« 観劇は出発から帰宅までが「祝祭」です(その1) | Main | 観劇は出発から帰宅までが「祝祭」です(その3) »

09. 03. 26

観劇は出発から帰宅までが「祝祭」です(その2)

先日、今年のこんぴら歌舞伎のチケットが届いた。

去年の席は、金比羅大芝居・金丸座に二つある
花道の主の花道の前。
目の前、50センチのところを海老蔵丈やら男女丈が
歩いていく、というところ。
うちの姉なんか、「暫」の時、花道で成田屋の
若ぼん(海老蔵)が装束をバサッと振ったら、
それが顔といわず身体といわず
かかってさ。「きゃあ! 」と言って、
周囲の人にうらやましがられるわ、本人はすっかり
舞い上がってうっとりするわ、でもう大変だった。(笑)
こんぴら歌舞伎の何といってもいいところ、
っていうのは、こんなふうに役者さんと観客の
距離がすごく近い、というところ。

今年のお席は、舞台中央の前から数えて
3つ目と4つ目の2つの升席。
最初は内輪でこんじまりとか、って言ってたんだけど、親戚の
おばちゃんも行く、姉のオーケストラ友達も行く
ということになって、大挙して見に行く、という
ことになった。

今年の昼の部の演目は、平家女護ヶ島から
「俊寛」と浪速飛脚往来から新口村。ここで、
お弁当休憩がありまして、その後、身替座禅
ということになっている。
俊寛も新口村も重たい話。

俺ね、俊寛には、思い入れがあってさ。
学校を卒業して、就職になってさ。
採用が決まっていた機関の
人事の発表が3月の28日にあって、「あんたは離島」
って言われたときにさ、まず思ったのが、まるでこれは
俊寛やなぁ、っていうことだった。

俊寛のお話は
時代は平家が強かったころ。

鹿ヶ谷での平家討伐の陰謀がばれて、
(例の瓶子=平氏 がころんだ、っていうあれですね。)
俊寛と康頼、少将の3人は、
南海の孤島・鬼界ヶ島へ島流しになる。
いつか島の海女・千鳥となじみ
夫婦になることを決めた少将を、
俊寛らが祝う。

そこへ赦免の船がやってくる。
上使の瀬尾が赦文を読み上げると、
そこに俊寛の名は入っていなかった。しかし、
もう一人の上使・丹左衛門が読んだ
赦文の方では俊寛の名前も入っていた。

やれうれしや、都に戻れると乗船の折、
少将とともに千鳥も乗ろうとするのだけど、
瀬尾に拒まれてしまう。
それで少将は島に残ると言いだす。

瀬尾は俊寛に、俊寛の妻・あづまやが
平清盛の側女となることを拒み、
子とともに自害したことを告げる。
それを知った俊寛は都に帰ることをやめ、
千鳥を自分の代わりに船に乗せることを決心する。

そして瀬尾の刀を抜き、瀬尾に斬りつけたため、
この罪で俊寛は、「自分は流人として再び島に残る」といい、
千鳥と少将、そして康頼、基康を乗せて船は都へと発ってしまう。

「俊寛」のあらすじをざっとお話したらこんなもの。

時々さ、都会の人が、南の島に旅行に行って、
癒されただの、すごくよかっただの、って書いてあるのを
読むとさ、俺は正直、けっ、って思うんだよ。
そりゃね、1年のうちで気候のいい時期に数日行って、
たまの休みでのんびりして帰ってくるだけだったら
癒された、なんていう気持ちにもなるだろうさ。

だけど、その島で、仕事をしながら生活する、となったら、
全然違うもの。病気にもなってごらんよ。俺の居た島なんて
病院なんかもちろんない。お医者さんは週に3回、一回2時間くらいしか
こないの。それ以外のときに、急病にでもなってごらんよ。
実際なったさ。それで、海上保安庁に救護艇を要請して
来てもらって、病院に行ったことだってあるもの。
夏はいいさ。リゾート気分でのんびりできて。
冬なんか大変だよ。風がきつくて船が来ない。
近くまで来ても、波が荒くて島に接岸できない。
ということは物資が来ない。


島に赴任していたときに、母方の伯母が亡くなった。
伯母は小さいときから、何かにつけて
しかられることが多くて恐い存在だったけれど、
俺が学校を出る頃には、きちんと一人前の大人として
俺を遇してくれて、それからは、本当にかわいがって
もらった。
でも、そのときの上司は、独身者が週の
途中で帰ると、仕事の割り振りがつかなくなる
とか言って、俺が帰るのを許可しなかった。
そのくせ別の人が帰るのは許した。
その人は妻帯者だったからだそうな。
おかげで俺は葬儀にも行けなかった。
近しい人が危篤になっても会いにすら行けないの。

俺はあの時の上司二人を今も恨んでいる。
あの二人を俺は一生許さない。

島の生活はやはりいろいろと無理に無理があって、
おかげで2年目後半から鬱になった。
島の生活がいいとか癒されるとか、って
そんなに気に入った気に入ったって言うのだったら、
その島で一生暮らしたらどうだろう? 

だけど、そういう人って、そこまではしないのね。(笑)
できないの。
軸足はあくまで都会で、たまに離島。
そんなのだったら、島のいいところだけを見て、で
終われるもんね。上澄みだけ見ててさ、いいなぁ
って言っていられたら、そりゃいいさ。
試みに3年くらい島で生活してみたらいいと思う。

でも島の生活なんてそんな
いいところばっかりじゃないもの。
(島に住んでいる人がごらんになったら、
島暮らしの悪口を書いているかのように
見えるかもしれない。そういう意味で書いて
いるんじゃないからね。
けど、俺は島でそういう
生活しかできなかったもの。)

俺は俊寛さんと違って任期が終われば、また転勤が
ある、という確証はあった。しかし、それでも島で病気に
なって健康を損ねた。南の島はあこがれ、癒される
なんて言う人がいるけど、俊寛さんの行ったのは
まぎれもない、その南の離島だった。
罪人ということもあっただろうけど、
普通の島の人でさえ、生きることにぎりぎりの生活を送って
いるような島だ。
とりあえず赦免の船が来るまでの
そこでの生活がどんなしんどいものだったか、
そのしんどいだろう、という想像は、
わが身のこととして想像できる。
だから、謙介は、俊寛の話はお話以上に
その俊寛のストーリーの底にある、離島のしんどさ、
という部分に自分を投影してしまいそうになる。

そう、重いテーマの演目なのだ。
それからもうひとつの「新口村」だって
重い。
去年の「暫」のように単純明快! とは決していかない。

(長くなったので、今日はここまでにします。)


|

« 観劇は出発から帰宅までが「祝祭」です(その1) | Main | 観劇は出発から帰宅までが「祝祭」です(その3) »

おげいじゅつ」カテゴリの記事

Comments

私は東京でしか歌舞伎を見に行ったことがないのですが、お弁当を幕間に頂くのって時間がなくて大変じゃないですか?私がトロいのか、いつも競争の様に頑張っても食べ終わりません。
友達が離島に飛行機でやってくるお医者さんをやってました。天候が悪いと飛行機は飛ばないし、ちっちゃな飛行機で落ちるんじゃないかと気が気じゃなかったと。田舎って不便なことも多いですが、何より田舎の人の代々続くコミュニティに決して入れてもらえないっていうのが、住んでみないと気がつかない住みにくさじゃないでしょうか(私、田舎出身ですから)。
金毘羅歌舞伎、羨ましいです!皆さんで楽しんで来て下さいね。

Posted by: アリクイ | 09. 03. 26 at 오후 11:40

----アリクイさん
 えっとですね。お弁当の大きさにもよるかもしれません。ちまちまとした、あまり大きくないのだったら、大丈夫です。こんぴら歌舞伎の場合だと20分くらいになりますか。そうですね。食べた、終わった、柝の音が、というようなことかもしれません。島はそうでしたね。受け入れてくださった方もおいででしたが、なかなか、、そういう外から来た異分子は、面倒なことが多々ありました。

Posted by: 謙介 | 09. 03. 27 at 오전 12:10

朝ドラ「だんだん」でも離島の診療所がでてきます。ドラマでは描かれていませんが、経済的問題(島民の診療代だけで採算取れるの?24時間体制、すべての診療科目を診るハードな勤務体制にみあう報酬が取れるの?)は大きいと思います。ドラマでは「親が医者で離島での地域医療に尽くしたので、息子もその意志を継いで」ってことなんですが、医師個人の正義感・使命感に頼るのには限界がありますよね。
今年のこんぴら歌舞伎、中村屋ですよね。過剰演出と言うか、私はどうも中村屋は苦手です。

Posted by: mishima | 09. 03. 27 at 오전 10:58

---mishimaさん
お返事遅くなって申し訳ありません。
実は、俺が赴任する直前までお医者さんがいらっしゃったのです。が、高齢になられて、もう診療をするのが、ということで、引退されて、その後後任が半年くらい決まりませんでした。そうしてようやく、公立病院のお医者さんが交代で、島に寄る、ということで落ち着いたようです。
でも船の待ち時間の2時間だけなんですよ。俺みたいに風邪をひいた、と言っても歩いて診療所まで行ける人間はいいのですが、お年寄りの中には、それすら困難になっている人もいました。本当にそういう離島の診療は、困ります。 島暮らしにあこがれる、というのも、いいけど、そういうしんどい面も多々あることを忘れて欲しくないですね。
 それとこんぴら歌舞伎ですが、そうなんです。ちょっと心配しているのは、今年の演目、二つが重いじゃないですか。その分、身替座禅が、はちゃめちゃに明るくなりすぎはしないか、と、思っているのです。品よく踊って欲しいのですが、、今年はちょっと無理かも、と思っています。(笑)

Posted by: 謙介 | 09. 03. 30 at 오후 12:44

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/91870/44466830

Listed below are links to weblogs that reference 観劇は出発から帰宅までが「祝祭」です(その2):

« 観劇は出発から帰宅までが「祝祭」です(その1) | Main | 観劇は出発から帰宅までが「祝祭」です(その3) »