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08. 01. 28

硬派博徒VS軟派文弱

小心者なので、もうあちこちにこわい人がいっぱいいる。
なかでも一番恐かったのがモモセさんだった。

名前は[ももせ]なんてかわいらしそうな名前だけど、
顔がこわい。体つきはでかい。もちろん態度はでかい。
声だってドスがきいている。
おまけにピストルだって持っていて、逮捕されて
しばらく「別荘暮らし」をした経歴だってお持ちだし。


どう考えたって、軟派文弱系の謙介と
硬派博徒系のモモセさんの接点なんて全くなさそうなのに
世の中は不思議なもので、そこに「文章を書く」という
ことと書を見ていただいた、という
接点があって、この二人を知り合いにさせてしまった。
(知り合った経緯はちょっと細かくなるので省略)


知り合いになって親しくなっても、やっぱり
モモセさんはすごくこわい人だった。
こちらが仕事中だろうと、なんだろうと
ある日電話がかかってきて、
「東京のモモセです。」
「あ、はい。○○です。どうもご無沙汰しております。」
(字に書くと普通なのだけど、この辺から背中の辺りから
一気に筋肉が緊張していくのが自分でも分かる。)
「こんど、○○日にそっちに行くから会いましょう。」
「あ、はい。」もう都合が悪いのなんてこわくて言えない。
「では○時に、○○○ホテルに来てください。」
「わかりました。」
「じゃ。」
「はい。それじ,,,,,,」
「あ、そうだ。」
「はい?」
「あのね、レコード、そう、レコード要らない? ジャズの。
えーっとね。マイルス・ディビスから、、○○から、、。いっぱい
あるよ。」
「どれくらいですか? 」
「ダンボールに30箱」
「ダンボール30箱。」
「いや、あの、今度そのお会いしたときに、もうっちょっと詳細を。」
「いや、知り合いが引き取り手を捜していてね。すぐに返事が要るんだ。」
聞くと、レコード以外にもCDがあって、とてもじゃないけど、引き取れそうに
なくて、その話は「無理です。」と言って結局お断りしてしまった。
どんなレコードがあったのだろう。

それから、しばらくしてお約束の日がやってきて
俺はその○○ホテルに出かけてモモセさんと
会った。
モモセさんは太っ腹なので、ホテルのメインダイニングで
とてもおいしいご飯をご馳走してくださった。
そうメインダイニングまで行って、そこで一緒に食事を
した記憶は今もあるけど、が、何を食べたか、覚えていない。

でもいろいろな小説家の文体の話とか
作品の話をしたことは覚えている。
漱石の絶筆になった小説の「明暗」
って、最初、痔の話から始まるんですよねー。
なんて、アホみたいなことを俺が言ったら、
ものすごく受けてしまって、。
イシカワタクボクは、キンダイチキョウスケに
お金を借りまくって、女郎屋に入り浸ってた、とか
そんな話を延々としたような記憶はある。

「国文科って、そんな阿呆な話ばっかり
研究するのですか?」 と聞かれたから
「そんな阿呆な話も、です。」
と俺は答えた。(何かこっちまで文体が漱石みたいに
なってきた。笑)
モモセさんの書く文章は、率直で正直で
変なクセは一切なかった。
博徒な分、いろいろな人に会ったことも
書かれていて、ある人には、そういう事実の
羅列がうっとうしい、と敬遠する人もいたけれど、
モモセさんらしくて、うそがつけなくて
ストレートに書いている潔さがあって、
俺はいいなぁ、って思ってた。
(確かにうっとうしい羅列か、正直に書くかの
紙一重のところにはあったことは事実だけど。
だからそれがうっとうしい、と映る人もいたのだろうし、
率直で好ましい、と映る人もいた、ということなのだろう。

俺はそんな話をして、モモセさんは
いつだかに、何某というヤツに会ったけど、
ふざけたことを平気で言うので、ちょっと軽く
マッサージしてやったんです、とドスのきいた
声で話して、恐かったけど、おもしろかった。
あまりに世界が違っていたから、もうあはははって
笑うしかなかったけど。


そのモモセさんが亡くなった。
お風呂でこと切れているところを
見つかったんだそうな。

もうあの豪快な口調の話を聞かせてもらう
ことはできなくなってしまった。
じゃあ、また、と、コートを翻して颯爽と
歩いていったモモセさんの背中が
今も俺の目の中にある。

Momose


モモセさんの字も直球勝負の字だったなぁ、って思う。
でもモモセさんの筆跡は、ちょっととぼけたようなところの
ある字だった。


          ×          ×         ×

月曜なので、仕事帰りにがんセンターに。
血液検査の結果は、先週とあまり変化なし。
ただ、気になる数値があるから、
血液の分析については、しばらく精密な検査を
継続しましょう、とのこと。
「花粉症」は出てない? ときかれたので、
まだ今は大丈夫な感じです、と答えた。
はぁ、また厄介な季節が近づいてきた。


(今日聴いた音楽 先日と同じブラームスのシンフォニーの
 1番、第一楽章をカールベームで。モモセさんを追悼して。
 この交響曲の第一楽章の主題は「英雄の死」なので。)


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