ショーコさんへ
ショーコさん。
先週の木曜の晩、
電話嫌いなあんたの旦那さんから電話がかかってきたよ。
どうした? って俺が聞いたときに
電話の向こうから聞こえてきたのは
あんたが亡くなった、ということだった。
え? ちょ、ちょっとまって。 誰?
誰のこと?
俺は何度も聞きなおした。
でも旦那は、ショーコさんの言い方だと
「トオル」は「うちのが亡くなった」と、はっきり言った。
どう考えたって「元気のかたまり」みたいなあんたが
俺より先に逝ってしまうなんて、俺には考えられなかった。
どうしてあんたやねんな、
という気持ちしかわいてこなかった。
聞いたら4年前に乳がんの手術をしたんだって?
4年かぁ、とそれを聞いて思った。
術後5年再発しなければ、というのに
4年、っていうのは、ねぇ。
ホントにもう少しだったのに。
もう少しでゴールだったかもしれないのに。
どうしてあのとき、は禁句だけど、
どうして、胸だけでなくて
肝臓とか他の場所も詳しく調べて
もらわなかったのさ。
でも、つらかったよね。
現役の看護士さんが病気になるって、
自分が今、どういう処置をされているのか
この処置は希望があるものなのか
それともターミナルなものなのか、
全部分かる、っていうことだものね。
打たれた鎮痛剤がモルヒネ、って分かったとき、
どんなことを思った?
何を考えてた?
ショーコさん。
あんたの情熱はいつも燃えていた。
人を巻きこむような力強さは人一倍あったのに、
けど、そのくせ、あんたの対象を見つめる目は
ちょっとクールで、いつも冷静だった。
ちょっと離れたところから、じっとそれを
見てたけど、のめりこむんじゃなくて
ちょっと批判的で。距離を取ってて。
情熱と冷静さと。両方いっぺんに持てるヤツ
なんてそうそういないよ。
そういうところ、ホントすごいと思った。
そんな難しいこと、らくらくとこなしていて。
だけどさぁ、自殺や病気で遺された家族の心的支援、
なんていう研究やってたあんたがよ、
家族を遺して一人、先に逝ってしまって
どうするんだよ。
まったく、
しゃれにもならないじゃないか。
俺だってガーンときてるんだから。
同い年のヤツに死なれるのが
一番堪えるんだからさ。
俺なんか二人の結婚式で挨拶させられたの
今もはっきり覚えてるもの。
だけど、あれから、もうずいぶん経ってたんだよね。
ふりかえってみると
月日の流れってものすごく早い、と思う。
子ども3人、みんな大きくなったね。
一番上のさ、彼なんて、小さかったときは
はちきれるみたいに元気そうで、自己主張が強そう
だったのにさ。 こないだ会ったら、俺、びっくりしちゃったよ。
だって話し方だって、思慮深くなっててさ、
哲学者みたいな顔してたもの。
え? あれ誰よ、って思わず聞いちゃったじゃないか。
小さかったとき、高知の海に一緒に行ったときの
あの彼ではもうなくてさ。
俺驚いた。
どんなふうになるか分からなかった子どもがさ、
ちゃんと自分の意志を持って、
自分で考えられる人になってた。
そうか、もうそんな歳月が流れたのか、と
彼を見てしみじみ思ったさ。
信じられなかった。
そう、信じられないといえば
土曜日にトオルん家にお邪魔したときだって、
どうして仏壇の前にあんたの写真がなきゃいけないんだ、
って俺、何度も思ったよ。
月並みな、あまりに月並みな言葉だけど、
信じられない、って。
だけど目の前にいるあんたの旦那の話を聞いてると
うそじゃない、って思わざるを得なかった。
でも俺はまだこの現実が受け入れられない。
これを受け入れるのには、まだもう少し時間と
自分の中の心の整理が必要だと思う。
そっちはどう?
ばあちゃんと一緒に話でもしてる?
きっと天上から見てたらさ、
謙介のバカが何やってんのよぉ、って思うことだって
いろいろあろうとは思うけどさ。
そういう時は、片目つぶって見逃してね。
それから、しんどかった今までの分、
どうか楽に過ごしてね。
俺もどうなるかわかんないんだけどさ、
とりあえず、もう少しこちらに
滞在のご許可をいただいているから、
オマエはもうあっちにいけ、と言われるまで
今しばらくこっちにいさせてもらおう、って
思ってる。
そちらの天気はどうだろう?
こちらは雨が降る、なんて言ってたのに、
今日はすっかりいい天気でさ。
こうしている間にも、どこかで生命が誕生して
どこかで生命が終わろうとしている。
誰にでも最期はやってくるものなのだけど、
できるだけ、そう、できるだけ、
あの時ああしとけばよかった、だけは言わないように、
そうしたいなぁ、って思ってる。
とはいえ、明日、謙介の生はおしまい、なんて
いうことだって有り得るんだけど。
まぁそのときはそのときだね。
それこそ仕方ないさね。
まだ言いたいことはあるけど、
話してたら、どんどん悲しくなってくるしさ。
今日はここまで。
じゃあまたね。
お別れは言わないから。
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Comments
謙介さんこんばんは。
メールありがとうございます。
自分に近い人が亡くなるというのは本当に辛いことですね。
連れ合いのいとこも乳がんでまだ学生の女の子を残して亡くなりました。
もうすぐ今年もピンクリボンキャンペーンがはじまります。
昨年も受けたのですが今年は病院をどうしようかと思案中です。
女性の皆さんマンモグラフィーがいやならCTもあります。
子宮ガンの検査も「少しちくっとするだけ。」です。
自分と家族のために是非受診なさってください。
大好きな祖父が亡くなったときは一年くらい現実感がありませんでした。
ある日仏壇の写真を見ていたら「本当に亡くなったんだ。」と思い涙が止まりませんでした。
この感じは体験した人だけのものだと思います。
生きたくて生きられない人。
生きられるのに生きていたくない人。
世の中は本当に様々です。
先日病院に行きましたら。「本日の予約2700人」とありました。
予約だけでこの人数。
みんな生きるために戦っています。
自分の人生を生ききりたいなと思います。
Posted by: ラジオガール | 08. 09. 17 PM 9:11
----ラジオガールさん
俺の行っているがんセンターの今の院長のT先生は、乳がんが専門の先生だそうで、地元でもことあるごとに催しに出てきて、話をなさっています。
人間不思議なもので、どんなにこちらが言っていても、相手とすれば、自分がそういう状態にならないと、なかなか真剣に耳をそばだててはくれない、という悲しさもあります。(あれほどHIVについての啓蒙活動が行われていながら、「自分は関係ない。」と思って、ハッテン場に行って、ムチャクチャをする、という人がいるのと同じかなぁ、とも思います。男性の同性愛者のHIVの患者数は増えていさえしています。)
しかし、それでも、やはり周囲の人間を亡くした人はこれ以上悲しい人を増やさないために言い続けるしかない、ですよね。
検診受けてね、って。この悲しみはやはり時間がかかるとは思いますが、それを何とかして別の力に変えていきたいと思っています。おかげさまで、と言ってはいけないのですが、多少は今までの経験があるので、ムチャクチャに落ち込まずにはいられています。そういう思いも持ちながら、片方では、しっかり生きていきたい、と思います。はげましのお言葉ありがとうございました。
Posted by: 謙介 | 08. 09. 18 PM 6:06