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09. 03. 18

さくら舞い散る道の上で

俺の住む街は昨日、染井吉野の開花宣言が出た。
(本日だけ、さくらバージョンのテンプレート。)
来週後半は花見ですかねぇ。
うちの近所のお寺の桜もついさっき撮ってきたのは
こんな感じ。


Sakura2009

ちょうど今は卒業式のシーズン。
何か自分のこともあれこれと思い出してしまった、、。

学校を終えて、その時家族の住んでいる街に
戻らなければならなくなり、
自分が育った京都の街をとうとう離れることになった。

「そうしたら、元気でな。」
「うん。ありがとう。」
何人かの友達が見送りにきてくれた。
朝10時ごろだったと思う。
うらうらと晴れた日だった。
俺以外の人間にとっては、その日も
次の日もまた同じような日のそのうちの
1日にしか過ぎない日だったろうに。

車は住み慣れた常盤から新丸太町通りに出て少し東に行き、
花園黒橋から立体交差に乗って南に走った。
愛宕山がどんどん後ろになって行く。桂川に沿いながら
南に下って、今度は西国街道を目指した。
俺はもう一度窓を開けて京都の街を見た。


その風景は、昨日までともちっとも変わらなかったし、
俺がいなくなろうとしている今日以降もこの街に住む
人にとってはきっと同じような
明け暮れが続くだけなのだ。

車は西国街道に入った。
「あーあ。いよいよお別れやなぁ。」
俺は、もうちょっとで泣きそうになるところで
神戸まで送ってやる、と言ってくれた友達に
言った。
「また、いつでも戻ってきたらええねん。」
「アイ シャル リターンや。
みな居てるんやさかい。
帰ってくる場所なんていくらでもある。」
「うん。」
俺はそれだけ答えるのがやっとだった。
乙訓(おとくに)のたけのこ山を眺めて、車はいつか
京都から大阪に入っていった。

学校では自分のしたいことを全てやった。
その時の自分は、それまでの間、一生懸命
やったし、そこからの変な自信が、自分は
もう何だってできる、みたいに思っていた。
このことをこれからの仕事にいかして、
いける、と思っていた、、、。

でも就職していざ、仕事にかかると本当に
自分の力のなさを知った。毎日、自分の
キャパシティ以上のことをどんどん要求されて
それに十分答えられない自分に嫌になり
情けなく思った。その話はまた日を改めて。

前にも言ったけれど、俺のいた学校の国文科の連中と
きたら、本当に変わり者ぞろいというか、どこでどう
集めたら、こういうヤツらが集まるかなぁ、というような
人間ばかりだった。
新入生の合宿がセミナーハウスであったのだけど
その時、話に出たのが、大阪の桜ノ宮の
ラブホの比較研究。
「アホ、○○○○○なんてあかんのじゃ。
×××は、ブランコがあんねん。それに乗ってやな、
こうやるとなぁ、、」
「×××なんて高いだけやんけ。」

そういうラブホ談義がこちらで交わされていたと思ったら、
向こうでは、最近読んだ本の話をしてたんだけど
その本が、まーたコムツカシイ本の話で、、
ヨシモトタカアキの今度の本は、とか
〇〇は、最近ダメだとか、、。
あっちのほうでは、ブルースについて熱く語る
にいちゃんがいたり、、。

もう横で聞いていた謙介さんは、どちらも「さよか。」というほか
なかった。

学校に出てくるのは試験のときだけで、
後はひたすらバンドで好きな音楽をしてたヤツ、
写真に熱中していて、被写体を追ってしょっちゅうどこかに行き、
これまたたまにしか学校に出てこなかったヤツ。
それでも驚くことに、センセイはそんな奴らが、
今、どこで何をしているか、案外きちんと把握していた。
これは学生の人数が少なくて、センセイが学生の顔を
全部把握できていたらからできたことだろうと思う。
ある日、今から、ゼミがはじまる、という直前に
センセイの部屋に行ったら、センセイは、電話を
かけていた。「アホ、さっさと、蝶々追うのんもええ加減にして
定家の歌に戻ってこんか。単位やらへんぞ! 」
その声は、センセイの研究室に入ったものの、電話中で、もう一度外に
出た、俺のところまで聞こえてくるような大きな声だった。

(しかしまぁ世間の人から見たら、蝶々取りも
藤原定家も浮世離れしている、という点では
同じかもしれない、けど。)

「ええで。電話済んだわ。」
「Iやけどな。写真に撮りたい蝶々がいてる、って
鹿児島にいてんねん。あいつ、今日、発表やのに、
すっぽかしよって。アリヨはアリヨでピアノばっかり弾いてて
全然出てきよらへん。」
それでもその次の週のゼミの日、当たり前のようにIもアリヨも出てきた。
そうして担当だった新古今の歌の解釈をして
みんなで、その歌についてディスカッションをした。
終わってから、黒板を片付けている横でセンセイが
ため息まじりに言った。「Iの歌の解釈、やっぱりすごいなぁ。
センスあるわ。蝶々ばっかり追わえてへんと、ちょっとはまじめに
したら、モノになると思うんやけどなぁ。
どうや、変わりもんの意見は? 」
「センセイ、変わりもん、って誰ですか? 」
「あんたやあんた! 」
「ボク、変わりもんやないです。」
「謙介が変わり者やなかったら、うちの国文なんてみんな
常識人ばっかりやで。それに変わり者に限って
自分はまともやのまじめやのと言うのや。」
「はいはい。Iの歌の解釈のセンスは俺もすごくいいと
思います。」

やがて時は移り、少しずつそんな連中もキャンパスから
いなくなっていった。 雨月物語で卒論を書いた
アリヨはアメリカに渡ってブルース専門のピアノ弾きになった。

変わり者の謙介さんは、
もうちょっとやってみるか? とセンセイに言われ
少しキャンパスでの暮らしを延ばした。
それでも、必ず終わりの日は来る。
月日は移り、とうとう自分もその場所を去る日が来た。

おもしろかったヤツらとの別れはそれはあっさりしたものだった。
「ほなな。」
最後の飲み会を四条でしたとき、そう言ってみんな明け方の
京都の街に散っていった。
俺はあの春の明け方の風景を今もはっきりと思い出すことができる。

それはまるでまた来週、いつものように教室で会うかのように、
軽い軽いあいさつの言葉で。
ほなな、の連中とは、それっきり、になってしまった。
大体学校にいるときから把握が難しい連中だったのだ。
いまやどこにいるか分からない。

一度だけ、そんな中の一人と偶然会った。
場所は近鉄大和八木のホームで。
いきなり後ろから名前を呼ばれたのだ。
「え、あ、 〇〇? 」
「久しぶりやなぁ。」
そのときはお互いの電車が来るまでの15分
二人でしゃべり倒した。
俺の乗る、名古屋行きの特急が来た。
「ほなな。」
「元気で。」
後からやっぱり住所を聞いておいたらよかったか、とも
思ったけれど、どうせ聞いたところですぐに変わるし、、。
と思い直した。また縁があったら会えるだろう。

「ほなな。」と、また明日続くように別れていく。
それがあいつらとなら普通にできる、と
思う。

今でもたまに連中のことを思い出す。
やつらときたら、まだ20代で、いつも突然に俺の前に現れては
「あのころ」を思い出させて、また霞の中へと消えていく。
たぶん地球上のどこかで元気でいるのだろう。
いや、そう思いたい。


だけど、こんなことだってある。
15日の晩、そろそろ仕事場の街に出かけようか
とした頃、電話があった。
「もしもし。〇〇さんのお宅ですか? 」
「はい。」
「謙介さんいますか? 」
「はい。オレですけど。」
「私、大学のときに一緒だった、△△です。覚えていますか? 」
と、相手は俺が全然記憶にない名前を言った。

「懐かしいなぁ、、今から会えますか? 」
「無理です。今から、仕事場のほうの家に戻るから。」
「××の〇〇〇町のほうですか? 」
その町名の読み方は間違っていた。
「またかけてね。」と最後までフレンドリィに語った彼女は
そうして電話を切った。
「ばーか。」

思えばその電話は怪しさ爆発の電話だった。
どうして俺と親しかったはずの人間が、本人が出ているのに
謙介さんいますか? なんて言わないといけないのか。
俺の仕事場のほうの住所は電車の駅にもなっている
地名なので、その街に住む人間なら、何の間違いもなく
読めて当然の地名なのに、彼女は間違った。

まぁ相手が女性だったから、結婚して改姓ということも
あるかもしれない、と、思って念のために
本当にいつも同じ研究室で一緒に調査をしたりしていた
〇〇さんに話をした。
「△△っていう人が親しげに、話してきたんだけど
そういうヤツ、いた? 結婚して改姓した、とか言うの
俺疎いから、わかんないんだけど、、。」
「そんな人居てへんわよ。」
彼女は言下に言った。
「改姓とかもない? 」
「そんなものないわ。」

そうやって人の思い出を利用して、変なことをしようと
してくるヤツもいるんだよね。
どうせそうやって思い出で釣っておいていざとなったら
碌でもない話だろう。
思い出は大切にしておきたいのに。

友達だから用事を頼む、
頼まれる、そういうことも当然あるし、
そいつのために何かをする、とか
してもらう、っていうことだってある。

でも、それはやっぱり友達として時間を
かけて話をしたり、何か協力し合って
ひとつのことをしたり、経験を一緒にするとか
そういう時間とか、お互いの理解を重ねて
それで親しさが深まって、それで自然に
そういう気持ちになったら当然出てくることじゃないか、
と思う。

俺ね、ブログにランキング用のアイコン貼ってない
理由ってそれなの。読んでくれるのは本当に
ありがたいと思う。読んでくださる中には
おそらく親しい人だっていると
思うけど、会ったこともない不特定多数の人に
「アイコンクリックしてね」 なんて俺、人に頼むの
すごく心理的に抵抗があるんだもん。

そこまで気安く頼んでいいのか、って。
そういうのが全然気にならない、
っていう人もいるだろうけど、俺はそういうの
全然見ず知らずの読んでくださっているだけの人に
頼めない。
なんだか、そこまで頼んでいいのか、って思う。
だからそういう何かを頼まないといけないような
ものは極力外している。

まぁそれは人の考えだからいろいろだとは思うけど。


「ともだち」って親しげに言ってきて、人の「思い出」に乗じて
大切なものを利用しようとしたり、
その宝物を壊しにかかってくるヤツがこの世の中にはいる。
自分たちは、何か意図とか目標とかが
あるのだろうが、そういう人の心を利用して
平気で人の思い出の中に踏み込んでくる、なんて
俺はそういうヤツは絶対に許せない。
やれやれ。
世間にはこういうのもいるからなぁ。


(今日聴いた音楽 さくら 独唱 歌 森山直太朗)

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