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07. 04. 25

顔について

オヤジの母方の親戚で、役者をしている人がいる。
素人の人が余暇を使ってやってる「演劇活動」みたいなものではなくて
ちゃんとしたプロの役者。
映画とかテレビのドラマにも出てる。


それでたまたま里帰りしていたその人とずいぶん前に話す機会があった。
「謙介は、花伝書は読んでるやろ。」と訊かれた。
「はい。もちろん読みました。大学の時に中世文学研究の授業で。」
と俺は答えた。

「花伝書」は正しくは「風姿花伝」という。言うまでもなく著者は世阿弥。
さっきも書いたように、読むことになった最初のきっかけは中世文学研究
の授業ではあったのだけど、読み始めたらおもしろくて授業の教科書
ということを忘れて一気に読んでしまった。

「時分の花、ってあるやろ。」と、その人が言う。
「はい。若い時に 若さに任せて一時的にわっ、と出てくる魅力、っていう
あれですね。」
「そうや。若い時は、もう若いっていうだけで、キラキラするような魅力が
あったりするもんや。」
「テレビのドラマなんか出てる、売り出しはじめの人っていうの、いっぱい
いますもんね。」
「毎年まぁ、ようも飽きんと次から次から出てくるわ、、、。そやけどな。」
「はい?」
「ものになるのはそのうち何人居てるやろな。」
俺は黙ってその人の顔を見た。
「めっきというのんか、それは数年をたたずに剥げてしまう。
問題はそれからや。」
「その売れなくなった時期をどう過ごすか、っていうことですね。」
「そや、、。まぁ、俺はその役者がどんなことをやってきたか、なんて
一々は知らん。けどな、、。ずっと自分の中で何かを抱えてやってきた
奴っていうのはな、40過ぎたら、分かってくるんや。」
「どういうふうに?」
「40過ぎたら、自分のそれまでの生き方がはっきり顔に出るからや。」
「やっぱり、出ますかね?」と俺は訊いた。
「出るなぁ。自分と向き合って、自分に何か問題があったとしても、逃げないで
真正面から当たってきてた奴はそれなりにいい面構えになるよ。」
「世阿弥が言う、真の花っていうことですね。」
「うん。」その人はそう言い、
俺はだまってうなずいた。
「そやから、自分をごまかさず、しんどい生き方になるかもしれんけど
逃げんとやれよ。」
「ごまかしたり逃げたりはしたくないですけど、、だけど俺、そもそもが役者に
なれるようないけてる顔ではないし、、」とそこまで言ったら、その人は遮るように、
「オマエの生きてきた全てが出るねんから、ごまかしたりするな。
あ、まぁオマエは、むしろ不器用なほうやしなぁ。そのまままでええか。」
そう言ってその人は笑った。

年をとるといろいろな変化が身体全体に現れる。
ゲイの人のブログを見ていても、「もう若くない。」とか「前はもっとお肌にハリが
あったのに、、。」とかそういう年を経て出てくる変化が書かれていたりする。
それはある意味どうしようもない。
それと思うのだけど、たぶんGBrなんかに登録してるブログを書いてる人の年齢って
比較的若いんじゃないかなぁ。だから、年齢を経た人が書いているブログ、って
比較的少ないからどうしても書いているのが若い人の方から、っていう
書く人間の人数に年齢的な偏りがあるんじゃないかな、という気がする。

第一若い人にそんな将来のこと、ったって、ねぇ、わかんないものね。(笑)
だけどある程度の年齢になると、そんな顔のことより、仕事とか人間とか
そういうものもすべてひっくるめて、その人は? ということを見たり
見られたりするようになる。
だってさ、外見はカッコよくたって、(役者とかホストとかそういう外見の必要な仕事
はともかくとして)肝心の仕事ができない、っていうのでは、ホント困るんだもの。

うちの職場にも居たよ。確かにカッコよくてスーツをピシッと着こなしていて、、
という人なんだけど、書類作っておいて、、って頼んでも、期限までにできない。
というのか、仕事がすんごく遅い。もしくは、できてても、ミスがあちこちにあって、、
とか、用事を頼んだら、3件のうち1件は必ずといっていいくらい忘れていた、とか。
それがしょっちゅう。

これではいくらカッコよくてもねぇ、、周囲は困る。四六時中そいつの
フォローばっかりしていなくちゃなんない、って、そんなのでどうするよ?
使えねえんだもん。

今年の1月だったか、うちの姉が実家にもどっていて、近所のスーパーに行ったら
はるか昔、大学生の頃、すごくハンサムでかっこよかった人が
「えらいふけはってたわ。」なんてことを言ってた。
鼻が高くて彫りの深い顔立ちだったから、年が寄って、目の周りとか頬の肉が
ずーんと落ち窪んでしまって、余計にふけて見えたとか。
役者のその人も言っていたけど、彫りの深い顔立ち、っていうのは、頬とか
顔の肉がドーンと落ち窪んでしまって、年取るとすごく損らしい。 
むしろ平面的な顔だと、顔が落ち窪んだりするようなことが少ない分
あんまり老けた感じにはならないんだとか。

まぁそういう実際的な変化、っていうのは、謙介の場合、土台がそもそも
わはははですから(笑) お話にならない、っていう感じではありますが。

それはさておき、じゃあ、そんなふうに変化・変貌していく「自分」を
どうしますか? 
いやだいやだ、って言っていつまでも受け入れ拒否します? 
それとも、しっかりと受け止めます?


はてさて自分と言えば。
朝、顔を洗った時に、たまに自分のご面相を眺めたりする。
自分でも「あーあ」とため息は出るけどね。
でもま、人と比較しても仕方ないやね。(笑)

役者をやってるその人は、若い時だってなかなかだったし、
今なお「おおっ。」っていうようなものを持っている。

俺もその人に言われたことを思い出して、
せめて自分は、何とかごまかしたりすることをせずに生きて行きたいなぁ、
と思っているんだ。せめて自分に納得できる生き方がしたいじゃないか。
(まぁ周囲の状況とかで妥協したりしないと
いけなかったり、思うようにいかないこともしょっちゅうあったりはするんだけど。
でも、そういうことって、みんなだってあるけどね。笑 )

(今日聴いた音楽 ひだまり ピアノ 西村由紀江 
 アルバム 大地のうた 2000年発売版から
 この曲を聴くと、田舎の家の母屋と蔵の間に
 あった、ほっこりとしたひだまり を思い出して
 穏やかな気分になれる。)

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Comments

歳のとり甲斐とか、顔つきとか、僕も時々考えますね。
やっぱり、歳をとったときに”いい顔”していたいですし。
でも、過去にごまかしたことが、後で何倍にもなって返ってきたりして、、
だから逃げない方がいいんだとやっと気づいた三十路です。
(と言いつつ、いつも怠けごころに負けてますが。)
今回のエントリー、いつも以上にどきっとしました。

はてさて、”いい顔”にはまだ間に合いますかね。(笑)

Posted by: rhino | 07. 04. 26 AM 1:21

----- rhino さん
 大丈夫ですよ。間に合います。(って俺がいくら力強く言っても、、裏づけが、、笑)
いや、周囲の人の顔を見ていると、そう思えます。
 それから自分の前にできた「問題」のことですが、お話の通りですね。まったく。面倒だったり、正面から向き合うことができなくて、それから逃げてしまった、と。そうすれば当面は目にしなくていいんだけど、それからしばらくして、また別な角度からその問題がひょっこり顔を出したり、直面せざるを得ない状況になったりするんですよね。それも余計重大なことになって。ホントおっしゃる通りだと思います。結局先送りしてきたもののつけは、どこかで払わないといけない。ならば、気がついたときにボロボロになってもがんばって、片付けておく。俺もそういうの悟ったの、30代になってずいぶん経ってからでした。

Posted by: 謙介 | 07. 04. 26 AM 6:02

 
ちょうど職場で「老化と加齢は違う」みたいなハナシをしたトコロでした。年齢は皆んな平等に年をとっていくけれど、たとえば同んなじ50才でもハツラツとしてる人もいれば、いつもションボリしてる人もいる、みたいな意味で。傲慢なヒトは傲慢なカオになるし卑屈なヒトは卑屈なカオになりますよね。
gbr さんとかで個人ブログをみるときに実は、おれ、あんまり若いヒトの読まないんですよね (いっちゃった)。ハタチそこそこの人だと、なんか皆んな同んなじような話題で似たような視点なので、どれが誰の文章だったか判からなくなるんですよ。もちろん、その中にあってキラリと光るセンスを持った若者もいますけどね。
なので gbr さんでは profile search とかで検索すると、だいたい同年代から上くらいに傑作ブログやガッチリアニキが集まっています。

Posted by: 黒須 | 07. 04. 26 PM 7:43

----黒須さん
 やっぱり生きていることの全てが出てくる、ということでしょうねぇ。一番手っ取り早くは顔にも出る、と。自分の周囲とか、たまに電車に乗ったりしたときに周囲のヒトの顔を見たりしてそう思います。顔はまぁ結果ですけど、自分の生き方、っていうの、フラフラしててもいいんですが、どこか一ヶ所、根本の部分だけ、自覚してきっちり押さえておいた部分は持っているべきなんじゃないかぁ、って思います。全部きちんとした生き方じゃしんどくてすぐ意気阻喪してしまうので、ここだけは、っていう部分はしっかり押さえて、後はちょっとのんびり、、でもいいようにも思いますです。(笑)
 話は変わって今日は朝から震度4でグラグラでした。前に震度5強っていうのを経験してて、そのときは、書棚がどどーっと倒れてきましたが、震度4はオケーでした。4と5の違いってその辺なわけか、と地震の後に倒れてこなかった書棚を見て、改めて思ったりしました。

Posted by: 謙介 | 07. 04. 26 PM 10:55

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