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07. 10. 24

かんちゃんのこと(その7)

6月に入って二度目の土曜日の夕方、完一が
練習を終えて寮に帰ってくると、食事に下りてきた
俊之にばったり出会った。
「お疲れ。毎日毎日、うっとうしい天気だね。
がんばってる? 」
「もう息絶え絶えで、何とか、先輩について
行ってる、っていう感じです。」
「はぁー、今日は走り込みやったんだけどさ、
頭ブチ切れそうに
なったぜ。二年なんかさ、もうぶっ倒れてたの
いたもんな。だけど、もう総体まであんまし
時間もないし、がんばらなくっちゃな。」
「そうですね。」
「なぁ、あ、そうだ。メシ終わって、良かったら、
部屋来いよ。 ホント最近どうしたんだよ。」 
俊之は不思議そうな顔になって
そう言った。
「じゃあ、後で行きますね。」
「ああ、待ってるから。」


俊之が部屋に戻ってずいぶんした頃、
ためらうような小さなノックの音がした。

「どうぞォ。」

完一がのっそりと部屋に入ってきた。
「ああ、まぁすわれよ。」
完一はベッドに腰掛けると、椅子の背もたれを
前にして座っている
俊之に尋ねた。
「浅間さん、俺のどこがよくって、こんなふうに
俺につきあってくれるんですか? 」
「理由なんて、ないさ。」 と、いつかの
困ったような笑顔をしながら俊之は答えた。


「俺、実はこないだ友達に言われちゃったんですよ。 
オマエ、ひょっとして浅間さんのことが好きなんじゃ
ねえのか、って。」
「-------」
「どうして俺なんかにこんな親切に-----」
「じゃあ、聞くけどさ。俺がかんちゃんに親切にしちゃ
いけねえの? 誰かのことを思ってさ、そいつの
ために何かするのに、いちいち理由が必要なのかよ。」 
俊之は少し気色ばんでそう言った。
「いや、そんなふうに言われると、俺、
どう言っていいのかわかんなくなるんだけど、
ただ、俺なんて、こんなふうに人から親切にされた
ことって、今まで一度もなかったから。」
「好きだから部屋に行くんじゃねえの、って? 」
「--------」 今度は完一が答えられなかった。
「で、本当のところはどうなの? 」
「俺、わかんないんですよ。 自分のこととか、考えてたら
時々、ものすごく苦しくって。---でも、こうやって、
自分のこと、聞いてもらうっしょ? すると、その後、
楽になるんスよね。---最初はそういうことだったんス。
だけど、ずっと時間が経ってるうちに、それがいつか浅間さんに
会うのが目的になっちゃってて。 浅間さんに会いたい、って
思うようになってて。----で、 あるとき気がついたら
今度は浅間さんのことをずっと考えてる自分がいて。 俺、
俺、すごく苦しいんです。苦しくって、どうしたらいいか俺、
すごく悩んでて。 バカだから、同じところでそればっかり
繰り返して考えてて、、一体どうすればいいんだろう、って、、。
ちゃんとした答えが出なくて。 だから、苦しくて。
俺、すっげえ苦しくて。」
そう言った完一の目から涙がこぼれた。

「かんちゃんのこと、好きだ。」
俊之が掠れた声でそう言った。 完一は、ただ、自分の足許に
目を落としたまま、動かなかった。
「かんちゃんのこと、いつも思ってる。」
「でも、俺なんて-----」 完一が目を上げると、俊之の顔が
完一の目の前にあった。 
俊之は完一をきつく抱きしめた。


                         (つづく)


    ×         ×          ×

時々俺さ、言われることがあってね。
それは、「何で謙介はゲイの小説にテーマとか
ストーリー性を持ち込もうとするの? 」 っていうこと。
「作品にテーマがあらへんかったら、そんなもん、
小説の体をなしてないやないか。」
と俺は思うのだけど、その実、ゲイ雑誌に掲載されている
小説を見たら、結構ストーリーなんてめちゃくちゃで、
とにかく登場人物がみんな欲情してて、、、っていうのが
結構あったりする。


俺はそれはそれでひとつの作品だとは思うよ。
だって、当たり前だけどゲイ雑誌、って
読者が男な訳でしょ。男の生理ってさ、
やっぱりそういう「一発やりてぇ、、」っていう気持ちを
解消させるために読む、っていうのがどうしてもあるもんね。 
そういう衝動的な感情を文章で表現するとか反映したら、
そういう作品だってあり、だよな、とは思う。

ただ、そう、人の作品だから「とは思う。」なんだ。
ほかの人の書いたのは、それでいい。
だけど、自分で書く小説は、やっぱり、そこに
テーマがなくちゃ、って考える。

まぁそうやってゲイの小説にテーマ性を入れて、
その作品が売れる売れない、で言ったら、
てきめんに売れない、っていうことになるんだ。
ボーイズラブ方面の小説だとオッケーだけど。
どうしてかと言えば、ゲイ雑誌を読む読者って
そういう「小説のテーマなんていうコムツカシイ部分」を、
ゲイ雑誌に載ってる小説に期待しようとはしていないから。 
もちろんそういうことは俺はわかっている。
あからさまに言ってしまえば、ゲイ小説なんて
「勃たせてなんぼ」だもん。

それでも、、それでも、、俺はやっぱりテーマを、、、
なんだよ。
やっぱりそれって国文科卒の人間のこだわりかも
しれないけど。(笑)

大学の4回生の時のゼミ、「中世文学研究」っていうのでさ、
何をしたか、っていうと、細川幽斎が自分で写した
新古今の本を解読していって、なおかつ、新古今和歌集の
歌の解釈をする、っていう授業だったんだ。
細川幽齋って、もう10何年か前に日本の首相だった
細川さんのご先祖さま。その人の書いた新古今の
注釈書があって中に載ってる新古今の歌を一首ずつ、
各担当を決めて、そいつが歌の解釈と背景を考えてくる、という
勉強をしてた。例えば「この歌は、早朝まで
男と一緒に過ごしていた女が、男が帰ってから、つれづれに
詠んだ歌だ。」とかいうふうに歌の背景を考えてくる。
それで、その考えてきたことをたたき台にしてみんなで
議論するの。その解釈は違う! いや、そうだ、とか言って。


国文の授業って、すごいでしょ。男と寝た、いや、
あれはまだ、とかいう話を、ちゃんと授業の中で話をする。(笑)


そういう解釈の掘り下げ、っていうことをずっとやってきたから
やっぱり歌でも文章でも「テーマ」とか「主題」とか
「感動の中心」っていうことをまず考えようとするんだと思う。 
そういうことが多分叩き込まれちゃったんだろうね。


それはともかく。 前にも言ったことあると思うけど、
その授業では各人が、新古今和歌集の歌の背景の解釈を
自分なりに調べてきたり、解釈を作って発表をする。
何たって国文科の学生だから、そういう想像をして文章
書くのはみんな得意よ。(笑)

「前の晩に女と過ごして、、その後で歌った歌だ。」 なんて
発表すると指導教官の先生がさ、必ず聞いてきたんだよ。
「それは、キミの実体験なの? 」 って。(笑)
まぁそのご質問はセクハラになりかねないような質問なんだけど。

恋で身を焦がした、とか失恋して、しんどい気持ちになったとか
三角関係の中で悩んでいる自分とか、すごい額の借金を作って
サラ金から追われている、とか、よそに好きな男ができて
旦那と子どもを捨てて、その男のところに走った、とか、
インランサウナの誰が前に使ったか分からないシーツの
上で、いつ来るとも分からない誰かを待っている自分とか、
ケツに太いのを入れられて、よだれをたらして腰を振って
喘いでいる自分とかというようなことだって、
文学の読みの解釈をするときに、それが読みをより深くさせる
経験だったりすることだってある。経験があって、はじめて
そこで分かる何か、っていうのがあるもの。
(ただいくら経験たって、人を殺すとか、なんて
いうのは極論だから、そこまでは話を大きくしないでね。)

みんなだってそういうのあるはずだよ。
小さいときに読んだ小説と、同じものを大きくなってから読むのと
じゃあ、全然印象が違う、っていうこと。
「あのころ」は見えていなかったものが「今は分かる」ってある
よね? それは自分がいろいろな経験をしてくる中で
見えてきたこと、分かってきたこと、思ったこと、って
いうのがあって、そういう経験が「さらに深い読みの理解」に
はっきり出てくる、からでしょ。
ほらね。 こういう経験みんなあると思うんだ。
だからそういう人生の経験って、文学の中では大切なこと
だと思う。

だけど、M村先生、先生が平井堅の「fake star」を聴いたら、
やっぱりその質問するかねぇ。
「この歌は、あなたの実体験なの? 」って。(笑)

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