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07. 11. 06

歌を歌うことの意味

実は謙介は某合唱団の団員だったりする。
そして合唱団は毎年公演がある。
今年の公演日程は知ってはいたのだけど、
全然係りから連絡もなかったし、、

話がないから、これ幸いで、静かに
だまーっておいて、出演お休み、という
ことにしようと思っていた。


フェードアウト休暇(笑) というのか、静かにしていたら、
先々週の土曜日の晩に実家に合唱団の事務局長から電話があって、、
「出るんでしょ。ちゃんと練習して来るのよ。待ってるから。」と
半ば強制的に言われて、、
「ええええ」とは言ったものの、
事務局長の有無を言わせないパワーに押し切られて、今年も公演に
出ないといけない羽目になってしまった。

出ない、出ます、出る、出るとき、出れば、、、
でえ でえ でえ、で、「え」だから
おおっ、ダ行下一段活用!(ばか。)

脱線ついでにお話しますと、高校の国語で古典
なんか習った人は、たぶん文法のところで
ラ行変格活用というのを習ったと思います。
「あり・をり・はべり・いまそがり」っていうやつですね。
(やつ、もないか。)
実は謙介の国文法のセンセイで太宰治と小学校が
同級生だったTセンセイが、その「いまそがり」、
ラ変動詞だっていうのを発見したそうで。
ラ行変格活用というと反射的にT先生のことを思い出したり
します。

以上脱線おわり。(笑)


本題の歌のことに戻るね。


急に「出なさいよ。」なんて、言われたって
歌の練習なんか全然していないので
それから昼休み、発声練習をあわててやる。
歌うのはベートーヴェンの交響曲第9番の
合唱。もう30回はステージで歌っているので
暗譜は大丈夫なんだけど。

ハハハハハー
ってやってのどの調整をする。
もちろん週末実家に帰っても、
歌の練習をした。

で、一昨日の日曜日。
土曜日の晩に出しておいた服や、シャツ、蝶ネクタイ、ステージ用のくつ
をカバンに放り込んで、朝9時に県民ホールの楽屋に行く。
これが楽屋入り口。
Gakuya1


石垣が見えているけど、建物の飾りじゃなくて本物の
江戸時代のお城の石垣。県民ホールってお城の中に
あるんです。
もうちょっと楽屋入り口に寄ってみると
こんな感じ。

Gakuya2

何やら立て札があるけど、
今日は一応出演者なので(笑)かまわずにどんどん
入っていく。
事務局長に、「おはようございます。」とあいさつに行ったら
「ちょっと謙ちゃん、アンタ、各控え室の表示書いてよ。」と
言われ、その場で急いで筆と墨を借りて書く。
もうねぇ、芝居の裏方なんかしていたら
こんなふうに急に用事をいいつけられるのなんか
しょっちゅうなので、あわてずに、楽屋で、紙をもらって
字を書く。

Gakuya3


ただ、もう筆がよくないだの字配りがだの、と言っていられないので、
ささささっと。(笑) 書いたら、他の人が持ってきている、ヘアドライヤーで
温風をあててさっと乾かす。
控え室に行って、書いた表示を貼って
荷物を置いてステージに行く。
合唱団はほぼ揃っていたのだけど、演奏のオーケストラは、
ボツボツ集まりだした、というところ。


Ongakukai1

やがて今日指揮をしてくださる飯森先生が来られて
合唱だけ、一度通しで最終調整をする。
それからオーケストラも加わって、全体の最終確認を
行う。ざっと書いているだけなんだけど、
ここまでで3時間半が経過している。


で、後はいよいよ本番。
客入れは1時からだったのだけど
その直前のホールはこんな感じ。

Ongakukai2


リハーサルの後、本番のスタンバイまで
2時間ほど時間があったので、
その間、久しぶりに会った合唱のメンバーと
いろいろな話をした。

メンバーの話を聞いていると、
みんなそれぞれ、いろいろな問題を抱えているんだ、
ということが分かった。

会社から、旦那さんがリストラされかかって
いるというソプラノパートの人、
実家のお父さんが脳溢血で倒れて
介護と家事と仕事でしんどい毎日を送りながら
それでも音楽を続けているという人、
交通事故に遭って足に障害が残ったけれど
それでも歌を歌いたい、という人。

みんな話を聞いてみると、
いろいろな問題を抱えていて
しんどいことも山ほど抱えていて、
それでも音楽が好きで、歌いたいから
というメンバーだった。


それでも Iさんがポツリと救いの言葉を言ってくれた。
「謙介の気持ちも分かるよ。いくら好きな
ことでもしたくないときだってあるじゃない?
私だって、今日、とりあえず来たけど、
来るまで、本当にどうしようか、って思ってたもん。
嫌で逃げ出したくて。
でもね、私、解ってる。
ステージに立って、歌いはじめて
で、最後はゲーッテルフンケン、ゲッテルフンケン
って歌い終わるでしょ。するとね、体中の血が
たぎってね。私は生きているんだ! って
思えるの。どうしようもなく涙がでてきて、、。
たぶん今日もそうなると思う。
こんなドキドキするようなこと、平凡な日常の
中で感じることなんて、めったにないでしょ? 」
と彼女は言った。

やがて、スタンバイお願いします、
っていう連絡が来て、
俺たちはステージ袖に待機した。


やがて、出番の時間になって、まぶしいステージの
上に立った。
やがてマエストロのタクトが大きく動き出し、
それにあわせてオーケストラの演奏がはじまった。


歌の出だしは、バリトンのソロの
今までを全否定することば。
考えたらすごいよね。ベートーヴェンさん。
今まで第一楽章から延々とやってきたこの曲を、
「おお友よ。こんな音ではない、、」
って言い放たせているのだから。
「これではあかんねん!」って
反対意見を提示して、それで合唱の「フロイデ」が
入る。


後は無我夢中だった。
気がついたら、オーケストラが最後の部分を
演奏していた。いよいよ最後になって
マエストロの身体がひときわ大きく動いて
タクトが振り降ろされると、一気に
なだれ込むように演奏はさらに速度を
上げて、すべてが終わった。

ややあって、今度は、ぶわーっと
膨れるような拍手と歓声が客席から
響いてきた。


大きくため息。終わったぁ。


体調が良くないの、しんどいのと
言って逃げようとしていた自分が
恥ずかしかった。
そうして、今年も自分は生きていて
ステージに立って歌を歌えた、ということを
改めて実感していた。

Ongakukai3

この写真は
音楽会が終わって、そろそろ片付けに入る、ころ。

    

        ×        ×         ×

 明日から、小説  「After the Game」 を掲載して
 いきます。実はこのあいだの「かんちゃんのこと」
 を連載していた時の、このブログのアクセス数、
 ものすごいことになっておりました。一桁違うの。
 ココログの小説部門のアクセス数で、ある日なんて
 全国2位とかなってて、正直、ちょっとびっくりしたり
 しました。
  書いた時系列で言えば、「かんちゃんの
 こと」のほうが実は新しいのですが、 物語の
 順序からいけば、かんちゃんを読んでいただいて
 こちら、というのが順序です。 主人公は
 かんちゃんで後半に出てきた ハルくん。
 こいつが、まぁ、、はぁ、、書いてて、めまぐるしく
 動くので、ずいぶん苦労しました。(笑)
 また明日から載せます。読んでやってください。
  よろしくお願いします。


(今日聴いた音楽 真夜中のドア  歌 松原みき 1980
シングルレコードは1979年だけど、アルバム ポケットパーク
盤なので、1980年 四ツ橋の厚生年金のホールに聴きに
いったのが懐かしい。)

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Comments

臨場感溢れる公演レポート、ありがとうございました。
私も学生時代、趣味で合唱団に所属していたことがあったので、なんだかその頃の高揚感を思い出してしまいました。
歌うのは、生きていることを実感するため。そして私が謙介さんの小説を拝読するのは、自分の内面を静かに見つめなおすため(笑)。そう思ってらっしゃる方が、全国にたくさんおられるようですね。
「After the Game」の連載、楽しみにしております。

Posted by: 豆酢 | 07. 11. 06 at 오후 10:48

----豆酢さん
 音楽会の後に、Iさんを見たら、やっぱり
目が赤くて。(俺も赤かったのですが。笑)
やっぱりお互いに歌ってよかったね、という話を少ししました。
 明日からまた小説を載せさせていただくのですが、謙介は、何のために小説を書いているのか、と言えば、豆酢さんと同じで、自分を見つめ直すため、だと思います。自分の中で、いろいろとある感情を整理したり、切りをつけるため、という部分があるなぁ、と書いた後で気がついたことがありました。
 また明日から、しばらく続きますが、お付き合いのほどをどうかよろしくお願いします。

Posted by: 謙介 | 07. 11. 06 at 오후 11:36

>出ない、出ます、出る、出るとき、出れば、、、

 スミマセン,ドイツ語の定冠詞と出るをひっかけたギャグ?を思い出しちゃいました。

 出す,出る,出る,イクッ(核爆)


 謙介さんがバスというのは,びっくりでした,実は。
 なんだか勝手にバリトン〜テノールあたりの声域かなぁと想像してたので(苦笑)
 知人友人には声の低い人がほとんどいなかったので,ぜひ一度聞かせていただきたいですねぇ。

 ちなみに僕は,テノール〜カウンターテノールと高めです・・・さすがに寄る年波には勝てず,最高音は徐々に低下してますが;;;

>「おお友よ。こんな音ではない、、」

 正反合って感じでしょうか(笑)

Posted by: Ikuno Hiroshi | 07. 11. 07 at 오후 10:07

----Ikuno Hiroshi さん
 一応バスなんですけど、バスの中では高めのほうだと思います。声質が。 だけど、第九の各パートなんて、もうベートーヴェンが神さまからの啓示によって作っただけのことはあって、音域なんてあってないようなものですよね。(笑) バスのパートなのに、高音すぎて、声の出にくい箇所がいくつかありました。

Posted by: 謙介 | 07. 11. 07 at 오후 11:46

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