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08. 08. 06

そして、どっこもあらへんようになってしもた

昨日、仕事場で「必死のかりこ」で仕事をしていた
午前10時半すぎ。

机の電話が鳴った。

「あのな、采女の話やけどな。」
「もしもし」、もなくて、「〇〇やけど、毎日暑いなぁ」もなくて
いきなり「うねめのはなしやけどなぁ、、。」って。

はいはい。かくおっしゃるのは、大学のときお世話になった
〇〇先生しかおりませぬ。

先生采女の話を一通りした後で、「あんじょうたのむわ。」
「じゃあ、今晩まででよろしいですか? 」
「いつもおおきに。」
(なんかここだけ聞いてたら、政治家同士のやばい話みたいだけど)


もうねぇ専属の秘書というか、調査係というのか。
先生、新しい論文をまとめようとしているらしいのだけど
その下調べであれこれと本に当たっているのだそうな。
その予備調査のついでに弟子のところに電話をして、という
ことだったよう。
その後で、京都の本屋の話をしていて、俺、ちょっと
驚いたことがあった。

そう昔のことではなくて、そう1995年と今の比較
ということだったんだけど。
ことの発端はアオキ書店という本屋。
「御所の向こう側に、アオキ書店ってありましたよね。」


(京都の地理をご存知ない方のためにお話すると、
京都の真ん中を南北に走る烏丸(からすま)通りという
通りがあります。(地下を地下鉄が走ってる)
その烏丸通と東西に走る丸太町通という通りがありまして。
この二つの道路が交差した場所を烏丸丸太町と言うわけです。
京都の街中の交差点は大抵二つの道路の名前を併記した形で
呼ばれるわけです。座標軸のように。
三条通と河原町通で三条河原町、千本通と今出川通で
千本今出川。ただ、時々フェイントがありまして。
西大路通りと丸太町通りの交差点、西大路丸太町というか、
といえば、言わないで、円町って言ったりする。笑)

それでその烏丸丸太町の北西角に結構大きな本屋があった。
京都御所で友達とバドミントンをした帰りに、ちょっと寄ったりする
ことがあった本屋さん。
「アオキ? のうなってしもたで。」
「へ? 」
「今は確かマクドとコンビニになってはるわ。」
おもわず「マジっすか。」って言いたくなった。

「あのな、本屋、京都の街中からごっそりのうなって
しもてんで。河原町通りなんて、あんたもっと悲惨やわ。マトモな
本屋なんて、一軒しかあらへん。」
「え? ちょ、ちょっと待ってくださいね。
いや、京都書院が倒産したのは知ってますよ。

京都書院はね、藝術とか哲学関係の本が揃ってた。
2階に上がる階段の途中にいろいろな演劇とか
コンサートのチラシが置いてあって、好きに取って
帰ってよかったから、行ったときにそんなものも
見てたりした、、。
だけど、ここ、労使関係がすごくて、しょっちゅうストしてた。
入り口にヒモをかけて入れなくして、「スト決行中」っていう
紙がぶら下がっていたことが何度かあった。

ストって言えば、丸善もようストやってはった。
それからさ、今からはもう考えられないんだけど。
以前は丸善、土曜の昼過ぎから日曜日、って
お休みだったんだよ。
土曜の2時くらいになったら閉店でございます。
って。日曜もお休み。
みんな大名商売の丸善、って言ってましたが。(笑)
でも、丸善、おっとりとした感じで好きだったけどなぁ。
今も丸善の京都支店はあるのだけど、それは大学とか
研究所に渡す法人用の支店で、店舗はなくなってしまったから。
カジイモトジロウごっこはできません。

「それから先生、オーム社は? 」
「のうなった。」
(オーム社書店は四条河原町上がった(北へ)ところと
北野白梅町にもあったんだけど、両方ともなくなった、とのこと。
元々ここは電気関係の出版社でさ、だから電気抵抗のほうの
オームなんだけど、例のオウム事件の時は、関係あるんじゃないか
とか言われてえらい迷惑してた、って。でもここももう小売部門からは
撤退して出版ひとすじになってしまったらしい。)

「阪急の前の海南堂は? 」
「あらへん。」
(この海南堂の支店が寺町京極の商店街の中にあってね。
こっちの海南堂の支店は、出版社から出てるすべての文庫本を
全部揃えているので特色を出してた本屋さんだったんだけどね。
こちらの支店、本店ともどもなくなったって。)

「駸々堂京宝店のあと、何や大きな本屋がそのまま
入ってましたやないですか(ブックファーストだったんだけど)? 」
「あれもあらへんよ。今は何かファッションビル
みたいになってはるよ。(後から調べたら、ミーナ京都 っていう
ファッションビルになったそうな。ミーナかイーナか
知らんけど、、。)」

「駸々堂三条店のあとも何や本屋さんだったでしょ。」
「あれものうなった。」
「丸善は、閉まってどうなったんですか? 」
「今、あのビル、カラオケ屋。」

ここまできたらため息しか出なくなってしまった。
「赤尾も一階は本屋してへんよ。なんか和装小物の
お店になってはって、なんや二階で細々と営業してはるわ。」
「えー。そんなことになってるんですかー。」
「ふん。そやから、河原町の四条から三条までの間で
まともな本屋言うたら、もう淳久堂しかあらへんように
なってしもてるで。」
「へ、本屋って一軒しかないんですか? 」
「そやねん。」
ちょっとため息が出てしまった。

「それもなぁ、ここ10年くらいの間やわ。
2000年前後からこっち、もう何や河原町の辺
行くたびに、本屋さんが減ってきててなぁ。」
「ひどいですねー。」
「ふん。ひどい話や。まぁ、本が売れへんのやから
仕方がないねんけど。もう、河原町通りにまともな本屋
一軒だけやわ。」
そうか。そういうことならだいたい平仄が合うように思った。
95年ころは、河原町へ出て、まだ本を買う、ということは
結構していた。減りかかっていたとはいえまだ
結構何軒も大きくて品揃えのいい本屋さんもあったから。
それが今では、、はぁ。そういうことになっていたのね。

前にも書いたけどさ、紀伊國〇書店のおにいさんに聞いたら
毎年2億円分が消えているんだってさ。

万引きして。
確かに、阪急の梅田駅の紀伊國〇なんか、あれだけ人がうじゃうじゃ
いたら、不心得者がいて、こっそり、、なんて
いうようなことがたくさん起こっているに違いない。

まぁねぇ紀伊國〇書店ともなると儲けの分母が大きいから
2億というお金は、まだ何とか儲けでカバーできるのだろうけど、
小さい本屋だったら、万引きだらけだったら、そりゃ
成り立っていかないところだって出てくるだろうね。
現にうちの近所にあった本屋、店を閉めたけど
後から聞いたら、万引きがひどくて、、っていうことだった。
小さな書店は万引きで店が立ち行かなくなる、ってこと
あるもんね。

それと、やっぱりこれだけ、ネットの本屋が充実
してきたら、ネット経由で本を買う、っていうことの
ほうが多い、っていう人もいるかもしれない。
一般の書店って、やっぱり店舗面積が限られているから
売れ筋の本しか置かない、っていうところが
多いし。そうしたら、別にネット書店と大して変らないし、、。
ネット書店だったら、家でアイスを食べながら本を選べる
なんて出来るけど、、。


まぁねぇ、とはいえ、やっぱり本屋に行くと
初めて名前を聞く著者の本、っていうのに出会えたりするし、
実際に手にとって中身を見ることもできるしね。
そんなことで、やっぱりネットもあるけど、それはそれとして
実際に本屋に行く、ということも捨てがたいなぁ、って思う。
でもこうなくなってしまったら、、
ちょっとなぁ、、。
そんな話を先生として電話を切ったのだった。


今年の夏、みんなはどこかに出かけるのかな。

謙介は、どうも今年の夏はダメですねぇ。
今日、がんセンターに行ったら、すい臓の具合がよくないから
入院してもらわないといけません、って
言われてしまった。 やれやれ。
まぁ前々から数値がよくなかったので、
主治医もきちんと見たい、っていうことがあったんだとは思うけど。
ただ、今は病棟のベッドが全部ふさがっているとのことで
空きが出来次第、知らせる、とのことになるらしい、、。

と、重い気持ちを抱えて戻ってきたら、大家さんのお母さんが
アパートの庭に草枯らしを撒いていた。
ちょっと立ち話。

草枯らしは撒いてからしばらくして
雨が降ってくれると効果があるんだそうな。

実は、この大家さんのお母さん、
広島の原爆のきのこ雲を見ている、という人。
「今日は、広島の、あの日ですね。」と俺が言ったら
「そりゃ、謙介さん、あんた、たまげたぞな。
なんや、北のほうの空がピカーって光ったと思ったら
ドーンんてそれはすごい音がしたのんよ。
それで見とったら、ものすごいもくもくとした雲があんた、
その方から、沸いて起こって、、。

いつも思うことだけど、8月6日が来たから、8月9日が来たから、
その日が来たから、という理由で平和を思ってはならない、と思う。
今も毎日どこかで争いが起こって、死ななくていい大切な人の命が
亡くなっている。
平和なら、学校に行っていただろうに。
家族に囲まれた日々の生活があっただろうに。
すべてを放擲して戦場に向かわなければならなかった理不尽さ。
いきなり空から焼夷弾が落ちてきて、命を奪われなくては
ならなかった理不尽さ。
そんなふうに思うと、やはり平和ということの重さや意味を
考える。
その意味は毎日折りにふれて考え続けなければならない。
それが憲法にある「不断の努力」という意味だろうと俺は思う。


あの「生ましめんかな」の詩は、
ちょうど「あの日」の今くらいの時間のことだろうか?

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Comments

謙介さんおはようございます。

体調はいかがですか。
こんなに毎日暑いと寝不足でどうにかなりそうですよね。

ラジオガール実は山口の生まれで、祖父は広島の兵器廠に勤めていました。
あの日に広島市内にいたのです。

小さい頃八月六日にはサイレンが鳴り家の外にでて広島の方向に黙祷をしていました。

東京に来て誰もそんなことをしないのに驚きました。

アメリカが日本に投下した爆弾はヨーロッパ全土に落とした爆弾より多いそうです。

「人はなぜ戦争をするのか?」このことについてもっと大きな予算がさかれ平和構築についてみんなが小さな頃から関心を持つような世界になって欲しいです。

消費税や環境税があるのなら「平和税」があっても良いと思います。
一人一人が「国家戦略」に巻き込まれないような社会を作っていかないと。

Posted by: ラジオガール | 08. 08. 07 AM 6:52

----ラジオガールさん
そういう平和教育、というのは、広島とか長崎とか沖縄、といった特定の地域だけではいけないんですけどね。やはり日本人が、外国人がということを問わず、そうした人たちの払った大きな犠牲の上に今の生活があるわけですよね。やっぱりそういうことを想って、平和を考える、ということはちゃんと考えていかなくてはいけませんよね。本当にそう思います。今日は、図書館で原爆の写真集を借りてきました。
もういちどよく見たいと思います。

Posted by: 謙介 | 08. 08. 07 PM 10:19

弥生時代ぐらい、「戦争」というのは問題解決の
ための、最先端の「思想」だったらしいです。
その時の最先端を未だにチョイスとして残して
いるのは人間らしいような、そうでないような。

選択肢は多いに越した事はない、程度の事なので
しょうけどね。政府という生き物も、国家と言う
骨格もそこに住まう人間が形作っているのですから、
「戦争」は無くならないんですよ。

話は変わりますが、その御婦人が体験された話、
とてもリアリティがありますよね。まるで昨日、
今日にでも感じたことのように、滑らかで艶やかで、
日本刀に似た鋭さで脳の処理する場所を刺激されました。

これと同じように、私も地震の時のつぶさを話す時は、
いつでもその瞬間のように相手側へ伝わるようです。
たとえ、意識してなくても。

どんな問題も、そばにいたか、いないと机上の空論で
終ってしまうんですよ、やはり。

Posted by: ノブユキ | 08. 08. 16 PM 7:21

----ノブユキさん

そうなんです。やっぱりよくいろいろな経験の語り部の人が、って言いますが、自分が見て、っていうことは、聞く側にも全然違った強さの印象を与えるということがわかります。それが意図する、しないにかかわらず、自分に持ってるものの強さなんでしょうね。その経験の度合いが、人に有無を言わせない強さで向かっていくのだと思います。

Posted by: 謙介 | 08. 08. 16 PM 8:05

 金がないから「ブックオフ」とか「ブックセンターいとう」とかいう古本屋で本を買うんです。店頭からすぐに消えてしまうような本があると嬉しいですね。古本屋、減ってますから。
 でも、新しすぎる本、読んでない本を見ると、万引き?と疑っちゃう。紀伊國〇で2億とか聞くと、万引きビジネスでもあるのではないかと思ってしまう。
 京都書院の消息を探しているうちにたどり着きました。おじゃましました。

Posted by: キンカン | 08. 08. 17 PM 3:41

----キンカンさん
こんにちは はじめまして。
河原町のほうの京都書院、あそこに行ったら芸術関係の本がそろっていて、(それこそ高かったからあまり買いはしませんでしたけど)よく眺めていました。
本、たぶん一部には、キンカンさんのお話のようなルートも絶対あると思います。それと後、一定期間書店に並んでいた本が返本されて出版社の倉庫に戻ってきて、それが倉庫からすぐ、ブックオフに行くこともあるようですね。たまに今もブックオフで京都書院の本を見かけたりすると、哀しい気分になります。

Posted by: 謙介 | 08. 08. 17 PM 5:49

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