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08. 02. 06

卒業証書

Shousho


卒業証書を書く依頼が、、なんていう話をしていたら、
土曜の朝に「今年も卒業証書頼める?」なんて
毎年ご依頼のくる学校から電話がかかってきて、、
今年も書くことになった。


字を書いて、って頼まれるので一番多いのが、のしぶくろの
上書きなんだけど、卒業証書とか表彰状とか感謝状とか、
そうした賞状を書くっていうことも結構多い。
変わったところでは、警察に提出した暴走族の解散届とか。
ええええ。元暴走族の人もお友達にいるもので
そういうご依頼だって来たりする。(笑)


それで、卒業証書なんだけど。
最近の卒業証書って、名前と生年月日と卒業名簿の
通し番号くらいでいいようになっている。

ところが感謝状っていうのは、その表彰される人、それから
どういう事柄で表彰されることになったか、っていう経緯が
全部違ってくるから、受賞される人の名前から
表彰状の本文、表彰する機関・団体まで、、
っていうふうに全部書かなきゃならないことが多い。

だけど、確かに卒業証書は書く分量は少ない。
少ないから、楽か、といえばそんなことは決してない。

まず卒業証書って、本文がすでに毛筆で書かれた
ものが印刷されている。(場合が多い。ただし、今回のは
活字体の文字だったけど。)

「上記の者は、○○学校所定の課程を修めたので
ここに卒業証書を授与する」

なんていう本文が毛筆の印刷で書かれてある。
賞状の文、というのは、普通の文章と違って
句読点は一切つけない。
賞状で句読点のあるもの、なんてないでしょ? (笑)

俺はその書く名前の字を
その印刷された毛筆の書体に合わせた
字体にして書くようにしてる。
俺の字体では書かない。

だって、俺の字は字、本文の書体は書体、で
全然違ってたら、いかにも名前だけ
別の人が書きました、っていう感じになる。
なんだかそれこそ、取って付けた、みたいで
ちょっとなぁ、、って思うからさ。
だから、本文の字を見て、本文のほうを書いた人の字
を見て、だいたいその人の書いた字の特徴を
パッとつかんで、俺の字もそれに似せた、
字体に直して書くんだ。
そんなもの同じ楷書なんだから、誰が書いたって同じだろ、
っていうかもしれないけど、楷書の文字だって、
もう書く人間によって千差万別なんだよ。
前にも見せたけど。
Ganpou


Kyusei_2
こっちは、欧陽詢の楷書 九成宮醴泉銘 

これ、両方とも楷書なんだけど、受ける印象はどう?
同じ書体、って見える?
楷書の書き方って言ったって、もうこんな具合でさ、
いろいろあるんだ。

だから俺は本文の字体に合わせる。
俺自身は「黒子」でいい。
それで、全体の調和を考える。

いや、書く人の中にはそんなことしない、っていう奴もいる。
俺の字は俺の字、印刷の字は印刷の字、
ってはっきり分かれていてもいいんじゃないか、って
いう人だってもちろんいる。

だけどさ、卒業証書って、やっぱりいただく人にとってみれば
自分ががんばってきた、っていうことの結晶なわけでしょ。
それがさ、名前だけ取ってつけたように書きました、
全部印刷だけど、名前んところだけ自分のもの、、、
なんていうようなちぐはぐな証書、俺がもし、もらう立場だったら
そんな間に合わせで書いた、みたいな証書なんて
もらいたくないもん。少なくとも嫌だなぁ、って思う。

だから、この証書を自分がもらったとして、どんな気持ちがするか
っていうことを念頭において俺は字を書くようにしてる。

卒業証書を書くのもだから一苦労でさ。
単に、書いていきゃいいものではない。
まず名簿を見て、字をチェックする。
名前の字は、常用漢字にない、文字なんていうのも
あるから、そういう字があったら、依頼人のほうに
電話をして、文字を全部確認しておく。
人の名前は絶対に間違えたらいけないからね。
もうこれは何度も何度もチェックして、
間違いがないようにしなくちゃなんない。
ものすごく神経を使う。

名前のチェックが終わったら、
賞状の用紙と、名前の大きさのバランスを
考える。名前だけやたら大きく書いても
いけないので、全体の字の配置、バランスの
中で、名前はどれくらいなのか、っていうのをチェックする。

それで、それから、やっと墨をすって、、
という作業がはじまる。
書くのは、一回5枚まで。
それ以上は書かない。

それ以上書くと、手が慣れてくる。
慣れてくると、今度は字の大きさがどんどん大きくなってくる。
そうなると、字は確かに手馴れた感じになりはするんだけど
大きくなって印刷された文字とか紙全体の大きさの中での
字の大きさのバランスがおかしくなってしまう。
それではダメなので、一回に書くのは5枚くらい。

書き上げたら、もう一度名前のリストと照合して、、
確認をして、それで渡す、ということになる。
なかなか書くのにも、結構いろいろな過程があってね。

一枚の卒業証書、書く側だってもちろん一生懸命書いているんだ。


(今日聴いた音楽 果てなく続くストーリー 歌 MISIA 2002年
 アルバム MISIA GREATEST HITS から)

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Comments

謙介さん…。
やっぱり「書の世界」ってマニアックな世界なんですかねぇ…。

「楷書」1つにも、三人大きな人がいますけど、
マスターするのって出来そうで出来ない、生涯学習だもの(笑)。

>俺自身は「黒子」でいい。
「我」を出すことを望まれていないですしね。
「我」を出すなら雅号を押さなきゃならないと思うんですけど…。

今回の記事、とても為になりました。

Posted by: ヒシ | 08. 02. 06 PM 11:23

----ヒシさん
古典の字を習うの、それこそ生涯学習だから、ちょっとずつぼちぼちなんていう勉強の仕方もあるけど、俺、ヒシさんなら、集中力があるから、半年くらい例えば顔真卿なら顔真卿を集中的に書く、っていうことをするのもあり、だと思いますよ。朝から晩までずっと顔さんの字を書く。それが終わったら今度は別の人の字を書く、っていうふうに、っていう方法もあるように思います。どれくらいまで出来たらいいか、っていうと、適当な漢字を思い浮かべて、それが顔さんなら顔さんの字の書き方で書けるようになればいいんです。絶対に忘れてはいけないのは、別に顔さんの字を目指すのではなくて、最終地点はヒシさんでなければ、っていう独自の字のスタイルが作れたらいいんですから、そのための「ポケット」を増やす、っていうつもりで書いてみたらいいんじゃないかなぁ。
 卒業証書とかのし袋は、実用書ですもんね。強烈に自己主張してはいけないように思うんです。ホント、どうしても、っていうのであれば、ヒシさんのお話のように作品にして落款を捺す、というものにすればいいんじゃないかなぁ。俺、そこを分けるようにしています。

Posted by: 謙介 | 08. 02. 07 AM 5:45

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