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09. 09. 09

島へ(その1)

星を数えて 波の音きいて
共に過ごした 幾歳月の
よろこび 悲しみ 
目に浮かぶ 目に浮かぶ


この歌は1957年の松竹映画、
「喜びも悲しみも幾歳月」の主題歌の4番の歌詞なのだけど、
謙介は、この4番の歌詞を聞くと、いつも
涙が出そうになってしまう。


もう52年前の映画ではあるけど、その後
こないだ亡くなった大原麗子さんと加藤剛さんで
リメイク版が作られている。(ということは
やっぱり人気のある映画だったのだと思う。
最初のキャストは佐田啓二と高峰秀子。
といっても、20代の人には、それ誰? っていう
ようなものだろうけど。)

燈台守の夫婦が、戦前から戦争中、そうして
戦後、日本各地の灯台を転勤する中で
あるときは世の中の動きに翻弄され、
またあるときは家族の危機を乗り越えながら
ひとつの家族が必死で生きてきたドラマ、
映画全体を一言で言えば
こういうことになるのだ、と思う。


学校を終えて、就職をした俺は、孤島のある施設に
赴任することになった。
それまで京都の街の中で暮らしていた自分にとって
島で暮らすということには、
ものすごく大きなカルチャーショックだった。

そうしてそれはカルチャーショックだけではなくて、
その赴任した先での上司との衝突もあったり
仕事の悩みもあったり、もちろん、自分のこの先の
生き方に対する悩みもあったり、で、
3年間続いたこの島での生活は、後々、自分の人生の中で
決して語りたくない部分、完全に密閉して
消去してしまいたい3年間となった。

そしてその3年間のことは誰にも話さないでおこう
と堅く思った。いや、決意した。そして決意どおりに
俺はその3年間のことは誰にも一切話さないでいた。

それが、
島を去ってから20年近く経った後のこと。
さすがになんとなく気持ちが変化しはじめていた。
どうあがいても、あの時の自分がいるから
今の自分がここにいるわけで、、、と思うように
なっていた。

そんなあるとき、大きな図書館に出かけたことがあった。
その図書館でOPAC(オンライン パブリック アクセス
カタログ=蔵書目録)で調べていたら、たまたま謙介が
その島にいたときに作った報告書がそこの蔵書の中にあった。

その報告書を書庫から出してきてもらい、
俺はその本を久しぶりに眺めた。久しぶりに自分の仕事を
もう一度見ることになった。
学校を卒業して、上司に作れ、と、言われて
ひとりで案を作って、会議にかけて了承されたはいいけれど
一人でレイアウトを考えて編集作業を行い
調査をして、作り上げた報告書だった。
その報告書を見ているうちに、自分がその島でやった
ことは、決して間違っていなかったと改めて思ったし、
この報告書は自分のそうした時期を何とかがんばった
証拠じゃないか、という気持ちになったのだ。

そう思ってその報告書を閉じたとき、もうあの時の
記憶を閉じこんでしまっているのを、許してやっても
いいかなぁ、という気持ちにすっと変わったのだ。
歳月も経ったし、やっぱりまだその時の記憶を
たどろうとすると、どこかで心が痛くなりはするのだけど
でも、もうそろそろいいか、という気持ちになった。

そうしてそう思うようになってから、また数年たったころ、
俺は一度島を訪れることになった。
そのときはとにかく島に行く、という気持ちだけで
海を渡った。
そしてあの時と大して変っていない島を見て、
確かに嫌な思い出とか記憶もどんどん蘇っては
きたけれども、その一方で確かにそれだけでも
なかったかなぁ、という気持ちも起こった。

それは非常に複雑で、単純にこう、だとは
言えないようなものだったけれど、それでも
自分の心が以前とは違ったものに変っていた、
ということは言えた。

そうして、それからまた数年が経った。
今回は割とはっきりした気持ちで思った。
「島に渡ってみよう。」と。


それは島に行ったら、行きたい場所があったからだ。

就職して、島に赴任して、数日後の晩。
以前からそこで働いていた先輩の人2人と
島の北側にある浜に行った。

4月の夜。
そこに行くには、懐中電灯を持って、でないと行けなかった。
石垣の狭い迷路のような集落の中の道をたどって
集落を出ると段々畑の中を縫うような道をまたたどって、
夜、浜に出た。

暗い海の沖を何隻もの船が行き交っていたはずなのだけど
俺はその記憶は全く無い。
ただただ、自分のこれからのことを考えていた。

自分が就職して、これからどうなるのだろう。
社会人にはなったけれど、これからどんなふうな人生が
待ち受けているのだろう、、。
そんなことをただただ考えていた。

その島の北の浜には灯台が立っている。

その灯台が海に照らす灯りを眺めながら、
なんだか、ずいぶんと遠いところに来てしまったなぁ
と思ったり、どうして自分だけこんなふうなのだろう、
と思ったり。そんな気持ちとは裏腹に岸に波は
ずっと繰り返し打ち寄せ、空に星は輝き。
自然の美しさなんて、正直言って、なんだよ、
くらいにしか思わなかった。いや思えなかった。

そんな自分の思いは、
「星を数えて 波の音聞いて 、、、、幾歳月の」
という歌詞がそのままだった。
(ただ、歌詞のように「ともに過ごす人」は
いなかったけれど。)

それでもこの歌を聴いていると、
本当に星を数えながら、浜辺の波の音を聞いて、
それでも何とか一生懸命だったあの島で暮らした
自分の実体験がそのまま重なって、
それで涙が出そうになってしまうのだ。


自分が就職して大きな戸惑いを感じて降り立った
あの海岸にもう一度行ってみようと思った。
あの時の自分ではもうないけれど
それでも、俺はどこかであの時の自分が
あるから、今の自分があるわけで。
もう一度、あの時の自分を、就職して
社会人になりたての自分を、
思い出してみたい、という気持ちになった。


そして、俺は久しぶりに、もう一度島に渡ることにした。

Shima2

その島へ行った時のことを今から何回かに
分けて記していきたいと、思う。

本当に個人的な感情の吐露と、それにともなう
記録の羅列になるかもしれないけれど、
よろしければ、おつきあいしてやってください。


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Comments

島の話の連載、
楽しみにしています。
ではまた。

Posted by: ともぞ~ | 09. 09. 10 at 오전 6:53

---ともぞ~さん
 こんにちは。 お元気ですか? すっかりご無沙汰という感じがします。ちょっと前から島に渡ろう、って思っていたのですが、このあいだ、時間ができたので、そうだ、と思って急ではあったのですが、行ってきました。また読んでやってください。いつもありがとうございます。

Posted by: 謙介 | 09. 09. 10 at 오후 3:15

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