どこかの空の下で

卒業、それから進学、異動。
今までいた場所からひとまずお別れをして別の場所へと移る。
親しくなった友だちや同僚
朝夕通った道。
見慣れた風景。
行きつけのお店。
そんなものともお別れ。
時期のせいだろうね、あちこちでそんな話を聞く。

このあいだ、実家で写真の整理をしていたら、
卒業間際に友達と遊びに行ったときの写真が出てきた。
のほほんとした顔をして、カメラのほうに向いて立っている自分。
何だかなぁ、、。
それでもこの間ブログに書いたけど、その頃の俺は
それまで一生懸命でやってきた、つもりだった。
自分ががんばりさえしていれば、全ては何とかなる、って
当たり前のように思っていた。
若さと幼さと精一杯のどこからきたか理由のない自信と。
そんなさまざまな思いが、一瞬の表情に出ている。
就職してからいろいろなことを知った。
それまでは自分と自分の周囲の人だけのことを考えてさえ
いれば大体、事は足りていた。就職するとそうはいかない。
いろいろな人と接するようになるし。
自分がいくら落ち込んでいようと嫌なものを抱えていようと
仕事は仕事で存在する。
自分が不機嫌だからと言って、それをそのまま仕事に出す
なんてことできない。
自分の内面の感情は感情として、仕事は仕事として。

しかし、それにしても。
７０パーセントの暢気さと３０パーセントの傲慢さの入り混じった
そのころの自分の顔。
こんな時もあったっけなぁ、、。と写真を見ながら、思い出したりした。

何年か前、俺よりずっと若いゲイの人と話をしたとき、彼がこう言った。
「なんか、俺の生き方のモデルになるような、俺より年上のゲイの人
っていないんですよね。」　って。
俺は、そのとき、ものすごくその言葉に違和感を持った。
「そんなモデルなんてないんじゃない？」って言った。

もし、仮にモデルがあったとして、キミは、そのモデルのような
生き方を志向してなぞって行くわけ？
確かに、こういうことはあるかもしれない。
自分の周囲にいる人、自分が見てきた人、会った人、そういう人の
生き方を知らず知らずのうちに自分の中に取り込んでいるようなこととか
大きく影響を受ける、ということは、確かにあるかもしれない。
でも、だからと言って、その人の人生を自分に重ねて、同じようにして
いくだろうか？　もしくは、そうできるだろうか？

モデルはモデルとして、自分の中で、迷ったり考えたり立ち止まってみたり
いろいろと考えながら、自分の生きていく方法って、みつけていくものじゃないのかな。

だから「かけがえのない」自分の人生なんだ、俺はと思う。
人のまねではない、自分の生きかたなのだ、と思う。

とはいえ、分からないとき、迷ったときは、誰かに聞いたらいい。
ひとりで歩いてはいかなきゃならないけど、たまに休んだときに
周囲を見渡してみる。
そうしたら、似たように疲れて休んでいる奴が目に入ってくるかもしれない。
戦友だね。
「どう？　調子は？」
「ダメだよ。難破寸前。そっちは？」
「沈みかけ。」
「アハハ。」
やけくそになってそんな会話をして、二人はまたため息をついて、
「じゃあまた。」と言って歩きはじめる。
それはひとりで生きていても、家族やカップルで生きていても同じかもしれない。
いや、もしかしたら二人でいるほうが、そういう孤独をはっきりと感じる瞬間が
あるかもしれない。

そんなふうにひとりで歩いてきた。
その、のほほんとした写真を撮ってから、いろんなことがあった。
いろいろな場所に住んだ。
思いもよらないようなことから新しい出会いがあったし、
そこから出てきたものが新しい力になって、
俺を思いもよらない方向に持っていった。
考えの変わったこと。変わらないでいること。
どちらも抱えて、俺は歩く。

病気を抱えていると、どうしても目が伏し目がちになってしまって
ともすると下へ下へと視線が下がってしまいがちになる。

少し休もう。
気がついたら、空の青が眩しかった。
そうだ、顔を上に上げて、空を見ながら歩こう。
すっかり空のことを忘れてしまっていた。

たまには空を見上げたりしていますか。
キミの今いる場所の空は、どんな色ですか？