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10. 02. 10

あなどれないぼうず

さっき大学のときの言語学の先生から電話がありました。

時々、不思議がられるのです。
大学のときの先生なんて、講義の時だけで
単位を取ってしまったら、もう関係ないじゃないか、
というふうな考えの人からすれば、
ええええ、大学の時の先生と、どうして今も人間関係が
あるの? って言われます。

俺の行った大学は、学生数が少なかったことも
あって、学科の専門の先生になると、ほぼ国文学科全員の
学生の名前を把握している、という学校でした。

就職しても、住処が変わっても、ちゃんと連絡をしておいでよ。
キミたちとのつながりは、担当の講義が終わったら
それっきり、とか、卒業したらおしまい、というのでは
ないんだから、ということを、どの先生もことあるごとに
俺たちにそう話してくれていました。
人間関係、っていうのはね、ちゃんと日ごろから
連絡しあったりして、「おつきあいのメンテナンスをして
おかないといけないのよ。それが将来すごく大切なことに
なってくるんだから。そういうのが財産になるんだよ。」
というお話でした。
なので、今もずーっと、こうやって行き来が
普通にあります。

さてその言語学の先生です。
実はこの人、京都からそう遠くない某所のお寺の住職です。
ぼんさんなのですが、この人は俺にお経ではなく、
ソシュールの言語学を教えてくれました。
ぼんさんで、ソシュールの研究、
本当にあなどれない坊主(笑)です。
ソシュールの研究をしているくらいですから
自分のお寺のサイトもあるのですが
英語版のサイトも全部で文章を作って
アップしています。

「ちょっとこの資料、所在を調べてくれる? 」
「わかりました。」
用事はそれだけだったのですが、
さすがに先生、もうお歳ですかね。ちょっとお疲れの声でした。
「せんせい、大丈夫ですか? 」
「ちょっと去年から、またお寺見学の人が大勢来はって、
しんどいねん。そうじもあんじょうせなあかんし。」
「どうしたんですか? 急に増えたんですか? 」
「去年、ドラマやってたやろ。あの影響と違うかな。」
「え? あれですか? 」
あれ、というのはシラスなんたらさんのドラマです。
うちの先生のお寺、実はそのシラスなんたらさんの奥さんの書いた
エッセイに出てくるお寺なのです。
「ほんま、かなんわ。(困るわ。) あのおばはんのファンや
言うお人がぎょうさん来はって。静かに見てくれはったら
ええのやけど、ゴミはそこいらじゅうに放り散らかすわ、
大きな声でぎゃあぎゃあ言うて、やかましいてかなん、、。
いっとき、静かになっててんけどなぁ。またブームやらで
えらい迷惑や。」

うーん。
何か本屋さんへ行ったら、そのシラスなんたらさんの奥さんの
書いた、もしくは、奥さんのことを書いた本がたくさん
並んでいます。
たーくさん並んでいるということは、それだけの需要が
あるということなのでしょう。
そうして、そのシラスなんたら奥さんがエッセイに
書いた場所に行ってみたいのぉぉぉ、という
人もいるのでしょう。

謙介、このブログで何度か書きましたが、
正直言って、あの奥さんの書いたものが、
何であんなにブームになるのか
よく分かりません。

上流階級の家に生まれて
海外留学もして、ダンディな旦那さんと結婚して、
そういう生き方の上に、奥さんの趣味とかセンスが、
すばらしい、というのですが。
そういうあこがれとか最近流行の言葉で言えば
セレブにあこがれる、という心理的な羨望
というのがあるのでしょうか。

そのセンスとか趣味って、本当のところは
彼女が私淑していた古美術商の
小林秀雄と青山二郎の受け売りですもんね。
そういういろいろな美術品とか工藝の
方面の紹介はしたけれども、ただそれだけじゃないか、
いう気がします。
 
確かに美術品にはその人の好き不好きが
ありますから、それでいいのだ、と言えばそれまでですが。
以前、この奥さんの書いた書についての文章を拝見させて
いただきましたが、その理解の程度とかそのセンスには
うーん、と思うところがありました。
正直なところを言うと、もうちょっと勉強してね、とか。

確かにこの奥さんは小さいときから良質のものを見て
ずっと来られたのでしょう。そういう人が、にせものとか
つくった人間の志の低いものを見ると、あ、これはよくない
と分かるでしょう。
加えてこの奥さんは、お能をずっとしていましたから
そうした芸に向かうときの心構えとか対面の仕方
ということも十二分にお分かりだったに違いない、とは
思います。

ですが、正直に言って、やはりまだそれでも理解が足りない、と
思う部分はありました。
それは本当にその道でやっている専門の人が見たら、ちょっと
この程度の理解では、、、とは思うのですが、
何となく「わたし、古美術が好きなんですぅぅぅ。」という
人にとってはあこがれの存在、というところですかね。

この方の文章を読ませていただいて
そんな感想を持ちました。

ただ、彼女が青山二郎に出あったように、
本物の人間に出会う、ということは
やっぱりすごいことだ、というのは
正鵠を射た意見だと思います。

話がいきなり飛ぶのですが、(いつものことですいません。)
俺の行った国文科は、専攻分野は当然自分の専門として
より深く勉強することになってはいたのですが、
やはり専門の狭い分野だけ、というのでは
偏りが大きいということで、
それ以外に、全ての時代の文学について
作品を購読するか研究しないと
卒業単位を満たせない、ということに
なっていました。

俺の場合の研究したそれぞれの文学作品を
書き並べてみると
上代は万葉集・古事記・日本霊異記(これは専攻)
それ以外に、
中古は枕草子
中世は新古今和歌集と徒然草と連句を
近世は雨月物語
近代が夏目漱石
というラインナップ(笑)でした。
で、これらを講読と研究、という授業で
それぞれ読んだり分析をしていったわけです。

もちろんこれ以外に近世演劇研究で歌舞伎の勉強をしたり
日本の芸能、という授業では
古代以降の各時代の日本の芸能を系統的に
見ていく、という授業もありました。


狂言は茂山千作さんを
能は観世榮夫さんを
落語は桂春團治さんを
上方の喜劇史は藤山寛美さんを
それから猿回しで村崎義正さん
(今、猿回しをしている村崎太郎さんのお父さん)
をそれぞれお呼びして、大学の教室で
講義形式の授業と、それぞれ南座、
観世能楽堂、寄席に行って実際を見てレポートを
書く、という授業でした。

もちろんこれ以外に漢文学、現代中国文学、近代の文学史、
それから実践文章講座、と言って1年間ずっと文章を書いては
提出して、その前々回書いた文章の合評会をする、というのを
1年間ずっと繰り返す、というシビアな授業もありました。

枕草子は田中重太郎先生、
夏目漱石は当時光華女子○にお勤めで、俺の大学に
非常勤で来られていた北山正迪先生にそれぞれ
教えていただきました。
田中先生の枕草子の評釈は今も枕草子研究をするにあたっては
まず第一に見ないといけない資料ですが、、。
それはここでは措いて。
あの方、岡村孝○のファンだったんですよ。
いつも授業の始まる前にひとしきり、
「いやぁ、岡村さんは、、」という話をひとくさりしてから、
始まる、という授業でした。

北山先生は漱石と禅についてのかかわりについて
ずっと研究してこられた先生でしたから、そうした
漱石の内面についての詳しい話をしていただきました。

漱石さんはその自我を安定させるために、座禅を
してみたり、西洋の揺るがない自我というものを
考えてみたりしたわけですが、結局、彼の小さいときの
養子体験は「周囲に嫌われたくない。」という意識を
強く彼に植え付けたがために自我がぐらぐらで
安定することがなかった、ということを1年間授業を
受けつつ考えました。
当時、自分の自我のことでぐらぐらと揺れまくっていた
謙介には、自分の身に置き換えて授業を受けることが
できて、これはこれで非常に自分自身の役に立った授業でした。


そうした先生方はみなさん、すごい先生ばかりでした。
いや、確かにすごい先生だったのですが、
そのことが本当にわかったのは、学校を出て社会に出て
という就職後になってからでした。
社会に出るとさまざまな人に出会います。
確かに人を比較するのはいいことではないのですが、
自分の中には、どうしても学校の時に出あった
先生、っていうのがひとつの「モノサシ」になっていて
何で、この人は、こうなんだろう、って思ってしまうことが
しょっちゅうありました。
あまりに人間の度量が小さすぎるではないか、、

人間的なキャパシティというのか雅量というのか度量が
全然違っていた。自分の専門にかける情熱も違っていた。
正直、え、どうして?? ということもありました。


その時に改めて、ああ、本物というのは、
ああいう人のことを言うのか。
やっぱり人間のスケールが違うわ、という発見が
何度もありました。


本物の人間に出会う、ということは、
もうそれだけで貴重な経験です。
そうした先生方にそれぞれ藝の話を身近に聞けたことが
俺の大きな財産になっています。


話を元に戻します。
ぼんさんの言語学の先生です。
言語学もソシュールも、本当に頭が痛くなるような(笑)
ものじゃないか、と思ったのですが、
この先生のおかげで、あ、そういうふうに考えたら結構おもしろいかも
というふうに頭が痛いと思っていた言語学のイメージを
変えることができました。

やっぱり人の出会い、っていうものは、ホントに
大切ですね。こうして文章を書きながら
改めてそう思いました。


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