書いたら忘れる
こないだ、ある人から、俺が以前書いた小説についての感想を書いた
お手紙がきた。
実は俺、ちょっと前にある文学賞に応募したら、
新人賞をいただいてしまった。
で、本賞の作品は本になって出版されたのだけど、
新人賞の俺の作品は、「また次がんばってねー。」
ということで、本にしてもらえなかった。(笑)
仕方がないから、自分で何部か本をこしらえて、知り合いに配った。
そのうちの一冊が流れ流れて、その人のもとに行き、そこから
お手紙が来た、ということだったのだ。(一応住所はそれに
書いておいてあったので。)
で、その感想に文章についても、いろいろ書いてくださっていたのだけど、
その感想を読んで、俺正直に思ったのは
「そんな文章、書いてたっけ。」ということ。
俺、自分が書いてる小説でも学術論文でもそうなんだけど
書き終わったら、すぐに忘れてしまうのだ。
いや、確かにね、こういうテーマについて、何を調べてどう
書いて、こういう結論を出した、ということは記憶にはあるのだけど
その論文の中での細かな言い回し、たとえば。
こんなことを言ってた、って細かい部分までは
覚えていなかったりする。
実は論文でもそんなことがあってね。(笑)
「あなた(謙介)はその論文の中で、こういうふうに
書いているのだけど、、、」っていわれて
え?え? って焦ったりする。
俺の論文は他の人からあまり、突っ込まれたり
反論される、というのが比較的少ない。
というのも、作品の中の語彙を数値化して、その単語が
全体の中での割合でいうと何パーセントあって、だから
こういう傾向がある、ということを書いてあるから、
その数字を見たら、誰だって「あ、そういう傾向になるよね。」
というふうなもので、反論が少ない。
ただ、文学とか歴史の解釈になったら、そうはいかないよね。
たとえば、古事記を暗唱してた稗田阿礼って
古事記学会の中では未だに男だったか女だったか
決着がついてないくらいだもん。
で、俺の論文のことなんだけど、
ある方が、謙介の書いたものについて質問をしてくださった、
のだけど、俺ときたら、
「え? そんなこと書いたっけ。」と
全然覚えていなかった。 すみません。
小説はともかく、論文で自分の書いたことを
覚えていない、っていうのはよくない、と自分でも思う。
学会の発表で、「あなたはあの論文で××は
△△だとおっしゃっていますが、、。」と言われて
「え、そんな大胆な表現使うとったかいな。 ホンマやろか?」
って、慌てて自分の書いた論文を見て、「あーーすごい
こんなこと言うてはるわ。大胆やこの人。」なんて
感心してたりして。きっと書いていたときに気分が高揚でもして
たのかもしれない。
「そんなん、あかんやないか。きちっと自分の書いたものは、一言一句
ゆるがせにしたら、あかんで。文学とか語彙・語句の研究してる奴が
そんな甘い認識でどないするのや。」
と学部生のときも院生のときも恩師に怒られっぱなし
だったのだけど、どういうものでしょうねぇ、、。
書き終わった自分の文章について、今も
やっぱり忘れてる。
ただ、自己弁護になるかもしれないけど、人間実際に
自分の手で書いたものは、忘れてはいないと思う。
確かにその瞬間は意識の表に出ては来ないかもしれない。
けど、表面を落ち葉が覆って、地表が見えなくなっている
のと同じように、何かの加減で覆ってる落ち葉が
風に吹かれて移動してしまうと、隠れていた地面が
顔を出すことってあるよね。そう、そんな感じで
俺は、自分の書いた文章を不意に思い出すことだってある。
ねいちゃんにこないだその話をしたら、
「宿題済んだ、済んだ。で、チャラにして
スカッとしたいのんと
ちがうの?」 と言われた。
そうだそうだ。言われてみてはっきりした。
俺にとって小説も論文も宿題だったんだ。
当面片づけなければならない宿題は2つ。
大人になっても宿題は続く。
おまけに解答は、だんだん難しくなるばかり
やれやれ。一体いつになったら、こんな宿題を超越した
人生を送ることができるようになるのだろう。
(今日聴いた音楽 長唄 勧進帳 唄第14代杵屋六左衛門 15世杵屋喜三郎
杵屋六七郎 三味線杵屋六一郎 囃子望月太左衛門社中 録音年月日不明)
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Comments
新人賞おめでとうございます!
私は日記の内容を忘れちゃってますね。時折、降り返って読むと
当時が思い出されて懐かしいのですが、「そんなことあったっけ?」って
思うことが良くあります。
Posted by: yasu | 06. 12. 13 PM 9:45
こんばんは
ちょっと前のことだったんですけど、原稿書いて出したら
いただきました。それはともかく、
そうですよね。毎日の生活だって、おっしゃるように
少し前、たとえば3ヶ月くらい前のこととか、覚えてる?
って言われたら、俺なんか相当に怪しいです。
日記を見て、そうそう、この日はこんなことをしてた
なんて思い出したりする始末です。
お話、俺もすごくよく分かります。(笑)
Posted by: 謙介 | 06. 12. 13 PM 9:51
大人の宿題、頑張ってください。
新人賞、おめでとうございます。
Posted by: holly | 06. 12. 14 PM 2:18
賞をいただいたのは、ちょっと前のことになるんです。
ゲイをテーマにした小説ではなくて、俺の亡くなったじいちゃんの
ことだったんですよ。
宿題、今年中になんとかしなくちゃ、と思っていたのが
今になってもできていません。
ときどきそれでうなされる夢も見ます。
病院で、いろんなことを考える時間はありそうなので
せめて大まかな部分くらいは
考えておけたら、とは思っているのですが、、。
はてさて。
Posted by: 謙介 | 06. 12. 14 PM 9:07