字を書くことについて
昨年から今年の年末年始はずっと家にいた。
姪たちの書きぞめの練習だ、近所の高校生の
受験勉強の手伝いだ、って言って
バタバタしていたように思う。
人の用事をする、というのは、それはそれで
楽しいというか、おもしろいことでいいのだけど
でも、終わった後で、どっと疲れが出る。
先日何人かの友達から来たメールにも「お正月、
姪・甥たちが来て、その相手をしていたら、
後からどっと疲れました」
ってあった。本当にそうだろうなぁ、って思う。
あんまり自分の時間はなかったけど、
何とかちょっと時間が取れたので、
DVDで小津さん映画、「晩春」を見る。
1949年の映画
つまり太平洋戦争が終わって、
日本が戦争に負けて4年後の
映画。舞台は鎌倉と東京。
電車で東京に通勤する
娘と父親のシーンがある。
父親は笠智衆。娘は原節子。二人が
電車の中で本を読んでいるシーン。
そのシーンと外の風景が延々と
カットバックされて繰り返し映る。
そんなシーンをぼんやりと見ながら
俺は万年筆の掃除をしていた。
わざわざ掃除って言ったって、そんな大仰なことでも
ないのだけど。
ちょっと熱めのお湯を皿に入れて、
その中にペン先を入れてチャプチャプさせるだけ。
そうしたら、みるみるうちに水が黒くなる。
それを何回か繰り返すと、やや水の濁りが
少なくなってくる。
(まだ少し濁りが残っている感じでしょ。)
そうしたら、今度は、スペアインクを挿す方の側を口に
咥えて、お皿のぬるま湯の中に息を吹き込む。
ごぼごぼごぼごぼごごぼと泡が出て、
それと一緒にまたインクのかすのような小さな塊が
出てくる。
これを何度か繰り返す。
結構インクのかすが詰まっていて、その塊がぽろぽろと
出てくる。そんな詰まっているのを取るのって、結構
おもしろい。気持ちが何かいいんだ。
こういうの、心理学的に何か意味があるのでしょうか。(笑)
やっぱり滞っていたものが、スッキリするから、なんでしょうか。
昨日の年賀状からひき続いて、文字を書くということについて。
最近はみんなメールで済ます、っていう人もいるだろうけど、
俺はお礼の手紙とか、改まった用事を頼むときはやっぱりペンで
書くことにしてる。
だって、もらったメールのフォントの並びを見てたって、
その人の感情って、ちっとも分からないんだもん。
字とか行間から見えてくる、いろいろな感情の揺れ
だって分かるし。
下手だから、なんてコンプレックスより、
自分の書いた字は自分の個性、
って思って書く。
大体ね、どんなに字が上手なヤツでも、
字のコンプレックスなんてみんなあるんだから。
俺と一緒に書道実習1(楷書・行書)の授業を取ってて、楷書で
学生時代に毎日展に入選はするわ、日展には入選するわ
してたTくんでさえ、結婚式の受けつけで、ご芳名録に
名前書くの大嫌い、って言ってたもん。どこが下手や、って
思う奴だったけど、人前で書くのは嫌なんだって。
俺、その話聞いて、ものすごく安心したもんね。
だって、彼でさえ、そんなふうに思ってるんだったら、
俺なんか平気だぞー 下手でも全然かまうもんか とか。(笑)
まぁいいや。少々下手でも、どんどん書く。
それが理由のひとつ。
もうひとつは書かないと、どんどん字が下手になるのと
字を忘れていってしまう、っていうこともある。
みなさんはありませんか? パソコンを使うようになってから字を
忘れて、困ってる、っていうの。
字って言うのは、脳に覚えさせてる、っていうのもあるけど
俺、思うに腕とか手先っていう身体全体にも覚えさせ
ているものなんだ。
ホラ、スポーツ選手が頭で考えなくても
身体が先に、自然に動いて、、ボールを捕りに行く、って
いうことがあるよね。
それと同じじゃないか、って思う。 キーボードの
ブラインドタッチとか、ピアノなんかの鍵盤だってそう。
目は譜面を追いながら、手はその音の鍵盤を押さえる。
身体が覚えてる。
あのね、字って、指先だけで書いてるんじゃないんだよ。
字を書くのが下手な人に限って、指先でコチョコチョって
書いてるんだけど。
だから字が上手になんないのさ。
字を書く、ってホントは身体全部、とまではいかなくても、
右利きなら右手、右腕、右肩くらいまで、
そう身体の右半分は全部使う、くらいの大きな
ムーブメントなんだよ。そんな大きな身体の運動なんだ。
確かに実際に使って書くのは右指の先なんだけど、
イメージとしては身体の半分全部くらい
使って書くものなんだよ。
これって多分どんなスポーツも同じじゃないか、って思う。
実際使ってる部分は、身体の一部分だけだろうけど、
ほら、よくスポーツのコーチが全身を使ってやれ、って言ってるよね。
あれと同じだと思う。
俺、スポーツなんかからっきしできないけど
多分、字を書いた経験から、スポーツって大抵そうなんじゃないか、
って想像できる。
だから字を書くって、脳と指先だけの問題じゃなくて
身体全体の運動なんだ。結構ダイナミックな運動なんだよ。
そこまで注意して書いてる人間なんか少ない、って思うけど。
で、それで字を書かなくなると、どうなるか、っていうと、
身体能力が、がくん、って落ちる、んだと思う。
身体が覚えていた勘を忘れてしまうんだろうね。
だから、覚えていたはずの字が出てこない。
身体能力が錆付いてるんだよ。それで出てこなくなる。
えーっと、えーっと、あ、忘れた、、。って。
そんなもの、脳学者の茂木さんじゃなくったって、俺だって
その程度のことなら分かる。
どうすればいいのか?
そりゃ書いてその錆付いてしまった身体能力を復活させるしか
方法はないでしょうに?
書かない、忘れた、忘れたからなお書かない、、、じゃ
もうマイナススパイラル一直線、、になるよ。(笑)
だけどさ、まだ書いて覚えていた人が忘れた、っていうのは
いいんだよ。単に錆付いてるだけだから、ちょっと
トレーニングしたら復活するもの。
もっと問題なのは、何にしろすぐワープロを頼って
字を覚えてこなかった人さ。
だって最初から身体に字を覚えさせてないから、
字が出てこない。ストックがないもの、
これはもうどうしようもないねぇ、、。
身体に覚えさせる、って、結構大事なことなんだけどね。
頭だけで見てたって、身体が覚えてないと
人間ってできない、って思う。
見ただけでできるんだったらさ、プレイが上手な人の
DVD見ただけでそのスポーツができるようになるはずでしょ。
でも、実際にやってみなくちゃ話になんない。
いくら見てたって、見てるだけじゃダメでしょ?
何度も反復練習しないと。
だからさ、まずは身体におぼえさせる、っていう作業が
必要なんだと思うよ。
スポーツも字を書くという行為も。
そういう身体に覚えさせた、っていうことがあったら、
その動きを覚えていて、しばらく使わなくっても、
思い出したら復活できる。
でもそういう動きを見ただけで、したことがなかったら
復活も何もあったもんじゃない。
そうなんです。
謙介にとって字を書く、っていうのは
字を忘れないようにするためのリハビリ、もしくは
トレーニング、という行為でもあるわけです。(笑)
字を書く、ということに限らないのだけど、
みんな機械任せにしてしまって、
自分の身体を使って何かをする、
という経験がすごく減っているような
気がして仕方がないんだ。
そうするとどんどんいろんな五感が退化
していくように思うけど、、ちょっとまずい
状況じゃないかぁ、って俺思ってるんだ。
(今日聴いた音楽 プロコフィエフ作曲 チェロソナタ ハ長調
作品119 チェロ 馬友友 ピアノ エマニュエル・アックス
1990年 アメリカ マサチューセッツ ワーチェスターにおける
録音から )
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Comments
漢字を思い出せないことがある…(笑)
「どうしたら字が上手くなる?」って
聞かれたことがあったんですけど、
(書をしている=字が上手いではないとは思うんですけど・苦笑)
そのときに、「きれいな字をなぞる」と答えました。
きれいな字を見て書いて、体に覚えさせるのが、
確実な方法だと考えています。
私は字を書く意味を出そうとして結局、
「とりあえず今は深く考えない」ということにしてしまってますが、
そのせいか(?)、自分の手元にある万年筆って、
しばらく握ってないなぁ…。
日常で文字を書くことは確かに少なくなっているかもしれません。
(筆は非日常ですし・笑)
謙介さんにとって「書くこと」って、リハビリだったんですね。
Posted by: ヒシ | 08. 01. 08 PM 9:56
----ヒシさん
そうですよね。自分がいいなぁ、と思った古典でも今の書家の文字でもいいから、真似をしてとことん真似をして、その特徴をつかむ、っていうこと大切だと思います。学びのもとは「まねび」ですもん。人のまねをすることからはじめていいと思います。字を書く意味って、ながいことかかって、自分に問い続けてみてください。例えば、イチローが野球をする意味って一体何なのでしょうね。俺、そういうの聞いてみたいなぁ、って思います。引退したけど、中田がサッカーをしていた意味は一体何だったのか、とか。そういう何かをしようとする意味っていうのは、人それぞれだろう、って思います。だけど、いつも誠実にものを考えようとしているヒシさんのことです。きっと時間はかkるかもしれないけど、ヒシさんなりの答えが出てくるように俺は思っています。
そうなんですよー俺にとって、字を書くのって、自己表現とリハビリの一部だったんですね。すいません。人のリハビリにお付き合いいただいてしまって。(笑)
Posted by: 謙介 | 08. 01. 08 PM 11:03
うちの母は、「手先と頭を動かさねば」と言う
ことで、家計簿を筆算でつけております。
私はノートに手書きでつけていた小遣帳を、
今年からパソコンでつけはじめたのですが、
やっぱりノートのままのほうが良かったかも?
Posted by: yasu | 08. 01. 08 PM 11:44
---yasuくん
おかあさまのその姿勢はすばらしいと思います。ほら、身体でもあまり日ごろから身体を動かさない人間が、たまに思い立って運動なんかすると、翌日(人によっては翌々日くらいに、、笑)身体が筋肉痛を起こすじゃないですか。使っていなかった筋肉を使うから、そういうことになるわけですよね。だから筋肉でも、使わないとやっぱり衰えていく、ってあると思うんです。なので、そういうトレーニングは日ごろからしておいたほうが、、とは思いますです。いえ、まぁ、小遣帳だけに限ったわけではないので、、(笑) と、ごまかして逃げる。(爆)
Posted by: 謙介 | 08. 01. 08 PM 11:58