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08. 06. 10

緑、したたる頃に 2/5 (小説)

今日は来るかな?

そう思いながら教室に行ってもヤツの姿はなかった。
ボクはとうとう学生会館の中にある写真部の部室に
行った。

ドアをノックすると中から返事があった。
ドアがあくと、薬品のにおいがする中、
ロングヘアの女の人が出てきた。
「あ、あの。コーヘイ、来てます? 」
ボクが言うとその女の人は、「あ、ヒロユキくん、だよね。」
と唐突にボクの名前を呼んだ。

「コーヘイの写真で見たのよ。」
やっぱ、アイツ、撮ってたんだ。
「わたし、4回の荒島。…….あ、コーヘイはね、
彼の写真のお師匠さんの撮影旅行にアシスタントで
付いていってて、それで学校にいないのよ。」
「え、撮影旅行って、海外ですか? 」
「ううん。屋久島。コーヘイはね、人物じゃなくて
風景撮りたい、って。」
「でも、なのにどうしてボクを撮るんでしょう? 」
「だから、不思議なのよね。」
荒島さんはそう言うと、ボクをちょっと引いて見た。

「あ、あの。」
「はい? 」
「アイツ、いつ帰ってくるんでしょう。」
「それが分からないのよ。写真の出来次第だから。
いいのが撮れたら今日にでも帰ってくるだろうし、
ダメっていうのなら、もうしばらくかかるかも。」
「そうですか。」そう言ってボクは帰りかけようとした。

あ、
ボクは思った。
「あの、コーヘイがボクを撮った写真、って、今
見ることができますか? 」

「ホントは人の作品だから、ダメなんだけど、、。
暗室につるしっぱなしになってるから、ちょっと持ってきて
あげる。」

そう言うと荒島さんは奥の暗室から紐につってあったままに
なってる、というヤツが撮った写真を持ってきてくれた。
「え、こんな写真いつ撮られたんだろう。」
ボクは思わずそう言った。
ちょうど講義棟から、授業が終わって出てくる時だ。
授業が終わってやれやれ、という顔をしている。
「何かね、その写真の表情がすごくあなたらしくて
いい、とかって言ってたわ。 そうね、
そう言われてみたら自然な感じだし、表情も
やわらかくて落ち着いていて、うまく一瞬を
とらえた、っていう気はするけど。 だけど、
撮るよ、とか一言も言わなかったの? 」
「ええ。」
「そうなの。」
「あ、どうもありがとうございました。
ボク、これで。」
「早く帰ってくればいいんだけど。」
「そうですね。でも、期待しても、、
いい写真が撮れるまで帰ってきそうにないし、、。
あんまり期待しないで待つことにします。」
「あははは。」
荒島さんはそう言ってのどかに笑った。

季節はいつか新緑から緑の濃い季節へと
移ろうとしていた。

ボクが写真部の部室に行って10日ほど
して、英語の教室に行くと、真っ黒に焼けた顔を
したヤツがいた。ボクが入ってくるのを見ると
大きく手を振っている。
「帰ってきたんだ。」
「昨日ね。」
「びっくりしたよ。何も言わないで
いなくなるんだもん。」
「心配した? 」と、ヤツが覗き込んで聞く。
「ちょっとね。」
「なーんだ。ちょっと、か。」
「予習、してないよね。」
「夕方とか時間取れる? 」
「今日? 」
「うん。」
「いいよ。」
「じゃあ、4時に正門。」
「わかった。」
それだけ言うと彼は、立ち上がった。
「あ、受けないの? 」
「ふふん。」ヤツは口許だけで
少し笑うと、教室を出て行った。

約束の4時。ボクは正門のところで
コーヘイを待っていた。一昨日梅雨に
入ったせいだろうか。雨こそ降っては
いなかったけれど、空はどんよりと曇っていた。
「あら、ヒロユキくん。」
振り返ると後ろに荒島さんがいた。
「コーヘイと待ち合わせなんですよ。」
「あ、あなたも? 」
「え? 」
「わたしも来て、って。」
「あ、そうなんですか。」
二人で、入り口のところで待っていると、
「あ、ゴメンゴメン。」と言いながらコーヘイが
やってきた。一緒に40代くらいの男の人と一緒だ。
「宇佐見先生。」荒島さんが声をあげた。
「今日はね、撮影旅行と留守の間、ご心配を
おかけしました、という慰労会なんだ。」
コーヘイが言った。
「どこで? 」
「ランブル・イン。もうマスターに話してあるんだ。」


その店は学校から程近い住宅街の中にある、とのこと。

コーヘイに連れられて店に行く。
近くまで来て、なんだ、と思った。

店の前は何度も通ったことがあったのだ。
外見はごく普通の住宅、なのだけど、
ドアのところに大きなカバのオブジェがあって
だからみんな「ランブル・イン」なんて
いう正式の店の名前より、「カバの店」とか「カバ」って
いう名前で呼び合っていた店だ。
「何だ、カバか。」ボクは思わず言った。
「あ、ここランブル・インなんていう名前が
あるのね。私もはじめて知ったわ。」と荒島さん。

「会場は2階だからね。」
キッチンで調理をしていたマスターがそう言った。
2階に上がると、ボクたち以外に何人かの人がきていた。
じゃあ、早速、と全員揃ったところで
コーヘイが立った。


「今日はどうもありがとう。突然宇佐見先生と
屋久島に行ったので、あいつ、どうしたんだ、
死んだんじゃねえのか、なんて思った人も
いるかもしれませんが、、」

「みんな思ってたぞー。」と外野から。

「そういうことで、ご心配をおかけ
しました。無事に行って写真を撮ってくることが
できたのと、ご心配をおかけしたのと、、」
「まだあるのかよー。」

「実は、ちょっと発表が
あるんだ。聞いてください。」
「今度屋久島に行って、オレ、やっぱきちんと
写真の勉強をしたい、っていうことに気づいたんだ。
それで、宇佐見先生の友達でアメリカにいるスミスさん
っていう人のところで、写真の勉強をすることになりました。」
「え? 」 思わずボクは声を上げてしまった。
「で、オレ、今月で学校をやめて、アメリカに行くことに
したんだ。 ここに集まってもらったのは、オレがここで
会った大切な仲間、って思ってるので、その人だけでも
今までのお礼と、ちゃんと報告をしたかったから、なんだ。」

「もう決めたの? 」荒島さんが聞いた。
「はい。」

9月から正式にそのスミスさんのところで助手見習い、という
ことで、勉強をしてキャリアを積んで行きたい、ということ
なのだそうだ。

その後もコーヘイはみんなが口々に言う質問に答えて
いたが、ボクはもうそんな言葉は一切耳に入ってこなかった。
『ヤツがいなくなるんだ。』その事実だけがボクの中で
何度も何度も繰り返されて響いた。

それから乾杯になった。
1階から料理が運ばれてきた。
大きな話し声、何度も行われた乾杯。


ボク以外の連中は、みんな元気よく大声で話し、
ジョッキを空けて、お皿を空にしていった。
「どうしたの? 」ちっとも減ってないボクの
皿やジョッキを見た人が声をかけてくれた。
「あ、はい。」とは言ったけれど、ボクは何も
食べる気が起こらず、何も飲む気が起こらなかった。

          ×         ×

すいません。
いきなりの漢文ですが。(それも横書きで。)

日本書紀 巻二七 天命開別天皇十年
あめみこと ひらかすわけのすめらみこと (天智天皇)

(十年)夏四月丁卯朔辛卯、置漏剋新台、始打候時。
動鍾鼓、始用漏剋。

(天智天皇十年)夏、四月の丁卯のついたちにして、辛卯に
漏剋を新しき台(うてな)に置き、はじめて 候時(とき)を打つ。
鍾鼓をとどろかし、はじめて漏剋を用ゐる。

と、まぁ書紀にある旧暦の4月25日が、新暦では
今日、ということで
だから6月10日が時の記念日。

自分の生活を振り返っても、
先の予定をあれこれ考える、っていうことは
よくあるのだけど、じゃあ、今、この瞬間はどうだろうね。
今のこの瞬間だって二度とかえらない時間なんだけど。

今としっかり向き合って、一生懸命に生きないと、って思う。
つい先のことをあれこれと考えたりするのだけど、そういう「先」の
ことと同じように「今」を大切にしないとなぁ、と。
今がしんどいから、今が決して自分として
いい時間に思えないから、と言って逃げの気持ちで
先を見る、って分からないことはないんだけど、
でも、今をちゃんと生きていなかったら。
まずは足元、って、俺は考える。

そんなことを「時」ということであれこれと考えていた。


日本書紀の後でいきなり地下鉄の話をするのも
いかがなものか、とは思うのだけど。(笑)

今度の東京の副都心線の車両、ってまだ
一般公開してなかったの?
今日、報道関係者に公開した、って。


俺、この車両、ずいぶん前に、そう、
去年の夏の終わりに見たよ。
どこで、って、JRの岡山駅で。(笑)

岡山に出張がありまして、岡山駅から帰ろうとしたらさ、
あれ、山陽線の上りのホームだったと思うけど
目の前に茶色の丸っこい車両が電気機関車に
併結されてのろのろ走ってきて、時間調整かなんか
だったのだろう。向かい側のホームにとまったんだ。

で、その車両、もちろん車内の照明なんかはついていなくて
中の椅子にはビニールがかぶせてあって、
しかも東京メトロのマークが車両のあちこちについてたから
あ、これは工場でできあがって今から東京まで
運ばれていくんだろうな、とは思ったけど。

車についてた東京メトロのマークが明るめの青でさ、
(空色っていうのかな。) それで、
この車両が茶色だったから、茶色と空色なんて
色の組み合わせがちょっとあってないなぁって見てて思ったの。
そんな感想。

やがて、時間が来たのか、また、機関車に引っ張られて
ゆっくりと東のほうへ走っていったけど、、。
今にしておもえば山口にある工場で作られた車両が
回送されていくのに、遭遇した、ということだったらしい。
もうすぐだね。新線開通。

しかし『日本書紀』から、地下鉄の話へ、って、まとまりのなさというか
話の飛び具合って、、ここまでくると、もうねぇ、、(笑)

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