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09. 06. 09

ま、どうでもいいようなことだけど。

ムラカミさんの新刊がえらい人気なのだそうです。
ネットを見たら、ものすごく売れている、とニュースに
なっている。

しかし、うちの近所の(つまり田舎の)本屋では
哀しいくらい売れていない。本屋さんが売れる
だろうと思って平台に積んであるのだけど、
その積んであるものが動いたふうでもない。
ハリーポッターの新刊が出た時はさすがにすごかった。
じゃんじゃん売れていました。ところが、本屋のにいちゃんに
「ムラカミさんの、どう? 」と聞いたら、
「2冊ですかね。出たの。」というありさま。

多分そうだろうな、とは思います。
田舎では売れないんだ。

ムラカミさんの小説というのは興味深いことが
あります。
それは何かと言うと、ムラカミさんの書いたもの
は、大抵の文芸評論家は無視をする、という
ことですね。

確かに無理からぬ部分もありはするんですけどね。
まともな文学作品研究というのは、生きている小説家は
扱いません。

大学の卒論でもそうですよね。
国文科で日本の近現代文学の専攻学生が
筒井康隆で卒論を書きたい、と言ったら
おそらく指導教官は「ア○か。」と言うと思う。
「何考えとんじゃ。ボケ。」とか。

生きている小説家というのは、まだこれから
どういう方向にその小説家のテーマが動いていくか
分からない。だからきちんとした評価ができない。
なので、仮にその作家論を書いた、としても、それは
その時点までは、こう、ということしか論じられない。

だから有吉佐和子とか向田さんならいいけれども、
かわかみひろみさんで卒論は書けない。

ということがあって文学研究は生きている小説家は
扱わない、という部分は確かにあるんです。

しかし、文芸評論家は軽めの文芸時評だって
書くわけで、そういう文芸時評でもムラカミさんは
きっちり無視されます。
確かに社会現象として取り上げられることは
あるかもしれない。
「売れてるんだそうです。大したもんやなー。」という
取り上げられ方はするけれども、その小説の
テーマの中にまで入った精緻な分析は
行われない。

文芸評論家は無視する。(社会学者くらいなら
論評するだろうけど。)
それからライブラリアン(図書館員)にもあまり
受けが良くない。
知り合いの図書館関係の人に「ムラカミさんの
作品、読んだ? 」って聞いたら「風の歌を聴け
くらいやねー。」(30年前のデビュー作です。)
とか、「遠い太鼓くらいかなぁ。」というお返事。

図書館員とか、文芸評論家というような人種には
ムラカミさんの本は本当に受けが悪い。
なぜでしょうか。

実はそれが、ムラカミさんの作品が都会では
爆発的に売れるけれど、田舎であんまり売れない、
ということにつながっている、と謙介は睨んでいます。

ムラカミさんの小説って、深刻な人間同士の
激しい対立がないわけです。
片方の登場人物が何かを主張してストーリーの
中心に出てくると、もう片方の登場人物はすーっと
その場からいなくなるとか、身をひくとか
して、深刻な対立を避けてしまうわけです。
これがあなた、山崎豊○さんの「白い巨塔」とか
「華麗なる一族」なんか読んでごらんなさい。
相手を自分の智恵の全てを動員して
亡き者にしたりする、なんて平気でやります。
壮絶な人間ドラマがそこにあります。

しかし、ムラカミさんの小説にはそういう対立、って
あんまりない。
それはおそらくムラカミさんが一人っ子で、
小さい時から群れを離れて
一人で歩いてきた、ということと関連しているの
だろう、と思います。
人と人の激しいぶつかり合いというものが
彼の小説にはありません。

都会に住む人間にとっては、そんなムラカミさんの描く
その登場人物間の距離の配置のされ方が
適度に開いていて、それがとても心地いい、というのか
お互いに濃厚に影響を及ぼしあわないから、「理想的」に
映るんだろうと思います。

ところが文芸評論家とか図書館員のような専門的な
本読みの人種から言わせると、そんなポツンポツンとした
距離の置き方で、登場人物同士が孤立したような小説なんて
「人間が描けてない」ということになるわけです。
人間が描けていないような作品なんてダメ、小説になってない。
ということになって、「小説じゃないから批評なんてできない。」
という結論が出てくるわけです。それで批評家には
彼の作品はスルー、されるということになるわけです。

都会のお互いの人間関係が比較的希薄な中で生きている人に
とっては、あの小説はすごく身近で、よく分かる部分が
あるだろうと思われます。
だから田舎に住んでいても、その人の生涯のある一時期
都会で過ごした、とか今だけ都会から仕事の関係で
きている、という人間は買うかもしれません。


ところが田舎と言うのは、濃厚でしかも固定的な
人間関係です。
何度も言っていますが、田舎なんて、山田さん(仮名)ところの息子は、
何日の何時ごろ○○で女を連れて歩いていた、
というような情報がインターネットより速くオバサン同士の会話の中で
飛び交うような場所です。
そういうところで育ってきた人間には、
人間関係と言うものは
そういうものである、と普通に思っていますから、
ああいう都会的な人間関係の希薄な文学作品は
理解がイマイチできない、仮に読んだとしても
親近感が出てこない、
ということになります。

後、それから田舎に住んでいても濃密な人間関係が
嫌だ、というような人もいい、と思うでしょうかね。

だもんで、田舎の本屋ではちっとも売れないで、平台の上に
積まれている、という事実を謙介は「多分そうだろうな。」
と思いながら見ていたわけです。

ムラカミさんの小説は分かりやすいと思います。
難解ではありません。
だから日ごろあんまり本を読まない人でもとりあえずすらすらと
読める。
以前なんて、もっと難解で文体でテーマも
重い小説というものが多かったのですが。

試しに高橋和巳の『非の器』でも読んだらいいと思います。
おそらく1ページ読んで嫌になるんじゃないですかね。(笑)
埴谷雄高の『死霊』とか。そうした重厚な作品に較べたら
ホントにもう嫌になるくらい軽い軽い。
そういうことも、彼の小説が多くの人に
読まれる原因かもしれません。

ま、それが分かったから、と言って、どうだっていいような
ことなんですけどね。(笑)

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Comments

 小説=「眉間にうーむと皺寄せて書かれた作品」を読む方も真剣深刻真面目にうーむと皺寄せて読むもの,という近代日本の等式を軽やかにスルーしちゃったのがムラカミさんという気がします。
 ま,そんなこと言ってる僕自身もぱらぱらとしか読んでないんですけど・・・それはムラカミさんに限らず「小説」全般に対してそうなんで(苦笑)

Posted by: Ikuno Hiroshi | 09. 06. 10 at 오전 12:46

なるほど~。
ムラカミさん、凄いことになってますよ。友達から本屋で見かけたら買ってくれって言われてますもん(笑)結局お取り寄せしていたようですが。
そういう私は某ベストセラーを読んだかエッセー読んだかくらいですが、なんかなじまなくて、あれれ??何故?もしかしてド演歌調の小説が好きだから??と己を疑ってたのですが、今夜確信に変わりました(笑)

>それはおそらくムラカミさんが一人っ子で、
>小さい時から群れを離れて一人で歩いてきた、
>ということと関連しているのだろう、と思います。
>人と人の激しいぶつかり合いというものが彼の小説にはありません。

これ、確かにそうです、そういう側面あります。自分も一人っ子ですが、凄く苦手ですもの、ぶつかり合い。なんか妙にうなづくことが多かったです、この記事。ありがとうございました。

Posted by: 百 | 09. 06. 10 at 오전 12:57

----Ikuno Hiroshiさん
ムラカミさんの本、本当に田舎じゃ売れません。(それでも県庁所在地の都市の比較的大きめの本屋なら、多少売れるかもしれないですが。)海辺のカフカなんて、地元の話なんですが、それでも本屋で聞いたら、○木和子さんには勝てなかったみたいです。ムラカミさんの小説を導入にしていろいろな文学の中に入っていって欲しい、と謙介なんかは思うのですが、最近の本を読む人の傾向って、その作家の本しか読まない、みたいなんですよ。間口が狭い、っていうんですかね。知ってる作家の新刊しか読まない。ちょっと残念な気がします。

Posted by: 謙介 | 09. 06. 11 at 오전 6:09

----百さん
 前に近現代文学専攻の先輩に聞いたら、村上さんの位置、というのは「大衆文学」という場所になるのだそうです。同じムラカミでも龍さんのほうは「限りなく透明に近いブルー」で芥川賞をもらってスタートしたのに対し、ハルキさんのほうは芥川賞も直木賞ももらっていなくて、それがご本人にはすごいコンプレックスになっているのだ、と聞きました。謙介だって一応ムラカミさんの本は見てる、という程度で、全然根性はめて読み込んだわけではないので、大したことは言えないのですが、それでも「現代日本の中での彼の作品の置かれ方」、という側面から見たら結構興味深いものではないか、と思ったりしています。

Posted by: 謙介 | 09. 06. 11 at 오전 6:14

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