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07. 10. 18

かんちゃんのこと(その3)

かんちゃんのこと 


完一の高校生活は、何とかこうしてスタートした。
どんなふうになるのか、と、最初は思ったけれど、クラスでも
部活でも割にすんなりと慣れることができた。一日6時間の
授業が終わると、完一は待ちかねたようにグラウンドへ走った。

彼が棒高跳び用のウレタンマットを移動させている時、 その
向こうでは俊之のいるラグビー部が、タックルの練習をして
いた。

ホイッスルの音がグラウンドに響く。スクラムを組む。双方の力が
フロント・ローに集中して、それがやがて蒸気機関車が動き出す
時のように、鈍く重くゆっくりと、どちらかへと動きはじめる。 
境界が、前に後ろに、じりっじりっ、と動く。 その力のバランスが
一瞬崩れる。 と、その時、フッカーによって後ろに蹴りだされた
楕円のボールは、瞬く間に中継され、スリー・クォーター・バックが
ボールを抱えて走り出す。

完一はそんな繰り返しを、ぼんやりと眺めていた。 俊之は
フォワード。それもフッカーだった。 ヘッドギアをつけた
巨きな体が、「オーッシャァ!」の声とともにぶつかり合う。

「ふぅん。」 いつかのランドリー室で話をした時とはまるで
違っているな、と完一は思った。
俺も負けられねぇな。 完一は、グラウンドの中を、大声を
あげてボールを追いかける俊之を見て、自分もそう考えた。


完一は中学の時から陸上をはじめた。 最初は、スポーツは
体にいいぞ、というような側からの勧められ方にしか過ぎなかった
けれど、それでも彼は走ってムシャクシャしたことや、嫌なこと
をすべて忘れられる、ということが分かった時、走ることが
好きになっていた自分に気がついた。 途中、苦しくて何度も
部活なんかやめてやる、と思ったけれど、結局続けることに
なったのは、そんなことがあったからかな、と彼は思った。

そしてゴールデン・ウィークに入ったが、完一は実家には帰らず、
寮にそのままとどまっていた。

その日は午前中から昼過ぎまで、陸上の自主練習のあと、本屋に
でも行ってみようと思った彼は、バスに乗って街に出てみた。
商店街を歩いていると、いろいろな音が彼の耳に飛び込んできた。
競馬のTV中継のアナウンサーのつんのめるような早口。 オート
バイのバリバリという排気音。連休というのに、ご苦労様に啓発
活動をしている街宣車。彼はそんな街の人ごみの中をひたすら
歩いた。

気がつくと、彼は盛り場近くの小さな公園のベンチにぼんやりと
座っていた。すると急に首筋に冷たいものが当てられた。
首をすくめて振り返ると、俊之がアイスコーヒーの缶を持って
ニコニコと笑いながら、そこに立っていた。

「え? あれ、 どうしたんですか? 」完一は俊之に尋ねた。
「実家に帰っても仕方ないしね。叔父がこっちで酒屋をしてるん
だけど、ホラ、今連休だからバイトの人のやりくりがつかなく
なってね。まぁ、親戚だけど、親代わりになって、ずいぶん
面倒見てもらってるし、、。」
 
完一たちの学校は、バイトは一応禁止だったが、家業という
場合には、家の仕事の手伝い、ということで、認められていた。

「今日はヒマなの? 」
「あ、ハイ。」
「じゃあ、ちょっとウチ寄ってく? 」
「いいんスか? 」
「うん。今日の予定は終了だから。」
「ハイ。 じゃあ、ちょっと。」

                          (つづく)

×        ×         ×


実は、ここ数日気分的に良くない状態の日が続いていた。
もう理由はわかっていて、「自分の将来は一体どうなるのだろう?」
というようなことだったのだけど。
身体の不安とか、将来の不安とか。
そんなもの、将来になってみないと分からないことでは
あるのだけど、、でも、つい やっぱりそういうことを考えて
しまう自分がいるわけで。(笑)
そんなときにある人に、
「謙介の興味の対象というのは、現実的な衣食住とか
日常的な生活のあれこれ、という方向には
むいてないだろ。」と言われて、ああそうか、と思った。
確かに、どこそこのなんとかはおいしい、ということは
知ってはいるけれど、自分でそこに行って、
ということはあまりないかもしれない。
インテリアの写真とか
建築の写真は見るのは好きだけど、
自分の住んでる部屋は、無頓着の極致みたいだし、、。
そういうことにあまり興味がない、ということなのかも
しれない。

友達は言った。
その代わりの謙介の興味の方向って、やはり人の生き死に
関することだろ。そうはいっても、心霊なんとかじゃなくて、
リアルな現実の中の生死ということ。


そう言われて、そう言えばそうだなぁ、と改めて気づいたり
している自分がいて。
そうかそうか。言われてみたら、あんまり消費生活方面のことって
興味がないなぁって思った。
いやぁ、新鮮な発見だなぁ、って友達に言ったら、
「ばかぁ、そんなこと、さっさと分かれよ。」と言われてしまった。
傍目八目の最たるものですね。 (笑)


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