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07. 10. 29

かんちゃんのこと(その10)

次の日、朝食時間ぎりぎりに俊之が食堂へ
降りていくと、完一を含んだ5、6人が食事を
していた。 俊之がドアをあけて入って来るのを
見た完一は、いつものようにニコッと笑って
「おはようッス。」と元気よく言った。

「今日のメシ、何? 」
「トマトスープと、野菜サラダとパン。」 完一が
答える。
「あーあ、またトマトスープかぁ。俺、あれ、苦手
なんだよな。」
「オバサンに言ってみたら? 」
「言ったさ。けど、身体にいいからね、って......あ、横いい? 」
「あ、どうぞ。 で、今日は? 」
「放課後練習。 そっちは? 」
「朝練、さっきまでやってたんですよ。 後、放課後。」
「暑いのに、がんばるよなぁ。」
「あ、はい。でも、走るの、好きだし。」
「だよ、な。 ハハハ。」 俊之もいつものように笑った。
完一もそんな俊之の前でごく自然に話ができた。
そんないつもどおりの完一を見て、俊之は、
正直ホッとしていた。


また来ます、と完一は言ったけれど、夏が近づくにつれて、
練習の密度は高くなって、本格化していった。
そんなことで、完一が俊之の部屋に訪れたことは、あの後は
まだないまま、だった。 ただ、俊之は完一を見て
気になったことがあった。

ある日珍しくラグビー部の練習が早く終わった俊之が
部室に向かう途中で、トラックを走っている完一を見つけた。
いつもなら、ああ、走っているな。くらいにしか思わなかった
だろう。しかし、その時はちょっと違っていた。

完一は何だかとても苦しそうに走っていた。フォームも
ぎくしゃくとしていて、見ていて、いつもの自然で
流れるような動き、というのが感じられなかった。
『どうしたのかな。スランプかなぁ。』俊之の頭には、
そのことがあった。どうしたのか、完一に話を聞いて
みたかったのだ。

食事を終えて、俊之が洗濯をしに行くと、いつかのように
ランドリー室から洗濯物を抱えた完一が出てくるのとばったり
会った。
「久しぶり。忙しい?」
「あ、はい。最近、何だか忙しくて......」 少し
寂しそうな笑顔で完一が答えた。
「また、時間が取れたらおいでよ。 516号室は、いつでも
かんちゃんを待ってるから。」
「------」
「どうした? 」
「フウッ。 あ、あさって、多分練習が終わるの早いんで、
行ってもいいっスか? 」
「ああ。」 そう言って俊之はニコッとした。「何だったら、今日、
これからだっていいぜ。」
「今日は、まだこれからちょっとしなくちゃなんないことが
あるんで、やっぱりあさってにします。」
「分かった。じゃあ、あさって、待ってるから。」
そう言って二人は別れた。


                        (つづく)


Kanchan_4

(「かんちゃんのこと」の第一稿。)
最初はスケッチのような感じで、こんなふうに
罫紙に鉛筆で書いていった。そう。手書き。
手書きのほうが、文字通り「フリーハンドで
書けるから。)

実はこの「かんちゃんのこと」一番最初のスケッチ
段階と、今少しずつ読んでもらっている原稿で
は、物語の配列が大幅に変わっているんだ。
ここまで変わったのって、このころの俺の作品
の中では少ないんだけどね。
その理由は、また今度説明するね。

それから、何人かの方から、ほかの作品を読みたい、
というリクエストをいただいているんだ。
ホームページには載せているんだけど、
ブログで読みたい、とのこと。
今は、とにかく、「かんちゃんのこと」を読んで
いただくのに精一杯なんだけど、また
そのことについては、リクエストが多いようだったら
ブログで読めるようにしたいと思う。

            ×        ×        ×

藤波元官房長官が亡くなったね。
以前は、この人、一時は将来の首相候補にもなってたほどの
人だったんだけど、逮捕されてしまって、もうすっかり
その目がなくなったとたんに過去の人、という扱いになっちゃった。
その変化には、ふぅん。こうも急変するんだ、
と俺は思った。


実は、この藤波さんの実家と、今何かと話題の
赤福の本店とは、もう本当にご近所で(伊勢神宮内宮 おはらい町)
数百メートルしか離れていない。
しかも職種も同じ和菓子屋さんなんだよ。
藤波さんの実家は「利休饅頭」という紅白のお饅頭が名物。

赤福については、このブログで書きたいことがひとつあってさ。
キーワードは、「○ヨタ自動車と赤福」 (これだけだと
一体なんだ、っていうようなものだけど。笑)
ただ、まずは「かんちゃんのこと」を
最後まで書くことに集中したいと思います。


話は変わって去年の10月のこと。
それまで作っただけで放っておいたこのブログだったのだけど
気持ちも新たに、このブログで文章を書きはじめました。
それから1年。
振り返ると早かったような、長かったような。(笑)
自分が生きた足あととして、これからもいろいろなことを
ここに記して行きたい、と思っています。

小説の感想や、リクエストがあったら、謙介までお聞かせください。
よろしくおねがいします。


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Comments

謙介さん、こんにちは。

「かんちゃんのこと」を拝読するのが毎日の楽しみです。
俊之と完一の心のひだを丁寧に描かれる謙介さんの文章に惹きこまれ、気持ちはすっかり俊之になってしまっています。←入り込みすぎ・笑
それから、謙介さんのホームページには足を運ばせていただいていますが、ブログで作品を読めるようになるのであれば大感激です。ぜひもう一度読んでみたい。私もこっそりリクエストしてもいでしょうか(笑)?

こちらが1年の節目を迎えられたとのこと、お祝いを申し上げたいです。これからも謙介さんらしい美しい文章を綴ってくださいませ。

>「○ヨタ自動車と赤福」

実は私、○ヨタのお膝元に住んでいまして…。な・なんだろう、ドキドキしますね(笑)。こちらのお題も楽しみに待っております。

Posted by: 豆酢 | 07. 10. 29 PM 10:27

----豆酢さん
去年は、春くらいからブログへの移行、
ということをずっと考えていたんです。
ところが体調がぎくしゃくしていまして、
サイトのほうも続けるのは無理かな、
もうこれで措こうかな、って思っていました。
そんな時に、あ、そうだブログを
放り出したまま、にしていた、ということを
思い出しまして。で、10月の末に
ようやっと形をつけて、改めて書き始めた
ということでした。
「かんちゃんのこと」ですが、ようやっと
出口が見えてきました。今週の金曜辺りで
完結しそうです。(笑) 岩○文庫では
ありませんが、「リクエスト復刊」いたしたい
と思います。これが、というものなど
ありましたら、どうぞお聞かせください。

Posted by: 謙介 | 07. 10. 29 PM 11:01

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