それじゃあ日本の野菜は安心なのか?
月曜日 病院から帰って大家さんのところへ家賃を納めに行く。
いつものように門のところで、インターホンを鳴らす。
ややあって、大家さんか奥さんの声がするのだけど、
今日はちょっと勝手が違う。
返事がないので、お留守かな、と思って、引き上げようとしたら
「はいはい。」という声。
大家さんのおかあさんの声だ。
「あの、家賃を持ってきたんですけど。」と言う。
「今、畑に出とりますらい。畑のほうへ行ってみておくれんか。」とのこと。
「はい。わかりました。」と返事をして、道を引き返す。
部屋に戻る途中の三叉路を逆方向の右に行くと大家さんちの農地がある。
ちょうど今はたまねぎが終わって、ソラマメも最後の時期。
この後は、土を機械で掘り起こして、肥料をまいて今度は田んぼに変身する。
大家さんは、そのソラマメの収穫が終わったので、ちょうどソラマメを抜く作業の真っ最中だった。
「お忙しいところ、すいません。家賃を持ってきたのですが、、。また後にでも
しましょうか?」と言う。
「いや、ええよ。よいよい。」
大家さん、よいよい、って言ったからって、畑の真ん中で
よいよいこりゃこりゃ、と
宴会をはじめるわけでもない。
単に大家さんが奥さんを呼ぶときの言い方なのだ。
近くでソラマメを抜いていた大家さんの奥さんがその声で立ち上がる。
「こんにちは。すいません。今家賃を、と思って伺ったら、おばあさんが
畑のほうに、、とおっしゃったので、とりあえず来てしまったのですが。」
「ええのよ。ええのよ。そうしたら、私、先に帰って、、、」
「そうしたらな、、謙介くんのこの家賃と通い、預かってはんこ押して
おきまさい。また通いはポストにでも入れておきましょうわいね。」
ということになって、奥さんにお金の入った封筒と家賃の通い
を渡す。
「謙介くん。ええところに来たわ。この最後のソラマメ、持ってお帰り。」
と大家さんが言ってくれる。「好きなだけお取り。」
「え? いいんですか。」
「大して残っとらんけど。」
「じゃあ、こっちの畝のを、、。」と俺がそう言うと大家さんが止めた。
「そっちはやめておき。こっちのこの畝のだけにしなさい。」
「はい。」
「こっちのは、出荷用やから。」
なるほど、売り物だったのか。と俺は思った。大家さんが言う。
「出荷用のはなぁ、あんた、農薬かけまわっとんのよ。」
「はい?」
「自分とこ用のは、農薬ほとんど使わんの。そやから形もよくないし、
育ちもようなかろ? そやけど、安心やわいね。市場に出す分は
もう農薬かけまわっとるからなぁ。」
大家さんは、何も「出荷用」だから、俺を止めたのではなくて、
「食の安全上」こっちにしなさい、と言ってくれたらしい。
「じゃあ、市場に出すのは、農薬をどの程度使うんですか?」
「そりゃ、謙介くん、ナスなんか、3日に一回はかけるんよ。」
「3日に一回。」
「それにあんた、その3日に一回というのは、日和がましなときで、
去年みたいに、天候が不順なときはもっともっとかけるで。
去年なんか、あんた、出荷しても、農薬代が
高くついて、結局、もうけにもなにもなりゃせんかったけんな。」
「農薬をじゃんじゃん使ったわけですか?」
「そうせんかったら、苗がまともに育たたんかったもの。日は射さんうえに
温度は低い。病気はなりやすい。去年なんか例年にまして農薬をようけはりこんで
使うたわいね。」
2、3日前の○日新聞だったかな? 中国の野菜が危険だとか載ってたの。
それじゃあ、日本の野菜が安心か、といえば、どうもこういう具合らしい。
やれやれ。
3日に一回の農薬散布だって。こんなことを聞いたら、
中国の野菜が危険か、日本のほうがまだましか、とか言っても、
そんなもの、不毛な比較でしかないよなぁ、っていう気がしてしまう。
まさに究極の選択だね。(笑)
前にこれも近所のみかんジュースの工場の話したよね。
みかんジュースがどうやって作られるのか、って。
運ばれてきたみかんの皮は、誰かがひとつひとつ皮をむくなんて
のんびりしたことなんてしない。
酸の薬品の中に放り込んで、皮を溶かしてしまう。
そうしたら皮と中のみかんの房の薄皮まで溶けてなくなるからね。
で、みかんが「酸性」の溶液に漬かってたから、今度は
アルカリの薬品をかけて酸を中和して、みかんの果汁を絞る。
絞った果汁は煮詰めて濃度200パーセントにしてドラム缶に
詰められて、外で置いておかれる。そう戸外に放置。
煮詰めた果汁って、腐らないんだって。
それを夏が来てジュースの売れる時期がきたら
水で薄めて100パーセントに直して、「果汁還元」っていって売る。
だから、ジュースの側面見たら、「果汁還元」って書いてあるの
多いと思うよ。果汁還元っていう表示のないものは、絞ったまんまの
ものだから、値段が高いはず。
まぁ日本の農産物だってこんなもの。
決して中国のことなんて言えたものでない、っていうことだってあるんだ。
こうなったら、どうしたらいいのか。
俺の親類で、野菜は自家製。肉はあまり食べず、地物の魚を
買ってきて、粗食で、、って気をつけてた人がいたけど、
ずいぶん早死にしてしまった。
お葬式の時に姉と言ったのは、そういうこと気をつけてても
死ぬときは死ぬねぇ、という話、をしたけどね。
栄養士の友達とも話をするのだけど、
同じものを食べる、というのではなくて、いろいろな種類の食品を
あれこれと摂ることだね、ということになるんだろう。
品々摂ることで、一つあたりの食品のリスクを低く抑える、と。
もうこの方法しかないよね。ということみたい。
とはいえ、
食べ物の生産の現場を知らない、というか、どうやってソラマメが
できるのか、とか、見たことない、っていう人なんか普通かもしれない。
農産物の季節感なんて、今や世界中からいろんなものが輸入されるから、
もうムチャクチャになってるしね。
たとえばさ、
イチゴのできる季節って、ホントはちょうど今頃なんだよ。
5月から6月がイチゴのシーズン。
そう。今がイチゴの旬なんだよ。
だけど、俺がこんなこと言うと、「え? イチゴができる季節って、冬
じゃないの? 」なんて思ってる人、いません?
お菓子屋さんなんか1月とか2月にいちごフェアとかやってるでしょ?
だからさ、それくらい食べ物の季節感について鈍感になってる、っていう
ことかもしれないねぇ。
ね。こんな感じで、どんどん海や田んぼや畑と食べる人間の距離って
完璧に離れてしまっている状態。
だから、デパ地下でどこそこの何とかはおいしい、っていう話はするけど、
その食べ物の旬、とかこの時期のこれはおいしいよ、っていうようなことは
さっぱり知らなかったり。
調理されたものだけでなくて、その食べ物本来のことも、もうちょっと知っておいた
ほうがいいかなぁ、っていう気がするんだ。
で、ないとこんな世の中だから知らない間に一体何を食べさされて
いるやらわかんないことになってたりするもの。それじゃちょっと怖いしさ。
(今日聴いた音楽 大阪LOVER 歌 DREAMS COME TRUE 2007年)
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