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08. 02. 01

印を捺す

Rakkan1


書道をやっている、と話すと、じゃあ「雅号」は
お持ちですか? って訊かれることがたまにある。
雅号っていうのは、まぁ字を書くときの
ペンネームみたいなものです。

うちのブログによく書きこみをしてくださっている
Ikuno さんのブログでは
ご自身でセレクトされたのだろう
俳句とか短歌といった短詩形文学作品の
紹介をされているのだけど、

たとえば俳句を作る人も俳号、
っていうのを持っているっていうことですね。
このあいだは、高浜虚子の句を紹介されて
いたけど、高浜虚子も本名は「清」で、
それをもじって虚子、としてる。
まぁそんな感じで、俳句を作るとか、
字を書くときの名前、とでも言ったら
いいんでしょうかね、ってこないだ受験勉強をちょっと見てあげた
高校生に話したら、「字を書く時のハンドルネームですか? 」って。
まぁハンドルネームというか、、はぁ、、と、
ちょっと絶句をしていたら「あ、そか。芸名ですよね。」
はぁ、まあ、、究極のところを言ったら、
そんなものかもしれないけど。(笑)

雅号っていうのは、自分のついたお師匠さんの
字を一字いただいて、それと自分の名前を
組み合わせて作るのが、まぁ普通。

え? 謙介はどうよって? 俺も、尊敬してた先生にお願いは
したのよ。どうぞよろしくお願いいたします、ってお願いしたもん。
「分かったよ。考えておくから。」 とおっしゃってくださって
やったー、って思ってたんだけど、、その先生、あまりに
忙しかったのか、忘れてて、、たまにお会いしたら
「ああ雅号ね。雅号。」 って気づいてはくれて
いたんだけど、そのうち、すっかり忘れられてしまって、、
そのうちとうとうお亡くなりになってしまった。(あーあ)

それがさ、ちょうどその時、展覧会に作品を書いて出す、
ということをしなくちゃいけなくなって、
みんな号があるんだけど、俺だけないんで、、。
じゃあ、自分で考えるか、っていうことになって
辞書を引っぱり出したり、白川静センセイの本を見て
よさげな漢字を探して組み合わせてみたんだけど
どうもしっくりこない。
そのうちにさ、俺、ちょっと焦ってきてね。
というのが、作品を書いたら最後に落款(らっかん)
っていう、自分の雅号の印を捺さなくちゃなんない。
ホラ、よく書の作品の最後にはんこ、捺してあるでしょ。
あれですよ。

で、雅号が決まらなければ、その落款だって
作ってもらえない。落款を捺せなければ
作品が仕上がらない。

作品ったって、書いたの、ハイ、って出すんじゃなくて
ちゃんと額に入れて、出すからさ。
そういう作品を書いた後の事務処理とかの時間を
考えていたら、展覧会の期日まで、余裕が
あまりない、ということに気がついたわけですよ。
あー決まらない。なんかいいのないかな。
うーんうーん。どうしよう。
焦りまくっていた俺、「あ! 」って思った。
その時、本棚に置いてあった吉野朔実センセイの
「月下の一群」っていうマンガがあって
(当時はぶーけコミックスで出てました)
その中の主人公の毬花さんの弟で
慈雨くん、という人がいて。 あ、この慈雨を
いただこう、ってパッと瞬間的に思ったわけですよ。

慈雨だ慈雨だ。これこれ、、。
でもね、ちょっと問題がないわけではなかったんですけどね。
ジウ、ってほら2音でしょ。 2音の雅号って少ないんですよ。
ちょっと異質というのか、変わってる、という部類。

だけど、とそこで謙介はおもったわけですよ。
どうせ俺なんか変わりもんやし、、、、って。
しかし、マンガの登場人物から取るかよ、、
っていうのはありますが。(笑)
じゃあ、慈雨、決定! ということで
かねて「雅号が決まったら、落款作ってね。」
ってお願いをしていた奈良の友達に急いで電話をして
「決まった決まった。」って知らせた。
「慈雨にした。」
「2音やなぁ、、。」とやっぱり彼も言った。
「あかんやろか。」
「まぁ、かまへんのと違う?」
(どうせ他人事だもん)
「そうしたら、頼むわ。」
「了解! 」

で、それが決まって、字も練習して書いて書いて
何とか何枚か出品候補作も出来た。
そして、当時習っていた書道の先生のところに
持参して、選んでいただいて、出す作品も決まった。

なのに、落款がこない。
おーい、と叫んでも奈良は遠い。
まほろばのやまとははるかかなた。(悲)

ねぇ、でも、でんでん虫の歌みたいに、
そら出せやれ出せ、って言うのもねぇ、、
こちらがお願いして作っていただこうと
してるわけで、、。むげにも言えない。

だけど、作品に捺して、表具屋さんに
持っていかなきゃならないタイムリミットは
迫ってきているので、「どうなってる?」って奈良に
電話しましたですよ。
そうしたら、「今から15分で彫って速達で
送ったる。」 って言うの。
まぁね、彼はもう落款は何百と作ってて
手慣れていたから、そんな時間で
作ってしまえるわけで。

翌日の昼。忘れもしない日曜の昼だった。
郵便屋さんが配達してくれた落款を
急いで出してみる。もう惚れ惚れと感心してしまう。
早速印泥(いんでい)、分かりやすく言えば朱肉ですね。
上の写真で右端に赤い練ったようなものがあるでしょ。
それです。
その印泥をもう一度練って、、そう。あれね、使う前に
練るの。この印泥は中国の西冷印社というところの出して
いる「美麗」っていう名前の印泥なんだ。
この美麗、っていう印泥の色が一番好き。落ち着いていて
朱色、っていうんじゃない。ちょっと暗さのある黒味がかった赤。

この美麗を練って、印に満遍なくつけて、捺す。
でも印を捺す、という行為は簡単なものじゃない。

これは俺の分身です。
責任を持って書いて仕上げました。
という言葉の代わりに落款を捺す。
だから書画で落款がないものは
値打ちがない。
というか、作品として認められないもの、ということ。
それから、印を捺す位置によって作品が
さらに生きたり、全然ダメになってしまうこともある。
だけど、契約書だってそうだよね。
印を捺してあることで、効力が発生することだって
あるよね。
だから、最初に印を別の紙に捺して、
それを切り取ったものを作品の上に置いて
この辺はどうか、
ここでいいか、何度もチェックする。
そうしてようやっと因泥をもう一度練って
印につけて、ゆっくりと力をこめていって
捺す。
だから印を捺すのに、15分から30分くらい
かかることもある。
「おとどけものでーす。はんこくださーい。」
って簡単に捺せる、っていうようなものじゃない。

それから捺しても乾くまではしばらく置かないといけないから、
半日置いて、夕方、それを巻いて、車で表具屋さんに。
表装をして額に入れてもらうのにやっぱり3週間はかかる
から、、。どうにかぎりぎりセーフ。

その落款を作ってくれた友達が、別の時にくれたのが
上の写真でちょっと黒っぽく写っている別のもの。

実は、前に「鹿男あをによし」のところで
少し話したけど、その落款を作ってくれたヤツが
俺が学生時代、ずいぶん片思いしてたヤツでね。(笑)
あ、もう今では、自分の中で気持ちの処理も終わってるから
落款を見ても、「あいつ元気でやってるかな。」
くらいのところで、心に「さざなみ」の立つことはありませんが。(笑)

久しぶりに字を書くことができたので、
落款も捺さなければ、ということで
出してみたということです。

いや、まだ他にサイズの違うのとか
かな用の小さいものとか、いろいろ持ってる落款も
ありはするんだけど、そんな落款の紹介は
またの機会に。

(今日聴いた音楽 安奈 歌 甲斐バンド
 1979年 音源はシングルレコード
 この曲ね、こないだ久しぶりに聞いてさ。
 何ていい曲だろう、って思って涙が
 出てしまいました。 )

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Comments

>心に「さざなみ」

最近の私って、波浪注意報が出るくらい
大荒れでして…(笑)。
しかし、その時期もやっと過ぎ、
ジェットフォイルが通常どうりに運行中です。
問題は突然浮上のクジラのみです。

>自分のついたお師匠さんの字を一字いただいて

私の師匠は「イヤよ!」と言って、
やんわりお断りする方で、
私の場合、入会している会の本部に、
字画を考えて、趣味などを考慮して…
という感じで申請していただくようになっています。

ええ、ワタクシまだ雅号持っていません…
こんなに「みやび」なのに。(自分で言うな)

雅号だけではなくて、姓名印、引首印の
三点セットを押されている方を見たことがありませんが、
謙介さんの周りにはいっぱいいらっしゃるんでしょうねぇ…。

>何度もチェックする。
シャチハタ感覚で押すものじゃなかったんだ…(笑)

Posted by: 大荒れヒシ | 08. 02. 01 at 오후 9:22

 冒頭にいきなり自分の名が出ていて,びつくりしました(笑)

 何もできない非生産者(←意味が微妙に違う)なので雅号なんて当然持っちゃおりませんが(笑)
 その昔,韓国で石彫蔵書印を作ってもらったことがありまして(意外に安かった)。その時に,「単に生野蔵書じゃつまんねーよな〜」といっちょまえに悩みましてね。
 結局,妙な雅号っぽいのはヤメにして,田の字型に「生野蔵書」と入れた両サイドに下の名の裕を扁と旁に分けたものを入れてもらいました(なんじゃそりゃ 笑)

 こいつはお高い本とか本当にお気に入りだったものにしか押しませんでしたが・・・押す時はかなり神経集中させてましたねぇ。
 もちろん,雅号印ほどじゃありませんが(苦笑)

Posted by: Ikuno Hiroshi | 08. 02. 01 at 오후 10:23

----ヒシさん
以前博多港からJR九州のビートルに乗って
対馬海峡で大波に遭って、いきなり船が
しわしわと着水してしまって、焦りまくったことのある謙介です。(笑)
 雅号をつける、というのは、つけて渡すほうには、結構心理的な負担もかかるんです。やっぱり「名前」というのは、一人の人間の人格を引き受ける、という潜在的な意識が働くからかもしれませんね。
 落款は、もうね、彫るのが趣味、という人間も結構周囲にはいます。謙介も実はひとつ彫ったことがあるんですが、、残念なことに小さかったもので、引越しから引越しの間にどこかへ行方不明になってしまったんです。(悲)
 雅号なんて、ひとつでなくてもいいので、いくつか自分でも作ってみられたらいかがでしょう。

Posted by: 謙介 | 08. 02. 01 at 오후 11:12

----Ikuno Hiroshiさん
あ、書き終わって、はぁ書いた、っていう放心状態で、お知らせが後先になってしまいました。すみません。(笑)
でもIkunoさんなんて立派な文人といっていいと思うんです。雅号のおひとつくらい持っていてもいいんじゃないでしょうか、そう思いますです。あ、俺もソウルにいたときに、落款でなくて印鑑を作ってもらいました。市庁の近くのはんこやさんでした。Ikunoさんのお話で思い出しましたよ。

Posted by: 謙介 | 08. 02. 01 at 오후 11:18

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