oshokuji


同時に友達の注文したミンチカツも出来上がってきた。

ハイシライスは、ドミグラスソースが特においしくて、
あ、これだったらこの店の人気のメニューになるよなぁ、
と思える納得の味だった。
友達にミンチカツの味を聞いたけれども、やはり
おいしい、ということだった。それと味噌汁がことのほかうまかった、
という話だった。

久しぶりに会ったので、話はもう脈絡もなく飛びまくりで
あちこち移動しまくりだったけど、ホントに楽しい食事だった。
食事が終わって店を出て、二人が同時に言ったのが、
「あのおじいさん、ちょっと、、きとるなぁ。」
ということだった。
そうした後で彼が言った。
「あんなんだったら、もう引退してもろて、家に居って
もろたほうがええん違う? つい5分くらい前のことでも
分からないようになってきてるんでは、注文取り違えたり
して間違いやって多いん違う? 」
「いや、俺は逆やな。」と言った。「たぶんね、あのおじいさん
洋食屋さん一筋でここまで来た、と思う。だからもう
あのおじいさんにとっての仕事は、おじいさんの全てやと
思うんや。おじいさん=フライパンをふるって料理を作る
と思う。そんな人に、おじいさん、引退して家に居ってくれ、
なんて言ってみ、おそらく1カ月せん間に、あのおじいさん
亡くなってしまうかもしれんよ。」
「だけど、いつまでも店に出とって、、おじいさんの作った
料理のせいで食中毒とか出たらよ、店の信用が無くなって、
いっぺんで店がパアになってしまうことやってあるかもしれんし、、。」

確かに彼の言葉も分かるのだ。
と、いうのが、俺の仕事場の街でも
郊外に大きな駐車スペースのある
ショッピングモールができて、中心部の
商店街の客足ががくっと落ちている。
その原因の主なものは、そういう郊外の
店ではあるのだけど、
それ以前に、今市内の商店街の店主の
息子や娘が都会に出て、いろいろと新しい
店の運営方法とか、ディスプレイの仕方とか
店舗建築とか勉強をしてきたのに、
いざ、田舎に帰って店を継いでみると、
頑固な父親が、「今のままで儲かっているのだから
この方式でええのじゃ。」と言って、先を見越して
店の改装とか、さまざまな新しい方法を取り入れようと
したのに、全部強硬に反対してそうさせなかったのだ。
現状に満足しきっていて、先行投資がないまま、
長年月を無駄に過ごし、あげくの果てに
店はジリ貧状態になって「今」になってしまった、と。
いつまでも年寄りが店のことに一々口出しするのは
ろくなもんじゃねえ、という意識が彼の中にあって
それで、さっさと引退すれば? と彼は思って
そう言ったのだ、確かにそれも分かりはするんだけど、、。

でもコックの仕事は、店の経営ノウハウではなくて
調理技術だからさ。
できるところは、まだやってもらったほうが、、
「これは、もう社会福祉の問題よ。」と俺は言ったのだけど、、。

「あの店は、家族でやっているみたいだから、
まぁ息子と嫁が、そういうところをフォローして
やって行ったら、さぁ。」
「だけど、息子の嫁、もう大分、イラが来とるん違う?
すっごい無表情だったもん。きっとお義父さんのことで
相当のストレスが溜まっとん違う? 」
「ホンマ、口ではお年寄りの生きがいを、、。」とは
言うけれども、そんなことやって十分分かっとるんやけど、
実際の生活となったら、難しいね。」

「あ、そうや。明日応援してやってな。うちの近所の
りょうちゃん、出るし。」
「分かった。」

そういう話を最後にして二人はわかれたのだった。

今、これを打っていて気づいた。
あ、すっかり忘れておりましたわ。あちゃー。
日中、まじめに仕事に集中していて
そんなことなど全然忘れてしまっていた、
ということに、一応しておきませう。


          ×        ×


日経ビジネスなんて今頃こんなこと書いてやんの。
一ヶ月も前にうちのブログで、俺は話してたぞー。
今頃記事にしたって遅いぞー。(笑)


(今日聴いた音楽 果てしないストーリー
 歌 MISIA この曲も冬季五輪の放送で
 使われた曲でしたね。)

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Comments

すべては憶測の範囲ですが…。

たぶん、店にいる状態と家の中の状態に
かなりの歪みがあるのではないでしょうか。
身内がストレスを抱えるほどに症状は進んでいるけれど、
外からはまだ踏みとどまっているように見える。
身内がそのギャップに疲れている…と、この記事から感じてしまいます。

家の中に籠る、店に出させる、どっちに進んでも暗い道しか見えない。
そこで見えたのが、真ん中の道。生きがいを感じさせる、周囲のストレス軽減、
2つの側面を持つ道を選んだ、と、考えたりもします。

いつも、ですけど、的外れなコメントだったら、ごめんなさいね(苦笑)。

Posted by: ヒシ | 10. 02. 21 PM 11:04

---ヒシさん
 いえいえ的外れなんて、、、俺だってそうかもしれません。それと、やっぱり人の状態ですから、同じ人でも、今日は以前のようにバリバリと意識がはっきりしてて、言うことも鋭い、という日もあれば、また別の日には、なんだか、ちょっと、、っていう日もありますし。俺が見たのはそんな中のたった1日のそれも1時間くらいのことですし。
 でも、一体どういうことが生きがいになるのか、とか、家族の希望と本人の希望とをうまく調整しながら生活をしていく、ということとか、本当にそうしたことを考えていかないといけないですね。俺のところも話ができなくなってからでは、ちょっと遅いですし、親とそんな話を時々したりしています。
 

Posted by: 謙介 | 10. 02. 22 PM 7:35

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