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08. 01. 31

筆を買いに行く

この時期になると、毎年のことなんだけど
急にほかのセクションから、「毛筆で字を書くの頼める? 」っていう
依頼がどん、と増えてくる。
やっぱりホラ、卒業式なんかがあるものね。
卒業式だと、
卒業証書、送辞・答辞とか
後、式次第っていうのもあったなぁ。
何せ毛筆で書く、というものが多い。
その上、みんな看板みたいにでかい
ものだから、プリンターでは無理だし。
毎年そういうご依頼がどこからともなく
何件か来る。

実は、先週の金曜にもそんな話があってね。
何か、うちの仕事場に何点かの絵を寄贈してくれた方が
いて、その方に、今度はそのお礼として
記念品を差し上げることになった、と。
ついては、その目録と感謝状を書け、というご依頼
が来た。

全くねぇ、書いて、って言うのは、簡単なんだけどさー。(笑)
目録になるとさ、普通の細筆じゃ無理なんだよ。
最初の「目録」っていう文字は、結構太く大きく書かなきゃ
なんない。せめて中筆ぐらいは要るんだ。

仕事場で頼まれるのって、たいていが熨斗袋の表書き
だから、細筆で十分って思って、そんな中筆なんて持ってきてないもん。
そこへいきなり大きい字を書け、っていうの。それも、1時間以内に
書いて、って。


そんなもの書くだけだったら、10分あれば書けるけど、何せ道具がないんだもの。
で、どうしたの? って、言うと、仕方がないから
細筆一本を犠牲にした。(悲)

細筆って、穂先の下3分の1くらいしか下ろさないんだけど、
それを全部下ろしたの。
それで墨をつけて、「目録」って書いた。
書いて持っていったら、「どーも」だって。
あーあ、とは思ったけど、、こちらが苦労したことなんて言っても
相手は、そういうの言っても分かってくれる相手でもないから、
俺、黙ってたけど。


一度下ろしてほぐしてしまった筆は、もう前のように
細筆に使うことはできないから、
新しいのを買いに行かなきゃ、っていうことになった。
で、日曜に、それを買いに行った。


筆記具っていうのは、消耗品だからね。
筆だって毛先がちびてくるし、
何年か使っていくと
万年筆だってペン先が磨り減ってしまって、
きれいな線がかけなくなるし、
ペン先がガタガタになるもの。


万年筆なんかで、どうしても、愛着を持って使い続けたい、
っていうのであれば、何年かごとに
万年筆の専門店に持っていって
ペン先の部分だけメーカーに出して取り替えてもらう、
ということをしなければならない。 
そういう万年筆のメンテナンスもマメにしておかないと
ペン先がダメになるものね。

万年筆はものすごくデリケートな筆記具だから、
絶対自分以外の人間には、使わせたらダメよ。
他人に使われると、もうそれだけでペン先の感触が
変わってしまうから、人には絶対貸してはダメ。


だけど、値段の高価な万年筆だから長持ちするか、って
言えばそれも微妙だしねぇ。
俺、前にソウルに行くとき身元保証人になってもらった
「姉」みたいな人がいるうんだけど、その人が学位取った時の
博士論文の校正とお清書を頼まれてさ。
韓国人の彼女が日本語で博士論文を書いたから
日本語の変なところもあるだろうからっていうんで、
俺が表現の校正と、原稿の清書をしたんだ。

で、原稿の表現を直しながら、お清書していったの。
原稿用紙、400字詰めで800枚。
時間がない、っておっしゃるもので、それを
2ヶ月でやった。

そのときに使った万年筆っていうのがね、最初は
○リカンのを使ってたんだ。
それが、300枚書いたあたりでその○リカン万年筆、ダメになりました。
ペン先が磨り減ってしまって。(○リカンさんのは1万円ほどのもの。)
ガタガタになって、これはあかんわ、ということになってしまった。
その次が○ーカー。これは、100枚くらいですぐダメになった。
線がへたれて、あ、これはダメ、っていうことになった。

仕方がないからさ、国産の○ラチナ万年筆の事務用
っていうのを、(一本が800円)5本ほど買ってきて
どんどん使っていったんだ。こっちのほうが耐久性があったよ。(笑)
でも、結局、後の500枚、5本買ったうちの3本くらい使って、終わったけど。


だから、万年筆はそこそこの値段のものを買って
(あんまり安物を買うと、もっとすぐダメになるからね。)
車の車検みたいに、2年か3年でどんどん
新しいものに替えていくのが一番合理的ではあるなぁ、と思う。

というのがね、これは文字の構造を習った人間だったら
基本的に分かってることなんだけど、
日本語って、万年筆の使用にはとても苛酷な文字なんだよ。

西洋の言葉は基本がアルファベットでしょ。
だからみんな文字の方向が ////////// な感じなんだよね。

だけど、日本語は文字の方向が、それぞれの文字によって
全然違う。絶えず一定方向の文字と、全部違う文字。
そらに縦書き、横書き、どっちもあり、でしょ。
それを書いて行こうとすると、いろんな力が
上下左右方向から縦横にかかってくる。

なので、日本語っていうのは、西洋で生まれた万年筆に
とっては苛酷な文字言語なんだよ。
なので、長持ちしにくい、っていう事情もある。

ほら、そういう観点で見てもらうとさ、
筆っていう筆記具は、360度使用がオッケーでしょ。(笑)
万年筆は、この方向でなければ書けない、
っていう筆記具だからね。
それと、筆だと、毛の弾力が筆自体にかかる力を
吸収したり、紙に逃がしたりしてる。
でも万年筆は、金属だから、そういう逃げ、というものが
一切ない。全て筆記具に力がかかってしまうんだ。
それと、字を書きなれている人は、筆記具に無駄な力を
込めない。楽に持って、軽くささっと書く。
書きなれていない人は、もう肩に力は入るわ、筆記具を
力いっぱい握るわ、で、もう見てるほうまで
力んでしまいそうになる。(笑)
楽に持って書きましょうね。


まぁそう言いながらも、筆も剛毛のものは消耗というか
磨耗が早い。
馬とかイタチの毛が剛毛で書きやすいんけどね、
2、3年も経つと、毛がちびてくるから、
そうなると新しいのにして、っていうふうに
どんどん取り替えていくのがいいと思う。
古いのだと、毛先が割れて、きちんと先が揃わなくなるからね。
そうなると楷書なんかのきっちりした字が書けなくなる。
だから筆も買い換えないといけない。


それとね、細筆だったら、中国のほうがいいね。
日本の筆だったら、うーん価格的にやっぱり高い。
但し、条件があって、ヒツジならヒツジだけの毛の筆、
イタチならイタチだけの筆、っていう、単一の動物
だけの筆だったら、、っていうこと。
筆にもいろいろあってさ。
中にはウマとタヌキとまぜてある、
とか、いうふうに混ぜた毛で作った筆があるんだけど、
これはダメ。 毛先がすぐダメになる。
筆で毛先がダメになったら、もうどうしようもないもの。
で、日本製だと、5000円くらいの品質の筆が
中国製だと、1500円くらいで買えるからね。

まあね。サカキ・バクザンセンセイは、ちびた筆にも愛着が
ある、とおっしゃってるんだけど、あのセンセイの字は
別にちびた筆でもオッケーな文字だからさ、(笑)
問題ないんじゃないか、って思うけど。

たださ、中国の筆は、多分にバクチみたいなところが
ある。いい筆に当たると、それはホントに当たり!
っていう感じで書きやすい筆になるんだけど、
悪いのに当たると、もうね、全然書けない。
書道用品の店に行くでしょ。
そうしたら、同じ銘の筆が何本か並べてある。
その何本かは、品質に全部ばらつきがあるんだ。
だからすごく困る。
もうくじ引きみたいなものでね、
何本かある中から、エイ、って選び出して
これ、っていうものを買う。
で、それが当たりだったらしめた、っていうような
ものだけど、逆に、ハズレでしたなぁ、
いやあ残念さん! っていうこともあり得るわけで、、。

友達なんかは、どうするの? って聞くと、
その筆、10本あったら、10本全部買う、って。
そうだよね。それが一番賢明かもしれない。
「だけど、、、」って更に彼は付け加えた。
「全部ダメ、っていうのだってあるもんね。」
はい。本当にそう。
全部ダメ、ハズレだった、っていうの、俺も経験あるし、、。

それからね、何か毛がよさそう、って
思って買って帰るでしょ。
そうして、さて書こうということになってさ、
筆って、当然だけど、書くにあたっては
墨をつけるよね。
そうしたら、筆の質が豹変する毛っていうのが
あってさ。もうホントにこれも泣きたくなる。
あ、書きやすそう、って思ったのに。
水分吸っちゃったら、たちまち毛の
扱いに困る、っていう毛もあってね。
代表格は、サルとヒトの毛。
もう本当に書きにくいったら。(笑)


謙介も、もう何百本と筆を買っては使ってきたんだけど、
いまもって筆を選ぶ、筆を買う、って、本当に難しいなぁ、
って思う。


(今日聴いた音楽 夢過 歌 陳暁東
 アルバム 比我幸福 2000年から)

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Comments

半年ぐらい前でしょうか。
ペン字練習に使うかもと思って、
万年筆のインクを交換したんですけど、
結局一文字も書かなくて(←ダメ人)。

というか、万年筆の存在自体を忘れていて。

で、久しぶりにキャップを開けてみたんですけど、
インクが見事に蒸発してまして…。
安っすい万年筆なんですけどね。

筆も万年筆も「選んでーッ」って、
言ってくれると助かるんですけどね…。
ハズレがなくなるかもしれないし(笑)。

Posted by: ヒシ | 08. 01. 31 PM 11:17

----ヒシさん

あ、それ、よく俺もありました。インクがいつしか蒸発してしまっているの。そういう時は、ぬるま湯につけてインクの溶けるのを待って、、、きれいに拭いてから、使ったらいいですよ。
 ホント書道用品の店先で、どれにしよう、うーん、うーん、って悩みますよね。

Posted by: 謙介 | 08. 02. 01 AM 12:04

こんにちは、謙介さん。
ごぶさたしております。

>万年筆だってペン先が磨り減ってしまって、
>きれいな線がかけなくなるし

ここまで読んで、「あっ」と思って万年筆のインクを確かめました。
インクはすっかり蒸発していました。すぐに分解してぬるま湯に浸しました。
近頃はボールペンばかりでした。きれいになったらまた使ってみます。

お加減いかがですか?
私は自己注射2年目、10週目を迎えました。
翌日に微熱が少しありますが、すっかり生活の一部になりました。
とりあえず安定しています。

金毘羅さんのお話し楽しく読みました。
私が参拝したのは遥か高校生の頃ですから、記憶も薄れてしまいましたが、
今登ったら息があがって大変でしょうね。

Posted by: 秋津 | 08. 02. 01 PM 2:35

---秋津さん
 こんにちは。ご無沙汰しています。
ね。俺も人のことは言えません。インクの蒸発よくやらかします。(笑)
 こちらも、ちょっと気がかりな数値はありはするのですが、「一喜一憂せずに、のんびりいこうね」、と主治医にも言われているので、あんまり焦らずに、経過を見ていこうと思っています。秋津さんもどうぞ、お身体ご自愛なさってください。こんぴらさん、のぼりおえたときには目がクラクラしました。やはり冒険だったようです。(笑)

Posted by: 謙介 | 08. 02. 01 PM 7:09

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