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08. 01. 11

書きぞめのおけいこ(その2)

謙介おっちゃんがまたどこかから戻ってきました。
見たら、手に筆をたくさん持ってきています。
「何本持ってきたん? 」と聞くと
「30本。」 といいます。

おっちゃんの持ってきた筆はいろいろな種類が
ありました。
「どう違うの? 」
「そら、毛の質が違うんや。毛の質が違うと
書きやすさも全然違うからな。、、、、そうやなぁ、、
どれがええかなぁ、、。どれ、学校であやちゃんが
使うてるの、見せてみ。」
わたしは、さっきの筆をもう一度出しました。
「羊毛やなぁ、、あやちゃん、羊毛使いにくい
ことないか? 」とおっちゃんが聞きます。
「そやねん。くにゃくにゃして書きづらいの。」
わたしは云いました。
「そやろ。羊毛は腰がないから、慣れへんとしんどいわ。」
「たこみたいやねん。くにゃくにゃしてて。」
「ふん,,,まぁたこ、っていうことはないけどな。(笑)
羊毛はな、くにゃくにゃしてんねんけど、線はその分、
しなやかな線が出せんねん。それとな、なかなか
ちびへんから、長持ちすんねん。」
「たこやわ、あんな筆。」 わたしはあの筆が
とても使いにくいので、ちょっと怒ってそう云いました。

「そうしたら、これにしよ。」とおっちゃんが云います。
「これは何の毛? 」
「イタチとタヌキをまぜてあんねん。」 ホラ、と、おっちゃんは
わたしの前にその筆を差し出しました。
「これなら、毛の質が堅いから、書きやすいと思うわ。、、
それから、紙やなぁ、、。紙、紙、、と。」
そう言っておっちゃんはまたどこかに消えました。
「あーケーキおいしかった。ごちそうさま。」
いもうとは、やっとケーキを食べ終わったようです。
「おいしかったやろ。」
「ふん。 これどこの? 」とわたしが聞くと、おばあちゃんが
「名物かまど、のとこ。」といいました。
「え? 名物おかま? 」
「おかまと違うがな。名物かまど。」と
おばあちゃんがいいました。

おっちゃんがこんどは紙をいっぱい抱えてきました。
「めいぶつおかまのケーキ、おいしかったわ。」といもうとが
云います。
「かまどやろ。」とおっちゃんが訂正しました。「あやちゃん。」
「え? 」
「あんた、えぐざいる好きなんやろ。」
「うん。大好き。」
「えぐざいるの歌で、Choo Choo Trainっていうの
あるやろ。」
「ふん。」
「あの歌の作曲しはった人が、かまどのCMの歌、
作ってんねん。」
「え、ほんま? 」
「ふん。 なかにしけーぞーっていう人がつくってんねん。
かーまーど、かーまーど、っていう歌。 」
「え、おんなじ人が、そんなのんきな歌作ってはんの? 」
「まぁ、人間、おまんまたべようとおもうたら、
なんでもせえへんとあかん、ということやわ。」
と、おっちゃんは訳のわからへんことを云いました。


「そしたら、筆も紙も用意できたし、書こうか? 」
「墨は? 」
「朝からすってあんで。あやちゃんが書くからきばってええ墨
すってあげた。しん、の墨や。
「しん、って? 」
「そやから中国の清の時代の墨や。あんた、歴史で習うたやろ、
日清戦争、って。 あの清よ。」
「何年くらい前の墨やのん? 」
「100年くらい前。おっちゃんがな、以前、中国に住んでた時、
北京の瑠璃廠(りうりーちゃん)云うところで買うてきてんで。
これ使うたらええわ。これがほんまの唐の墨やし。」
「墨って、何年くらい持つの? 」
「上等の和紙に書いたもんやったら、1000年くらいは持つよ。」
「1000年、、。」
「すって使うほうの墨でも、まぁものによるけど、100年くらい
経ったもののほうがええ色合いが出るしなぁ。」

「そうしたら。」とおっちゃんが隣の部屋のふすまをあけると
そこには、もうすでに、書きぞめを書く用意ができていた。
「あ、書く文字、決めてへん。」
「すぐに字なんか書くかいな。」
「へ? 」
「スポーツやって、すぐに競技せえへんやろ。ストレッチやったり
柔軟やってるし、歌かて、最初、発声練習してから歌うやろ。」
「ふん。」
「いきなりなんか書かへん。そやな。最初やから、この中国の
安物の紙でええわ。あのな。縦の線、書けるところまで、
ずっと引いてごらん。」
わたしは硯の中の墨を筆によく含ませると、
半切の紙の上に縦の線を引いた。
「え? それだけ? 短いやんか。40センチくらいしか引いてへん。」
「そうしたら、何センチくらいかけたらええの? 」
「1m。」
「1メートルも無理やわ。」
「まぁええわ。できるだけ、長く引くんや。それで、引いてるときはな、
息を吐きながら引く。そうしたら線がぶれへんから。」
「ふん。」
わたしは、また筆に墨をつけて線を引いた。
「あやちゃん。あんた、性格どおりの線引くなぁ。」
「なによ。」
「線、いがんでる。」とおっちゃんは言う。
「やかましわ! 」
「まぁ縦の線はまっすぐに、ちゃんと書けるようにな。
漢字で縦画がいがんでたら全部あかんようになるし。
漢字って、上から下に読まれるのを前提に作られた文字
やからね。ましてや、これ、大きな字の作品やろ。
縦画がいがんでたら、作品全体がめちゃくちゃになるからな。
それからな、縦画が済んだら、今度は横ばっかり引いてみ。
漢字の横画は、右下がりの線だけは引いたらあかんで。
貧相やし、みっともないからな。とりあえず縦と横の線
ばっかり引いてみ。」 
「うん。分かった。」
わたしはそれから30分くらい、ずっと縦の線と
横の線ばっかり引いていたと思う。
「お、なかなかまっすぐな線が引けるようになったなぁ。
そんなら、字何書くか選ぶかなぁ。これ持ってきたし。」
「なにこれ? 」
「墨場必携(ぼくじょうひっけい)」
「ぼくじょうひっけい、、。」
「ふん。これになぁ、作品に書いたらええような熟語とか
歌とか俳句とか全部載ってんねん。これで探したらすぐ
決まるで。」
「へー、こんな本があんのか。 」
「そやねん。ま、アンチョコやな。」
「いや、いろいろありすぎて今度は悩むー。」
「なやんでください。」
「そや。」
「え? 」
「目ぇ、つむって、パッと開いたページに書いてあるやつにしよ。」
「また、バクチみたいなことやな。」
「だって、決められへんもん。」
「そしたらやってみ。」
「ほんなら、行くよ。」
「なに? 」
「松竹梅」
「あ、ええやん。無難やわ。どんだけーより、ずっとまともやし。」
「どんだけーが最悪なだけやわ。」
「そうしたら、書いてみ。」
「え? お手本書いてぇな。」
「まず、お手本なしで書いてみ。それからおっちゃんが
直したらええとこ、云うたるし。」
「そんなぁ、緊張するやんか。」
「まぁ緊張して書いてくださいね。」 と、云うとおっちゃんは
またいなくなった。
わたしは仕方がないので、おそるおそる「松竹梅」と紙に書いて
みた。書いたら、松がやたら大きくなって、竹が、びよーんと
縦長になって、梅はその反動でひしゃげたみたいになってしまった。
なんじゃこりゃ。あーあ。
だから云ったんだ。お手本書いて、って云ったのに。

おっちゃんが戻ってきた。
「ええがな。最初にしたら、上出来上出来。」
「どこがよ。梅なんてひしゃげてしもうてるし。
竹なんて、びよーーんと延びてるし。」
「ええがな。ほんまの竹みたいで。」
「あかん。もっとちゃんとした字書かんと。」
「そうしたら、どこがあかんと思うの? 」
わたしは松の字がやたら大きくなったことを
云った。大きくなりすぎて、つくりのほうの
「公」の最後の点が紙からはみ出してしまってる。
「そやし、竹はのびてるし、梅が、、」
「あのな。改善方法、簡単なことや。
たった一つやねん。それを守ったら、
全部変わるから。」
「どうすんの? 」
「松の字の木偏の最初の一画を、小さくすんねん。
最初の一画目を小さく書いたら、字がするすると小さく
書けるようになるから。」
「ほんま? 」わたしは疑わしい目つきでおっちゃんを見て云う。
「これでも、高等学校の書道の教員免許持ってんねんから。」
「うーーーん。怪しいなぁ。日ごろの言動がなぁ、、。
なんか信用できへんなぁ。」
「まぁ、ええわ。書いてみ。」
わたしは、もう一度松竹梅と書いてみました。
おっちゃんに言われたように、一画目を小さくして
みました。そうしたら、びっくり、です。字が
するすると小さくなりました。
「ほらな。小さくなったやろ。」
「ふん。」
「次にどこ直そう。」
「松と梅と、偏と旁のバランスが悪い。」
「うん。そうしたら、おっちゃん、その部分書いてあげるし。
見とり。」
おっちゃんはそう言って、5回同じように書いてくれました。
「分かった? 」
「やってみる。」
「うん。」 その時、いびきが聞こえました。見たら、いもうとは
こたつの中で寝てしまっていました。やれやれ。気楽なやつ。
わたしはおっちゃんに書いてもらったのを見ながら何度か
書いてみました。
「うまいうまい。その調子で書いたらええねん。」

それからわたしは、何枚も書きました。
気がついたら、20枚くらい書いていました。
「もうできたやんか。それ出したら? 」おっちゃんがわたしを
書いたのを見て云いました。
「もうちょっと書くわ。」
「すごいなぁ。 まぁちょっと休憩して書いたら? 」

わたしはきばって毎日練習しました。
お正月も、3日間、ずっと書きました。
何とかできました。
もうばっちりです。

いもうとは「はねつき」と書きました。
でも、いもうとは、ほとんどおっちゃんが手伝って書いたのです。
それはひみつです。でも、わたし、それだれかに云いたいので
こっそりとここでいいます。
作品もできたので、わたしは安心して、またみしみし云う飛行機に
乗って家に帰ってきました。
めでたしめでたし。

        ×     ×     ×


新聞を見たら、嵐山の天龍寺の平田老師が遷化された、
とあった。ヒラタ先生はなかなかおもしろい先生で、
かつてヒロミ・ゴーが修行をしたい、と言いだしたときには
「かまへんがな。」と言って受け入れた。(周囲は驚愕したけど)
だから、ヒロミ・ゴーの座禅のおっしょさんでもあるんだけど、
そんなこと、まぁどの新聞にも、、、、書けないわ、なぁ。(笑)

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Comments

そうなんですよねー。
作品の出来って、最初の文字で決まるんですよね。
「最初の文字と最後の文字で決まる」
っていう教えを思い出しました。

画数が少ない文字は、
「小さく肉太く書く」ってのも、
気をつけてたりします。

「線、いがんでる。」
これ私。性根が歪んでるから、
縦の線って上手く書けてません(笑)。

Posted by: ヒシ | 08. 01. 12 at 오후 5:02

----ヒシさん
一画目の線の太さ、大きさで、文字は決まってきますね。ホント、不思議です。
 それと、最後の最後で失敗してしまう、って俺もよくありましたねぇ。お、うまいこと書けてるなぁ、、って思いながら書いていって最後の「しんにゅう」で、パア、とか。何度悔しい思いをしたことやら。ですから、最後まで、気を抜かずに、という教えはホント、大切です。
 それと、

 画数が少ない文字は、
「小さく肉太く書く」ってのも、
 気をつけてたりします。

これ、「香川」とか「三重」の車のナンバープレート見たら、ヒシさんがおっしゃったこと、実地で理解できるんです。 というのも、「香」とか「重」は画数が多いでしょ。ところが「川」とか「三」は画数が少ない。車のプレートの刻印された文字だから、すべて同じ大きさなのに、やたら「川」とか「三」が大きく見えすぎてしまうんです。だから、ホント、画数の少ない字は、小さめに書かないといけない、ということがよく分かります。その通りですよね。

Posted by: 謙介 | 08. 01. 12 at 오후 6:09

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