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09. 10. 29

酒瓶林立の部屋

大学のときの専攻が、国文学の上代文学(万葉集・記紀歌謡)
だったので、歴史学の資料も探すことがままあって、
史学科の校舎もうろうろしていた。

俺の行った学校の史学科は、
考古、古代、中世、近世、近代とそれからもうひとつ
民俗の6つの専攻の研究室に分かれていた。

中でもよくお邪魔したのが、考古と古代史と民俗の3つの研究室。
最初は、ちょっと質問があったり見たい本があって、その時代の
担当の先生のところに行ったのだけど、
先生が、「ほんなら院生の○○くんに言うとくし、あんじょうしてもらい。」
とおっしゃるので(実は院生に丸投げ。笑)研究室に行ってあれこれ
質問をしたり、資料を調べていたりしているうちに、院生の○○くんに
「そや、あんた、ゼミに出たらええのや。」
「ええええええ。そ、そんなぁ。」
「黙って出てたらわからへん、て。」
そのうち史学科のゼミにまで出没するようになって。

じゃあ、次の次の発表は、謙介さん、とある日、とうとう
発表分担をふられてしまった。
「ぼ、ぼく。国文科なんですけど。国文の学生でもいいんですか? 」
「ええっ、あんた国文の学生やったんか。」
「はい。」
「もうええやん。転科して史学に来たら。」
と、史学科では言われ、国文のゼミの発表で、そうやって調べてきた
史学の資料、考古の資料を基に発表すると、
「上代文学なんか、国文学やあらへんわ。史学科行きよし。」
と、上代文学の先生と仲の悪かった
平安文学の先生に嫌味を言われ。
♪史学科のようでも史学科でない、べんべん
国文科のようでも国文科でないべんべん
そ・れ・は・な・に・か・と・た・ず・ね・た・ら、、
(あほらしいからやめます。)
とまぁ、どこもそうだろうけど、上代なんてやってる
本当に謙介の位置は、なかなか
微妙なところにあった、と今振り返って思う。

とはいえ、史学科は謙介にとっては、直接は専門外なので
分からないことは片っ端から質問もできて
気楽だったし、国文科みたいにぴりぴりと神経質そうな
(神経質、ではなくて、あくまで「神経質そうな人」というところがねー。(笑)
どうしてかと言うと、ある部分はものすごく神経質に言い立てるくせに、
ある部分はものすごく大雑把でしかーもとんでもなくいい加減な人)
人がいたりすることもなかったので
すごく気が楽だった。

それとたぶんその研究室の主宰の「先生」の影響なんだろうか。
各研究室、個性がはっきりと出てて、その個性の違いが
またおもしろかった。

民俗学の研究室は一体こんなもの、どこから
集めてきたの? というようなものがあった。
旧家の土蔵にあったような古文書から、
昔織られていたのだろう織物の織り見本の
帳面とか、、、。

古代は一番大学の研究室っぽい、というか
イメージどおりの部屋だった。書架には
ぎっしりと本が並んで、その前の大きな
テーブルでは、誰か必ずゼミ生がいて
何か調べ物をしてる、というふうな部屋で。
古代史の先生は、すごくまじめで、几帳面な方
だったので、そうした先生の影響がはっきりと
出ていた、と思う。

だけど一番すごかったのが、なんといっても考古だった。
あのさ、考古の研究室、って、もう文学部の研究室なんか
じゃないんだもん。


入るとまず汗臭い。
うーん。むしろ饐えたにおいと言ったほうがいいのか。
中にいるのは髭ぼうぼうでさ、泥まみれのシャツ着た
連中ばっかりでさ。
で、しょっちゅう酒飲んでるの。

どうみても建設作業関係の飯場というのか
現場事務所、っていう感じでさ。
え?  そういうの好き? (笑) 
ガテン系に、惹かれるものがある?
もうそういう方にはばっちりですよ。(一体何が
ばっちりなんだか。)

考古のD先生が酒好きだったからかもしれないんだけど、
もうねぇ、酒瓶林立の部屋でさ。

部屋の中も、掘り出した土器が、トレーに載せて置かれていたり、
部屋の片隅では、ブラシでもって土器についた泥を
丁寧に取っている人がいたり、、。
まぁ一応研究室だから書棚があって、そこに各地の
遺跡の発掘調査の報告書が乱雑に立てられてはいたけど。


俺もさぁ、最初は遺跡の発掘のことでちょっとした質問があって
それで考古学の先生のところに行ったんだけど、
気がついたら、いつの間にか、書棚の資料の整理を
したり、使い古しの歯ブラシで発掘された
土器の泥を落としてたりしていた。

京都なんていう場所は、地面を掘ったら、何かしらの遺跡に出会う
わけで。もうあちこちの発掘、というのに一緒に
手伝いに行った。

よくお墓を掘ったら、祟られる、っていう人がいるけどさー、
そんなお墓の祟りがある、なんて言ってたら、
考古学専攻の学生とか考古学者はどうなるのよ。
お墓の発掘なんて何度もしてますがな。
俺だってお墓の発掘に行って、人骨を掘り出したことだってあるし。
大体が、京都の祇園なんて、あそこは昔はぜーんぶ
墓地というか死体置き場だったわけで。
じゃあ、あそこで家を建てた人はみんなたたられるのか、
ということにだってなるしさ。

祟りとか怨霊、なんか言ってたらさ、考古学者なんて
確実に祟られっぱなしの
人生になると思うよ。
でも俺の習った考古学の先生、まだ90いくつで
お元気だし、、。(笑)

実は奈良のキトラ古墳って、その考古学教室にいた
Sくんが発見したものなんだ。

あ、そうそう。
こないだ、奈良の桜井で石室に全部朱を塗った、という
古墳が見つかったニュースがあったよね。
あの見つかった場所も微妙な場所だなぁ、
って思う。
方向的に言うと、この間行った明日香から
北東に5キロくらいのところ。
北方向から言うと、額田王さんの歌った
「三輪山をしかも隠すか雲だにも、、」の歌に出てくる
三輪山からちょっと南に行ったあたり。
藤原京を西に望んで、東に行けば、
これから榛原にさしかかる、という辺かな。
ちょうど山地が平野にかかったあたり、
と言えばいいかな。そういう場所だった。

ただね、本当の考古学っていう学問は、
ただ単に掘りました、結果、これが見つかりました、
だけじゃダメ、ということなんだそうな。

そうじゃなくてさ、頭の中に遺跡のデータベースを
持たなきゃなんないだよ、って。
これが一番大切な勉強だって聞いた。

つまり、奈良のどこそこの古墳からは
こういう土器が出た、とか、その近くのこういう墳墓
からはまた別の系統の土器が出た、とか
そういうふうに、どこそこの古墳から出土した遺物の
特徴はこう、こっちの古墳の特徴はこう、というふうな
ことをきちんと頭の中で整理しておいて、
で、新しい遺跡でこういう土器が見つかったら、
これは○○県の遺跡に似たようなものがあった、
っていうふうに比較検討する、と。そうして古代の人たちが
どういうふうな移動をしていたのか、ということだって
分かる、と言うの。

考えたらそうだろうな、って思う。
言っちゃったら悪いけど、民俗学がダメになったの、って
これが原因だものね。
どこそこでは、こういう食べ物が食べられています、
ここではこういう習慣があります
って報告されてもさ、亡くなった枝雀さんじゃないけど
「それがどうしたの~」っていうことしか言えないもんね。
比較検討をして頭の中で体系(これこそ本当にこの体系。笑)
づけて、特徴を見つけて、どうしてこの地方で
こういうものが食べられるようになったのか
ちゃんとそこまで考察していればまだ学問だ、とは
思うけど、どこそこではこれが食べられています、っていう
のって単なる報告でさ、断片でしかないものね。


とまれ考古学ですよ。
あの酒瓶の並ぶ部屋で、いろいろな質問をしたこと。
時間を忘れて、話を聞いたり、実際にやってみたこと。
国文科だったら、ちゃんと国文学をベースに置かんと
あかんよ、と、何度も言われた。

でも、あんなふうにあっちふらふら、
こっちふらふら、ではあったけど、
そうやっていろいろと吸収できたこと、
って勉強、とか言うだけじゃなくて、
自分の中の幅、っていうようなものを
拡げてくれた意味でも、大切な経験だったなぁ、
って、謙介は今もそう思っているんだ。

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Comments

 ・・・関西落語の大喜利っすか?(笑)

 確かに,文系の中でも考古学はガテン系にならざるをえませんねえ。
 いつだったかのN○K特集で,ピラミッドの建造についての新たな仮説を検証するのに,上の方までえっさえっさと上ってたり。
 その場で掘り出した物の価値を判別する瞬発的な能力と,体型じゃなかった体系だった知識とそれに基づく分析力,そして体力と,総合力が要求されるハードな学問;;;
 でも,重要な遺跡や遺物を発見した時の喜びはそれを補って余りあるものだとか。

 あ,そうそう,あの桜井茶臼山古墳,大王級っぽいってか,もろに大王の墓じゃあ〜りませんかって感じ。
 明治の陵墓指定のえーかげんさがよくわかる一例ですね〜(笑)

Posted by: Ikuno Hiroshi | 09. 10. 30 at 오후 6:53

---Ikuno Hiroshiさん
 そうです。そうです。夕方、俺の住んでいたところではお笑いの番組してました。確かねぇ、吾妻ひなこさんと枝雀さんが出てて、「遊園地ハゲのおっちゃん枝雀です。」なんて言ってました、と。あ、すみません。関係ない話で。
 茶臼山古墳、場所的には、有力者の墓、って十分考えられます。何せ古代から崇敬を集めた三輪山に近い、これまた記紀歌謡にも出てくる榛原に近い場所で、しかも、大和国原を一望できるような場所ですから、相当の地位の人の陵墓と思って差し支えない、と、思います。考古の専門の人は、何せ体力的にタフです。俺も夏休み、遺跡の発掘に参加したんですけど、プレハブの小屋の中で(気温は35度くらい)集中して土器のドロを歯ブラシで取っていましたし、、。あのパワーとか体力はすごいです。

Posted by: 謙介 | 09. 10. 31 at 오전 12:28

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